その年の夏だっていつもと変わらない予定だった。 だけどそうは行かないのが世の中らしい……。 ある夏の物語 今年の夏も俺はじいちゃん夫婦の営む店の手伝いへとやってきた。 じいちゃんたちの店は町から少し離れた山の中にぽつんと存在している。日用雑貨とか食品とかいろいろ置いてある便利屋。今で言うコンビニみたいなもん。だけど本当のコンビニとはとても比べられるもんじゃない。俺が言うのもなんだけどこの店が続いてるのは奇跡に等しい。 店はかなり小さく、エアコンなんてない。基本的に道路に面した壁は全部取っ払ってあってそこから山風を入れてる。お陰で涼しいけど、やっぱり真夏は厳しい。営業時間だって朝の八時から夜の七時まで。俺が手伝いに来たときは夜の九時までやってる。 平日なら閑古鳥が鳴くような立地のこの店だが、土日や特に今のような長期休暇では姿が全く違う。 なぜならこの山には複数の合宿施設があるからだ。その生徒達が来れば午後は結構忙しい。閑古鳥も何処へやら。いつの間にか生徒達の笑い声でいっぱいになる。 潰れないでいてくれるのは孫として嬉しいけど、毎年夏休みをここで過ごすのは流石に寂しい気がする。 出会いも、トキメキもない。あるとすれば少量のバイト代。その少しのバイト代のために今年も俺の夏が過ぎ去っていく予定だった。 だけど、今年は違ったらしい。 俺は一人の女の子が気になってる。恋とかどうかわかんないけど、とりあえず気になる子。 それはやっぱりこの山の合宿所に来た女の子で名前は知らない。 色んな学校から生徒が来てる所為で何処の学校かも分からない。 だけど、存在感だけはあった。 だってすごい可愛い。 モデルとかアイドルとかまでは行かないけど、学校にいたら多分噂にはなるくらい可愛いと思う。 年は俺より少し下ぐらい。 何時も笑ってて、友達と思しき女の子達と楽しそうに買い物をしていく。 少し濃い茶色の髪に綺麗な青い目の女の子。 その子のおかげで、俺の今年の夏は楽しく迎えられている。 「でもさ、そんな偶然てあるか!?」 そんな俺は今、山のふもとの商店街に来ていた。 じいちゃんのお使いで仕入れに来てたんだけど、思わぬ姿を目撃する。 あの子がいたんだ。 あの『気になる女の子』が。 見間違える分けない。確かに何時も体操服を着ていて、今日はワンピースを着てるけど、絶対にあの子だ。だって、俺だけじゃなく同年代の男子も彼女をやっぱり目にとめてる。それ位目立って、可愛い子ならやっぱりあの子だ。 「声、かけるべきか?」 ここで会えたのも何かの縁。きっと声を掛けろと神様がチャンスをくれたんだ。 そう心では思ってる。でも、 「互いに知らない仲だしな……」 それが今一歩踏み込む勇気をくれない。 俺は彼女を知っている。 でも、彼女は俺を知らない。 店員と客。 接点と言うにはあまりにも無理がある関係。 普通に『お茶しない?』とか俺が言えるはずない。 モテないのを自覚しているからだ。 当然ナンパとかもしたことが無い。 だって、好きでもない人と何を喋れって言うんだ? まぁ、好きな人なら喋りたいとは思うけど……。 あれ? 俺今『好きな人』て言った? ならやっぱり好きなのか? って、そうじゃないだろ。今は声かけるか、かけないか。 目をつぶって悩む。 彼女は五十メートルくらい先の服屋のウインドウを見てる。 俺はって言うと、お茶屋さんの看板の傍で立ってる変な人だ。 もう十分に不審者。 ああ、もうどうすれば良いんだよ! 「あの……大丈夫ですか?」 「え?」 思わず振り返る。 そして目を疑った。 「え!?」 あの子が、あの可愛い子が俺の目の前にいる。 と言うか一方的に俺が見上げられてるわけだが、とりあえずいる。 なんで? なんで? 確かに悩みすぎて、彼女に背を向けるようにして一旦、彼女を視界から消したけど、それが彼女が目の前にいる理由にはならなくて。 混乱する俺。 そんな俺を見て彼女は一言こう言った。 「……あー! 合宿所の近くのお店のお兄さん!」 「なんで……わかったの?」 あぁ、神様はいたのか。 思わず心の中でそう叫んだ。 だって、俺って至って普通の顔だから覚えにくいらしいんだ。メガネもかけてないし、髪の毛も染めてないし、体系とかほくろとか全くと言って良いほどインパクトがない。