残暑が厳しい夏休みの終わりごろ……
 城都学園の入り口に一人の教師の影。
「ここね……新しい学校は……」
 一体、この人物は誰なのだろうか?








保健室の先生登場








「たっだいまー!!」
 城都学園女子寮玄関。
 館内すべてに響き渡るのではないかと思うくらいの大きな声で、ハルカは帰宅を知らせる。
「あら、お帰りなさい、ハルカちゃん」
 ハルカが帰宅を知らせたかった相手は女子寮の寮母さん。
 一昨年からこの寮で住み込みで働いている五十代の女性。元気と優しさと、時々怖いけど、それがお母さんのようで女子寮の生徒から慕われている素敵な女性である。
「相変わらず元気そうね」
「はい! 里帰りして元気充電して来ました!」
 修学旅行に使うような旅行かばんにお土産と思われる紙袋を玄関の入り口に置く。
「これは寮母さんにお土産です! 絵南の方では有名なお菓子なんです。よければどうぞ!」
 綺麗な包装紙で包まれた菓子折りをハルカは紙袋から一つ取り出し寮母へ渡す。
 寮母は厳寒にある受付窓口のようなところからそれを受け取ると、
「ありがとう。気を使わなくても良かったのに……みんなの分のお土産で重かったでしょう?」
「そんなことないですよ? お土産渡すときって皆うれしそうにしてくれるから、私それが嬉しいんです! だから、重いとかあんまり考えなかったかも」
「ハルカちゃんらしいわね。でも、シュウ君に半分くらいは持ってもらってたんじゃないの?」
「え?! いやぁ……」
 確信犯のようににやっと笑う寮母さんの質問にハルカは口を噤む。
 実際そうなのである。
 今回の絵南への里帰りはシュウと一緒に行って来た。一緒に関連系へとこちらの学校へやってきた友人とは部活動や時間の都合が合わなかった為、一緒に帰ることが出来ず、最終的に……というか、案の定シュウと二人での帰省。
 そして寮母さんの言うように学校の入り口までシュウに荷物を持ってもらっていた。しかもお土産の三分の二も。
「その反応だとやっぱり持ってもらってたのね。シュウ君優しいから……」
「優しくなんてないですよ! お土産持ってもらってもらってる間『どうして後先考えず、すぐに買うんだ』とか『君は自分が食べる分のお土産が多すぎる』とか散々言われたんです」
 ここに帰るまでシュウに言われた嫌味を寮母さんに語るが、寮母さんは
「本当に二人は仲がいいのね」
と笑って聞いているだけ。
 それを見てこれ以上はなしても無駄だと分かったハルカはシュウ絡みの会話をここでやめる。
「もう……寮母さんにはかなわないな……。あれ? そういえばなんか寮母室、片付いてませんか?」
「あ……そうか……ハルカちゃんは居なかったから知らなかったのよね? 私ね夏休みいっぱいで引っ越すの」
「えー!? なんでですか!?」
 いきなりの事実に驚きを隠せないハルカ。
「元々はね、私は昨年度いっぱいで辞める予定だったの。だけど、新しく来る予定の寮母さんが都合で一学期遅れるって事になって、それで夏休みまで此処に残ってたのよ」
「そうなんですか……なんかショックかも」
「ごめんね、新しい寮生に『私は今学期でここを離れます』なんて言ったら馴染んでくれないと思って夏休みまで黙ってたのよ。それでこの前食堂で発表したんだけど……ハルカちゃんもう里帰りしてたから……」
「うー……家が遠いから少し早めに帰ったのが仇だったかも。でも、本当残念です。せっかく仲良くなれたのに」
 帰ってきたときとは打って変わってしょんぼりと落ち込むハルカに寮母は優しく話しかける。
「大丈夫よ。辞めるといっても住み込みを辞めるだけなの。昼間は残っているわ」
「そうなんですか?!」
「ええ。住み込みは新しい寮母さんが勤めてくれるけど、お昼はね城都の先生らしくて寮には居られないんですって。だからお昼は此処で皆のご飯作ったり、寮の掃除をしているから毎日会えるわ」
「それ聞いて安心したかも! じゃ、休み明けからまたお願いしますね!」
「こちらこそお願いね」
「はーい! あ、じゃ私引越しのお手伝いしましょうか? あんまり手伝えるか分からないけど」
「え? でも帰ったばかりだし、それに宿題とか……」
 それを言うとハルカはふふふと笑ってブイサインを示す。
「里帰りの最中、シュウに教えてもらって全部やってきちゃいました!」
「まぁ……凄いわね。私てっきりハルカちゃんは最終日にヒーヒー言いながらまとめてやる子だと思ってたのに」
「りょ、寮母さん……」
 遠慮なく言う寮母に少し突っ込みを入れたくなるがそれは否定できなかった。
「まぁ、シュウと出会うまではそうでしたけど、シュウと出会ってから毎年お盆のあたりに片付けるようなっちゃったんです。そのあたりになると宿題やるよってメールくれたりして」
「まるでお父さんね。シュウ君」
「あ、それはあるかもしれないです。世間一般で言う口うるさい父親みたいなところはピッタリかも」
「シュウ君聞いたら怒るかもしれないわね」
 好きな女の子にお父さんと言われて喜ぶ男子は早々いない。そしてそれはきっとシュウも当てはまるだろう。
 そんなことを思いながら少し寮母は笑うと、さっきハルカが言っていたことをお願いすることにした。
「じゃ、お願いしようかしら? 引越しの手伝い」
「任せてください! 手先は器用じゃないですけど、体力は並みの女子よりありますから」
「頼もしいわね。では早速……」
「はい!」
 こうして、ハルカは寮母の引越しの手伝いを始めた。










