結局つまりはそういう事



 城都学園女子寮。
 それは家から城都学園に通うことが困難な女生徒のために作られた生活空間。
 お金持ちの学校と言うだけあって、一つ一つの部屋はかなり使い勝手が良い。
 だから、一部屋に4、5人の生徒が集まってもあまり狭くないのも当たり前。
「明日どうする?」
 声を発したのは一番入り口近くに座っているこの部屋の主の少女。
 確か鳳炎学園からの交換生としてきた少女だ。名前はアカリ。
「うーん、久々だよね。皆がこうして集まるのも」
 アカリから見て右側に座っている少女はツカサ。大変食いしん坊という事もあり、先ほどからスナック菓子の袋を離さない。
「何の当てもなく町をブラブラするって言うのは?」
 ツカサの真正面。つまりはアカリの左脇に座るのはタカコ。
 何時もは耳の下辺りで結わえている二つ結びも、風呂上りということでほどいている。一見誰か分からないほど髪の毛が長い。
「私それ賛成かも! 何時も目的あるのつまんない!」
 アカリの真正面。ツカサとタカコにはさまれる形で座っているのはハルカ。
 このメンバーで一番のトラブルメーカーで、かなりの暴れ馬。しかしながら、男子からの人気はこの少女が一番高いだろう。

 今日は鳳炎学園から来た同じ年の女の子ばかり集まっての喋り会。
 今は明日の予定を立てている最中。土曜日の夜とあってか会話にも花が咲く。
 皆で持ち寄ったお菓子を、パジャマやジャージの姿で食べて、どうでも良い事を話 す。お金を使わなくても、それだけでも十分に楽しい。

「じゃ、明日はそれで決定ね! あ、アカリこの雑誌買ったんだ」
 ツカサは明日の事を決定打したあと、ある雑誌へと目が行く。
 それは昨日アカリが買ったばかりの雑誌。この年齢の少女なら読まない人間はいないだろうと言うくらい有名なティーンズ雑誌だ。
「うん。発売日だったからさ。終わったら皆に回そうと思って」
「ありがとう。でも、今ちょっと皆で見ちゃわない?」
「あ、私も見たいかも!」
「私も見たい! そろそろ新しい季節のヘアアレンジ載ってると嬉しいから」
 少女達はわいわいきゃぁきゃぁと雑誌のページをめくる。
 最初のページは流行の服。
 今年はあれが流行り、このグッズが良い、これはNGなんて皆で見ながら話しながらページをめくる。
 次は占い。
 私は運勢悪い、私は良い方なんて喜怒哀楽しながら見つめる。
 暫くページをめくって行くと色がなくなり文字ばかりのページへとなった。
 大抵そこは恋の話のページ。
 今こんな恋してますとか、昔こんな酷い彼氏がいたんですとか自分のことじゃないけど、なんだか共感できるページだった。
 そして中盤に差し掛かった頃、こんな見出しを見つける。

『あなたの心のイケメンは?』

 それはこの今月号のサブ企画。
 表紙から次は見開きページになっており、約二十人程の同年代の男の子達が思い思いのポーズで写真に取られていた。
 ここからはカラーページなので髪の色や服のセンスもよく分かる。
「これって、街でカッコいい男の子を撮ってくるやつ?」
 アカリはジュースの入った青いグラス片手に雑誌を見る。
「だと思うよ? 結構他の雑誌でもやるよね」
 いつ開けたのか? 既にツカサのお菓子の袋は新しい物に変わっていた。
「あ、うちの学校の生徒もいるよ?」
 タカコが一人の男子を指差す。しかしながらそれは知らない男子。
 マンモス学園と呼ばれた城都では知らない人間の方が知っている人間より遥に多い。
「……ねぇ? 皆はどの人が好み?」
 ふと、ハルカがポツリと呟く。
「「「え?」」」
 思わず他の三人の声が揃った。
「これだけ人がいるんだもん。好みの人くらいいるんじゃない?」
 ハルカはニヤニヤと笑っていた。
 あぁ、この子は絶対この状況を楽しんでる。
 何時もは自分がこの手の話を振られるものだから、今日は自分から振ったんだ。
 三人はそう確信する。
「いるって言っても……それって彼氏もちの人間には失礼じゃない?」
「……え? もしかして私のこと言ってる?」
 びっくりしてアカリはツカサの言葉に自分を指差す。
「アカリちゃんの場合はマサル君が当てはまっちゃうから聞いても意味ないよ?」
 にこりと微笑んでタカコがハルカに伝える。
「いや、確かにそうなんだけど、好きになる人じゃなくて好みの人。あれだよ、観賞用なら誰かが良いかって話かも」
 観賞用とは酷い発言だ。
 しかしながら言いたいことはよく分かる。
 好きになる人と見ていたい人は違う。
 多分ハルカはそう言いたいのだろう。
「ね? 遊びだからそこまで深く考えないで?」
 半ば強引にハルカは全員の承諾を得ようとしている。
「……ま、遊びならいっか。本人達もいないし」
「アカリ、あんたの場合『本人いないし』て言うのが普通じゃないの? 何で本人達?」
「え? シュウとかタカシ君とか聞いてたら可哀想じゃない? あんたの幼馴染は気にしないかもしれないけど」
 アカリはツカサのツッコミに平然と答える。
 しかしながら反論が帰ってきたのはハルカとタカコからだ。
「ちょっと、何でシュウが出てくるのよ!」
「あの、あの……なんでタカシ君が……」
 いや、答えを聞かなくてもその顔が全てを物語っている。
 言葉は違えど、二人とも顔が真っ赤だ。これが世に言う『顔に書いてある』と言う状況だろう。
「まぁまぁ。遊びなんでしょ? なら、やっちゃおうよ」
「ぶー……。分かったかも。この話私から振ったんだしね」
「私も……良いよ? みんなの好みちょっと気になるし」
「私は最初から良いよ!」
 全員のアポは取れた。
 それでは行ってみよう!