その俺を分かったんだもん。不思議でたまらない。 「お兄さん、ですよね?」 「あ、うん」 緊張して、単語しか喋れない。クラスメイトの女子とは違うような感覚。言葉が上手く出てこない。 「あの、大丈夫ですか? さっきから顔色悪そうだったから声かけたんですけど……」 もしかして、さっきの二十面相見られてた? だとしたらものすごく恥ずかしい。 「いや、大丈夫。うん」 そりゃ大丈夫だろ。今、悩む理由がなくなったんだから。 そして心の中の誰かが叫ぶ。 これを期にお茶に誘えと。 「えーと……よく分かったね。俺って」 って、違うだろ! 何言ってんだ! 心の中で慌てふためく自分がいる。もう、大混乱だ。 「え? そんなに変でしたか?」 「うん。俺って特徴ないからよく影が薄いって言われるんだ」 悲しい事実を告げる自分の口。 もう、無理に話すのはやめよう。この子の話にあわせることにした。 「あ、それはですね。私が食い意地が張ってる所為だと思います」 彼女は恥ずかしそうにそう言った。 食い意地? 「一昨日、お兄さんのお店に買い物に行ったときに、お兄さんが食べてたハンバーガーが凄くおいしそうだったから、それと一緒に覚えてたんです」 あ、そういうことね。 いわゆる記憶の連鎖ってやつ? それを聞いたらなんだか少し寂しくなった。 彼女が覚えてたのは俺の顔じゃなくて、俺が食べたハンバーガー。 なんか、ぬか喜び。 「あの、お兄さん今暇ですか?」 「え? あ、うん結構暇」 じいちゃんの仕入れも終わったし、何もやることないから。 「なら、あのハンバーガーのお店連れて行ってもらえません?」 その瞬間、俺の頭に祝福の鐘がなった。 街中の歩く俺と彼女。 今日は最高についてる日らしい。 「あのハンバーガーって、パン屋さんのだったんですね。しかもスーパーに入ってる」 彼女は嬉しそうにハンバーガーの入った紙袋を胸に抱いている。 やっぱり近くで見ると更に可愛い。 すれ違う同年代の人間が振り返ってるもん。 「うん。俺が小さいときからあのスーパーに入ってるよ。だけど、君は目が高いね。ここのハンバーガー本当においしいから」 「そうなんですか? なんか嬉しいかも」 さっきから笑顔を絶やさない。 やっぱりこれってデートなのか? ……そういえば俺、彼女のことあまり知らないな。 思い切って聞いてみよう。 「あの、さっきから話してるけど、君の名前は?」 「あ、ごめんなさい。名乗り忘れてましたね。私はハルカと言います。城都学園の生徒です」 それを聞いて俺は驚いた。 城都ってあの有名な金持ち学園の城都!? だとしたらこの子はかなりの金持ちってこと?? 「お、お嬢様だったんだね」 失礼かもしれないが、普通の女の子だと思っていた。 だって、まさかあの城都の生徒がうちのような小さな店に来るとは思わなかったから。 「うーん……それは違うと思いますよ?」 俺が思っていた事を見透かしたかのように彼女は俺の言葉に返事をする。 「私、元は公立出身だったんです。だから根っからのお嬢様って訳ではないんです。いたって普通の家庭ですし、勉強もやっとなくらいですから」 そういわれても、俺の中で芽生えた『お嬢様』と言う文字は消えない。 その上かなり切ない気持ちになってきた。 俺と彼女じゃ、壁がありすぎるって。 なんだよ、この漫画みたいな展開……。 「お兄さん?」 「あ、ごめん!」 思わず我に返る。そうだ、彼女……ハルカちゃんには何も悪い所はない。 自分の我侭な気持ちで彼女を不安にさせるというのはお門違いだ。 しかし、それはハルカちゃんに伝わっていたようで、彼女は表情を曇らせる。 「もしかして、暑さにばてちゃったんじゃ……」 「いや、違うよ? あの、俺って元々こういう顔だからさ」 いやいや。フォローするにも限界があるだろ。 と、自分に突っ込みを入れていると、彼女は笑ってこう言った。 「あの、良かったら少しやすみませんか? 良いところに小陰のある公園もありますし、私何か冷たい物買ってきますね!」 そう言うとハルカちゃんは待ち合わせ場所を決めて、近くのコンビニへと入っていった。 俺はというと、言われるがまま、陰になっていた公園のベンチに座る。 確かに少し涼しくて気持ちが良い。 