「遅い……」
 一方、こちらはハルカと一緒に絵南から城都へと帰ってきたシュウ。
 彼は男子寮の廊下を歩いていた。
「荷物を部屋へおいたら昼ごはん食べに行こうといった本人が……」
 まだ来ない。というか連絡すら取れない。電話は繋がらないし、メールも同じく返信が来ない。となれば女子寮に行くしかない。
 この城都の男子寮とと女子寮は生活棟と言う食堂や洗濯場を兼ね備えた三階建ての建物を通して繋がっている。
 繋がっていると言っても一階にある食堂だけが繋がっており、その他の二階にある洗濯場や三階にある談話室などは食堂を挟むような形で女子寮と男子寮それぞれにある階段を上がっていくしかない。
 そのような構造になっているのは夜中に男子と女子が行き来するのをとめるため。なので、その階段が見える位置にそれぞれの玄関と見張りとなる寮母の部屋と受付の窓口がある。
 因みに異性の部屋に行く場合は必ず向かう方の寮母室の前を通り、女子寮へ行くことを告げなければならない。これは寮に寮生以外の人間が入る場合も同じである。 
「全く、あの言いだしっぺは……」
 取り合えずシュウは女子寮の受付を目指した。受付で手続きをするためである。
 その後はどこから探すか……等と考えていると男子寮の受付窓口から自分を呼ぶ声。
「シュウ君」
「どうかしましたか? おじさん」
 男子寮の寮母と呼ばれる人は男性である。『寮父』と呼んだ方がいいかもしれない。
 朗らかな性格を持っている六十代の男性。その人が窓越しからシュウを手招きで呼んでいた。
「シュウ君に手紙だよ。里帰りしてる間に届いててね。早く読んだほうがいいかもしれない。すまんね、さっき帰ったときに直ぐに渡せばよかったんだけど、忘れてて」
「そんな。早めに里帰りしていた僕が悪いんです。気にしないでください。とりあえずありがとうございます」
 シュウは礼儀正しくお礼をすると、手紙を受け取り再び歩き出す。
 手紙の差出人は……鳳炎学園理事長と記されていた。
「ロバート理事長……?」
 これはさすがに早く見なければならない。
 女子寮を目指していた足は反対方向の男子寮へと向けられた。部屋まで戻ろうかと思ったのだが、運良く廊下に会ったベンチが空いており、幸いにも辺りに人も居なかったことからシュウはそこで手紙を読み始めた。





 シュウ君へ
 君たちが鳳炎から城都へ向かってようやく一学期が終わりました。
 転校してからはきっとあわただしかったでしょう。
 そちらでの初めての長期休暇は満喫しているでしょうか?