 アカリの場合
「私はこの人かな? この髪型がなんか好き。これであとここに得意分野が数学じゃなくて部活とかだったら良いんだけど。あ、物事ははっきり言ってくれた方が良いかな?」

 ツカサの場合
「私はこの人とこの人。楽しそうじゃん。一緒にいて。やっぱり一緒にいて楽しい人が良いよ」

 タカコの場合
「この人が良いかな? 趣味が合いそうだから……。一緒にいて落ち着く人っぽいし。だけど、この人やさしい人かな? 優しい人が良いな」

 ハルカの場合
「私は断然この人! 非の付けどころなさそうだから! だけどナルシストな点はいやかも! もてても良いけど鼻にかけないタイプが良い」


 この話が終わったあと、全員は沈黙する。
 そして、暫くの沈黙の後、ハルカが口を開いた。
「あのさ、アカリの好みの人って言った人、髪型マサル君に似てない? それにはっきりと物事言うって……」
「そんなこといったら、私だけじゃなくてツカサもそうでしょ? この二人ナギサとサナエに似てるし! 面白そうな所!」
「で、でもそれだったらタカコちゃんもそうだよ? この人の趣味って古事記って書いてるし、タカシ君って優しいからそのまんまじゃん!」
「そ、そそれは! ……あ、ハルカちゃんだってこの完璧な人シュウ君に似てるよ? もてても鼻にかけないタイプって態々言ってる所!」
 気がつけば全員顔を真っ赤にして全否定。
 だから、誰が好きなんでしょ?
 だから、これはあの人のままじゃない?
 だから、慌てなくても良いよ?
 全員が全員、プチパニック。
 それが五分ほど続いただろうか?

『パンッ』

 アカリが思わず手を叩いた。
 それはメンバーの中では静かにしなさいと言う合図。案の定他の三人は言葉を発する事をやめた。
 そして……
「……ぷっ!」
 誰が噴出したかはわからない、いやもしかしたら全員一緒に噴出したのかもしれない。
 それぐらい可笑しかったのだ。
「ハルカ……やっぱりやっても意味なかったね」
 アカリがハルカに言葉をかける。
「そうかも。聞くだけ時間の無駄だったね」
 ハルカは目線をタカコへとやる。
「だけど良いんじゃないかな? 皆それがタイプだっていうなら」
 タカコがツカサへのコップにジュースを注ぐ。
「だよね。タイプなんて所詮言葉だけだよ」





 そうだ。
 女の子なんて実はそんなもの。
 気がつかなくても実はいつの間にか近い人を選んじゃうんだ。
 でも、それで良い。
 それがなんだか嬉しいから。
 だから今日は語り明かそう?
 言葉には出来ないけど、
 名前は出せないけど、
 本当はどう思っているのかも分からないけど、
 何時も気にしてる、
 その人たちの話題で。










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 作者より……
 今回久々に実話を引っ張り出しました。学生時代の実話です。
 少しばかりは脚色は加えましたが、行動とかは似てます。
 好きな人とか気になる人とかの話で盛り上がる女子の話。
 芸能人ではなく、学生アルバムとかで好み人って誰?と
 友人に聞いた時、友人は彼氏そっくりな人を選びました。
 因みに他の友人はその時好きだった人に近い人を選びました。
 恋って凄いと思った瞬間の一つです。
 なんでもその人に結びついてしまうんですね。
 恋する友人達曰く、
 『好きな人に関連する物にドキドキする』
 例えばそれが
 好きな人が好きなお菓子だったり、
 好きな人の色だったり、
 他愛もないもののはずなのに、それが関連する物と
 分かった途端にそれはその人にとって特別な物に
 変化するのはないかと思います。
 結構甘い話で申し訳在りません(汗)
 これが男性の目にはどう映るのか凄く気になります。
 男性もやっぱり一緒なのでしょうか?
 だったらやっぱり恋って凄いですよね。
 2008.6 竹中歩