少しだけまどろんでいると、駆け足が近寄ってきた。 「お待たせしました!」 相変わらずの笑顔で、ハルカちゃんは買ってきた何かを俺に差し出す。 どうやらアイスのようだ。 「私のおごりです。パン屋さん教えてもらったから」 「あ、ありがとう」 男として奢られるのはどうかと思ったが、ここは甘えておこう。 実際、バイト代貰うまでピンチだし。 「私も同じの買ってきたんですよ」 確かにハルカちゃんの手には俺と同じアイスが握られていた。 そして彼女はその封をあけ、中身を取り出す。 どうやら棒のアイスのようだ。 一般的な長方形のアイスに持ち手の棒がささっているタイプ。 でも見たことないアイスだ。新商品かな? そう思っていると、そのアイスの見た目に思わず声が漏れた。 「空みたい……」 「え? やっぱり、やっぱりお兄さんもそう思います?」 小さな声に反応を貰ったに驚いて、思わず後ろに下がる。 「え? 俺、なんか変なこといった?」 「いえ、そうじゃなくって、私と同じことを思った人がいたのが嬉しくて。これやっぱり空に見えますよね?」 アイスはクリームソーダのアイスらしい。 水色のソーダと白いバニラが迷彩のように混ざった表面をしている。 まるで青空に浮かぶ雲みたいに。 だから空に見えたんだけど、ハルカちゃんはそれが嬉しかったらしい。 うん、俺も嬉しい。好きな人と同じこと思ったってことが。 「これ、おいしいんですけど置いてるところ少ないんですよね。コンビニにあったのも奇跡に近いかも!」 アイスを一口運んだハルカちゃんは嬉しそうだった。 食い意地がはってるとか言ってたけど、本当に食べることが好きなんだな。 こういう人なら見てて飽きないかも。 「おいしい! あ、どうぞ食べてください。溶けちゃうかも」 「うん。それじゃ、いただきます」 俺も封を開けて、アイスを食べる。 「あ、うまい……」 予想以上においしかった。これなら彼女が態々探すのも頷ける。 バニラの甘さとソーダの爽やかさが丁度良い感じだ。冷たさも今の体に嬉しい。 「でしょう? なのになんでおいてないんだろう? 人気がないって聞いたこともあるんですよね」 「本当だね。もったいない……」 「これ、私は空色アイスって呼んでるんです。青空を見上げると元気が出るように、このアイスも食べると元気になるような気がするから」 「そうだね、このアイスにはピッタリだね」 二人で他愛もない事を話してアイスを食べる。 あー、本当に冷たくて暑さが遠のく。でも、なんか忘れてるような…… 「あっ」 もしかして俺は一番聞かなきゃいけない事を聞いてないのでは? アイスを食べていて思い出した。 俺、ハルカちゃんに彼氏がいるか聞いてない。 そうだよ、話すことが出来たんだから、次に進まなきゃ。 「あの……ハルカちゃんてさ、彼氏とかいるの?」 思い切って聞いてみた。 するとハルカちゃんは目を丸くして、アイスを噴出しそうになる。 「ご、ごめん! なんか聞いちゃいけないことだった?」 「いえ、違うんです。あんまり聞かれない質問だからちょっと驚いただけかも」 その答えに俺が驚いた。 こんなに可愛いのに、そんな質問をされないなんて。 「え? じゃぁ、もしかして……」 「はい、今はいません」 苦笑して答える彼女。だが、その答えは俺としては嬉しかった。 だけど、 「彼氏はいらないって思ってるんです」 次の答えでその気持ちはまっ逆さまに落ちる。 ゴールに着くどころか、スタート地点にすら立てないの? 「な、なんで?」 アイスが溶けるのも忘れて、俺は理由を聞いてみた。 「私、弓道やってるんですけど、どうしても勝てないライバルがいるんです。そいつには今のところ勝る物は何もなくて。勉強も運動も、なにもかも。だからせめてそいつには弓道で勝ちたいんです。それを達成するまではその子の事で頭がいっぱいなので、彼氏は作りたくないんです」 なるほど。そういうことね。 彼女は今、恋をするときじゃなくて、部活に励みたい時なんだ。 なら、頷ける。 だけど、それが達成するまでは俺も彼氏にはなれないって事だよね? 「はぁ……」 思わずため息がこぼれた。 彼氏がいらないって言うのはやっぱり辛い。これ以上距離を縮められないからね。 