 さて、世間話はこのくらいにしておいて、今回の手紙の用件へ移ります。
 実は二学期にそちらの方へ私の友人が先生として行くことになっています。
 その人は学校間連携で一番シュウ君にゆかりのある人だと思ったので、
 シュウ君に手紙を出しました。
 もしも、機会があったら私が宜しくといっていたと伝えてください。
 きっと、これから先城都で君と深いかかわりになるはずの人物です。
 仲良くやっていってくれることを願っています。

 それでは、今日はこの辺で失礼しますね。
 君たちの頑張りに期待しています。

 ロバート





「知りあい……?」
 読み終わって一番最初に気になったのはやはり知り合いと言う言葉。
 しかも、自分が一番ゆかりがあると言う。
 一体誰のことなのだろうか?
「ロバート理事長の友人って確か……」
 ぞくり。
 思い出そうとしただけで背中にえも言われぬ寒気のようなものがまとわりくつ。
 思い出したくはないが、ロバート理事長の友人でシュウの知り合いと言うのは一人しか思い当たらない。
 鳳炎学園高等部保健医のハーリー先生。
 元々生徒を好き嫌いする傾向が強く、生徒からもあまり好かれていなかった先生。
 なよなよとしており、男性でありながら女性言葉でしゃべる癖が余計に生徒から距離を置かれていた。
 そんな先生と知り合ったのはハルカが関係している。
 ハーリー先生がもっとも苦手とする生徒の種類が『純粋な子』。
 いつも物事を真正面から見て、人の言うことをまっすぐに受け取るような素直な子。そんな人間がどうやらハーリー先生は苦手らしい。
 誰か曰く、『自分の持っていないものを持つ人は羨ましくもあり、また、妬ましくもある』多分そういう事だろう。
 おかげで純粋で単純なハルカはハーリー先生の良いターゲットとなった。
 何食わぬ顔でハルカに近づき、表はハルカと信頼関係を徐々に築く良い生徒と先生の関係。しかし裏では多数の嫌がらせをするハーリー先生。
 それによりハルカの周りでは何かと災難が続く日々。なのにハルカはハーリーがそれに絡んでいるとは全く知らず、ハーリーを信頼しきっていた。
 しかし、その微妙な二人の間柄を打破したのは誰でもないシュウ。
 ハーリーが嫌がらせを行うのを事前に知りえたシュウは何とかハーリーの間の手がハルカに及ぶ前に阻止。
 それからというもの、ハーリーはハルカとともにシュウをもターゲットにするようになった。
 おかげで二人にとってハーリーは天敵の存在となる。
「まぁ、だとすれば一番ゆかりはあるかもしれないけど……」
 はっきり言ってあまり係わり合いになりたくないのが本心。
 しかし、ロバート理事長から手紙が届いていることは言わなければならない。真面目なシュウはきっと律儀にハーリー先生のところに行くことになるだろう。
「なら、彼女にも一応言っておいた方がいいかな」
 ハーリー先生が来るとなればハルカは絶好のターゲット。毒牙にかかる前に注意を促さなければ。
 そう思い、シュウは再びハルカのところへと向かうためベンチから腰を上げる。そのときふと耳に入った同級生の男子たちの会話。
「なぁ、あそこに居る美人誰?」
「どこ?」
「ほら、寮の門のところに……」
「あ、本当だ」
 一人の男子生徒が外の方を指差した。シュウもその指につられて外へと目をやる。
 確かに人が居るようだ。が、しかしシュウは視力が悪いため、それが美人なのかそうではないのか、はたまた男性なのか女性なのかすら分からない。
 わからないのであれば見ていてもしょうがないと思い今度こそ女子寮へと足を運ぼうとしたのだが、
「いくつくらいかな?」
「二十代前半じゃねぇ? オレンジの長い髪……綺麗だなぁ……」
「誰かの姉ちゃんだろうな」
 その言葉が再び足をシュウの止める。
 そして気が付いたときにはもう、自ら足を外へと運んでいた……。