「お兄さん?」 「あ、なんでもないよ、なんでも。でも、ライバルの子って聞くと完璧な子なんだね。仲は良いの?」 何とかして話をそらす。これ以上ハルカちゃんに不安を抱かせちゃいけない。 「はい、仲は良いと思います。そいつとは城都に入る前から一緒で、実家は同じ町だったんです。それにクラスも一緒でしたし。今もクラスも一緒で部活も一緒。あ、委員会も一緒です」 聞く限り、その子はライバルであり、きっとハルカちゃんの親友なんだろう。 何時も一緒に買い物に来てたあの女の子かな? 「一度会ってみたいね、その子に」 「あ、そうか。あいつ殆ど買出しに出ないからお兄さんとは会ったことないかもしれませんね。今日会う予定だからもしかしたら会えるかも……って、ぎゃ! もうこんな時間だ!」 公園の時計を見て悲鳴を上げるハルカちゃん。 彼女が町にいた理由はそれか。 きっと買い物か何かをする予定だったんだろう。 「うわー、怒られるかも。待ち合わせ場所は確か近くの……げ!」 慌てふためくハルカちゃんの顔が止まる。 真正面を見たまま凍っていた。 一体何が…… 「……相変わらず、美しくないね。待ち合わせの場所に来ないなんて」 ……え? 思わず自分の目をこする俺。目の錯覚か? 今視界に、凄い美少年が見える。 知らないはずなのに、知っている緑の髪の美少年。 何で知ってるんだろう。 えーと、えーと………あ! そうだ。うちに買い物に来た女の子達が騒いでた男の子の特徴に似てるんだ。 緑の髪と目を持った美少年が合宿所に来てるって。 で、確かクールそうで言葉が丁寧な子で城都学園で……。 ……ん? 城都学園? その記憶の人物と、さっきのハルカちゃんの言葉が何故か一人の同じ人物をさしているように見えた。 もしかして…… 「ハルカちゃんの言ってたライバルって……」 「はい! 彼のことです。私のライバル、シュウです」 紹介されたその美少年は俺に頭を下げる。 えー! ライバルって言うからてっきり女の子だと思ってたのに……男子!? しかも、さっきの話しを聞く限り、そして見る限り俺、勝ち目全く無いんですけど? 「お兄さん?」 「ん? あ、はい」 ハルカちゃんが呼び戻してくれた。 そうだよ、トリップしてる場合じゃないって。 「ど、どうも」 「こんにちわ。えーと……」 「あ、えーと、君たちの合宿所の近くで店をしてる者です。ハルカちゃんとはさっき話したばかりで……」 「おいしいハンバーガーのお店を教えてもらってたの。シュウの分も買ってきたから、あとで食べるかも!」 「また、食べ物なんだね……。すいません、また彼女が人様に迷惑をかけたようで」 「ちょ、ちょっと! 何も失礼なことはしてないかも!」 「初対面の人に道案内させた上に時間までつぶさせてるんだろう?」 仲が良いという割には、二人は喧々囂々としている。 これが世に言うあれ? 喧嘩するほど仲が良いってやつ? とりあえず、止めないと。 「あの、俺のことは良いから。二人ともこれから用事があるんだろ?」 「あ、そうだった! シュウが変なこと言うから、忘れかけてた」 「またそうやって人の所為にする……」 良いコンビだな。 そう思った。 二人とも城都の生徒なのに、変にお高くないし、それに何より可愛い。 見ててなごむって感じだ。 となれば、俺は退散かな? 「じゃ、ハルカちゃん俺は行くね」 「あ、すいません。今日はありがとうございました!」 「ううん。俺も楽しかったし。アイスありがとうね。じゃ、シュウ君、たまにはうちで買い物頼むよ」 出来るだけ、俺は気丈に振舞ってその場を後にした。 あの貰ったアイスを無理やり頬張って。 結局、ハルカちゃんたちはあの日の次の日に城都学園へと戻っていった。 俺はというと、今年のバイトも終わり、少し跳ね上がったバイト代を貰って実家に戻り、部活動をしたり、友達と騒いで夏休みを過ごしている。 だけど、一つだけ心残りがある。 それはあの時、どうして自分の気持ちを伝えなかったのか。 だって、彼はライバルであって彼氏ではない。 でも、何故か入り込めないような気がして告白は出来なかった。 「お前またそれ食べてるのかよ」 「悪いか?」 アイスを食べながら俺の幼馴染である男子に返事をする。 ハルカちゃんの言っていた空色アイスは今の俺にはなくてはならないものになった。 これを食べてるとなんか落ち着く。 「だって、それ『失恋アイス』だろ?」 そう。 町に戻ってきてそれを知った。 このアイスは女子達の間ではそう呼ばれているらしい。 ソーダの水色は『涙』 バニラの白は『真っ白に忘れる』 涙を流して失恋の痛手を全て真っ白に忘れましょう。 これを食べるとそういう意味になるという。 だからこのアイスは人気が出なかったらしい。 それをは遠め『私は失恋しました』と言っているようなものだから。 だけど、残念ながら俺はそうは思わない。 「ぶわーか」 「お前、親友に向かってバカを溜めて『ぶわーか』はないだろ! 『ぶわーか』は!」 「これはな、空色アイスって言って元気くれるアイスなんだよ」 「え? そんな名前のアイスだったのか?」 「正式名称は違うけど、少なくとも俺の知ってる噂はそれだよ。空を見て元気になるように、これも食べると空みたいにスカッとして元気になるぞ」 嘘はついてない。 俺の知ってる話は失恋じゃなくて、空色だから。 「一口よこせ」 「はぁ!?」 「俺、今月ピンチなんだよ。バイト代はいったんだろ?」 「しょうがねぇな。ほら」 かじってない方の角を友人にさしだし、食べさせる。 「あ、マジうま」 「だろ?」 「なんか、今まで食べなかったのがもったいない気がする」 「うん、俺もそう思った」 きっと、俺も彼女に出会わなかったら、このアイスを失恋アイスだと思っていただろう。 でも今は違う。 俺の元気の源。 「それにこのアイスは恋を応援するアイスらしいぞ」 「なに!? その乙女発言! 気持ち悪!」 「お前にはもう、食べさせん!」 「あー、ごめんて!」 失恋アイスは、 次の恋に踏み出す勇気をくれるために、痛手を忘れさせてくれる。 空色アイスは、 落ち込んでる気分を復活させてくれる。 多分やりたいことは一緒のはずなんだ。 だから態々名前を可哀想な方にすることない。 それに俺は空色の方が響き的に好きだ。 理由は好きな人と同じ意見をもてたから。 それに、これを食べてると、あいつにも負けない気がするから。 だから、あの子に彼氏が出来ない限り、俺は諦めないよ。 バカだって思うけど、しょうがないじゃん。 好きって気持ちに嘘つけないし、失恋した気分にもなれないんだから 何回も奇跡とか偶然が起きたんだしさ。 さて、腹を壊さない程度にアイスに応援してもらって頑張ろうか! ------------------------------------------------------------END--- 作者より…… だいぶ前に鳳炎編で書いた『もう一つの物語』の逆バージョンです。 シュウを好きになる女の子がいるんだから、 ハルカを好きなる男子がいてもおかしくないだろって事で。 アイスはその物語との共通性を持たせるために使ったのではなく、 いつの間にかアイスがキーワードになっていました(笑) 私は無理に恋は終わらせなくて良いと思うのです。 例えば好きな人に好きな人がいる、好きな人に恋人がいる。 人を好きになったことのある方ならば経験したことがあるのではないでしょうか? 別に、寝取れとか略奪を進めるわけではありません。 だけど、心まで嘘はつかなくて良いと思うのです。 好きな人に好きな人が出来たって知って直ぐに諦められるはずが無い。 泣いて、喚いて、新しい恋をする人もいれば、 その好きな人を思い続ける人もいると思うのです。 自分の考えに踏ん切りがつくまで、思い続ければ良い。 そうしたらそのうち踏ん切りがつく事もあるかもしれないし、 新しい恋が向こうからやってくるかもしれない。 そんな恋模様を今回は書いてみました。 ただ、彼の恋が報われることは無いと思う(苦笑) その代わり、彼には良い恋が見つかる予定です。 因みに空色アイスはアイスを食べていて知り合いに言われた言葉です。 このアイスそのままの模様のアイスを見たとき、友人が言ってました。 こんな風に巷で別名を言われる食べ物を見るとまたそれも青春だと思います。 学生さんが圧倒的にそういうことに早いから(笑) また何か面白い食べ物に関した噂があれば是非書きたいなと思いました。 2008.7 竹中歩 |