「ハルカちゃんのおかげで助かったわ」
「そんなことないですよ。私は重いものを持っただけです」
 受付窓口から見える寮母室。
 中央には質素なテーブルのみが置かれている状態。そんな中でハルカと寮母は湯飲みでほうじ茶を啜る。
「重いものを持ってくれるだけでも嬉しいのよ。男手が足りなかったから」
「あはは、じゃ、私は今日男手ですね」
 屈託ない笑顔で茶飲み話に花を咲かせる二人。
 しかし、ハルカにはどうしても気になることがあった。何か大切なことを忘れているような……そんな感じが……
「そういえばハルカちゃん」
「はい?」
「お昼ごはんまだじゃないの? お昼前に帰ってきたから……」
「そう言えばお腹空いたかも……って、あー!!」
「な、何事?!」
 思わずびくつき後ろにのけぞる寮母と、湯飲みを片手に立ち上がるハルカ。
「シュウと約束してたんだ!!」
 さっきの胸の突っかかりをようやく思い出した。
 シュウとお昼を食べる約束をしている事を。
 あわてて時計を見てみれば十二時をとっくに過ぎている。きっと待ちくたびれているか、怒っているに違いない。
「そうだ! 携帯!」
 旅行かばんに突っ込んだままの携帯をあわてて取り出して確認してみると、案の定、着信履歴とメールが複数入っている。
「うわー……かばんの中だから音が聞こえなかったんだ」
「あちゃー……シュウ君怒ってなきゃいいけど。でもま、今回は私がフォローしてあげる。手伝ってもらったんだもの」
「ありがとうございますぅ……じゃ、とりあえずシュウを探しに……」
 少しうな垂れて部屋を出ようとしたとき、
「ちょっと待って。あの外に居るのはシュウ君じゃないかしら?」
「え?」
 言われて外を見てみれば寮の校門のあたりに人影を二つ。
 一つは綺麗な緑の髪が太陽に照らされてきらきらと輝いている少年。確かにあれはシュウ。そしてもう一つは見たことのない人。
 唯言えるのは、オレンジの髪がとても綺麗な凄い美人だと言うこと。
「何か話してる……知り合いかな?」
 少し気になる。
 なんだかとっても親しそうに話しているから。
 その光景にハルカはえもいわれぬそわそわとした感情を抱く。
「あら? 新しい寮母さんよ。あの人」
「え? 女子寮の?」
「ええ。そうよ。あ、だからシュウ君、あんなに親しそうに話しているのね」
「なんだ。そう言うことか」
 その状態のハルカを見て寮母は少し笑う。
「ちょっと心配だったんじゃないの? シュウ君の好きな人かもとか思って」
「そ、そんなことないですよ! 第一、シュウに好きな人出来ても私には関係が……」
「無いとは言えないでしょ? 好きな人が出来ちゃったらハルカちゃんどころじゃないわよ」
「それは! ……ちょっと困るかも」
 相手にされなくなってしまってはライバルとか戦うどころの騒ぎじゃない。
 それどころか、態々シュウに勝ちたくて、もっと強くなりたくてこんな遠方の城都まで来たのにそれすら意味をなさなくなってしまう。
 確かに自分に関係の無い話ではない。
「まぁ、今はそんな心配しなくて大丈夫。それよりも早く行った方が良いと思うわ。寮母さんだから話に割って入っても大丈夫だと思うし。それに、もしかしたら今話している状態でシュウ君、新しい寮母さんを好きになってしまうかもしれないもの」
 分かっていて寮母はハルカをからかう。
 それを聞いたとたん
「い、行ってきます!!」
 ハルカはものすごい速さで管理室を飛び出して行った。
「青春せよ、若人」
 その後姿を見送る寮母の笑顔はそれはそれは清清しかったという……










 城都学園寮・校門前。
「ようやく付いたわ。城都学園」
 オレンジ色の髪は夏の終りのさわやかな風にのってたなびく。
「ここが新天地……面白いことがあると言いのだけれど」
 その長い髪の持ち主の女性は寮を見上げながら少し笑っていた。
「さて、引越しの荷物でも運びますか」
 女性の引越しにしては少ない荷物。赤いトランクが足元に一つだけ。それをカートにして歩き始めようとしたところ、こちらへと向かってくる人影。
「あれは……男子生徒かしら?」
 その人影が出てきたのは男子寮の玄関。それを見てもきっと男子だろう。その人影はどんどんとおおきくなり、ようやく顔が判断できるほどの距離になる。
「あれは……まさか!」
 女性は少し驚いた顔をして、トランクを引くことをやめる。
 それと同時に人影が女性の前でとまる。
 他の誰でもない。
 その女性を見つけて走り出したシュウだった。
「男子たちの会話を聞いてまさかとは思いましたが……やはりそうだったんですね、『サオリ』さん」
 少し息を整えたシュウが顔を上げるのと同時に発せられた名前。その名前に女性は再び笑う。
「私もまさかとは思ったけれど、本当に貴方だったのね、シュウ君」
「えと…確か直接会ったのは僕が中学にあがったとき以来ですよね?」
「そんなに前かしら? でも、そうかもしれない。それから色々と学校を回っていたから」
 どうやら二人は知り合いらしい。懐かしさから思い出話に花が咲く。
 しかし、それもつかの間もう一人の人物の到来で話の方向が変わる。
「シュウー! ごめーん!」
 何故か謝りながら走ってこちらに向かってくる女子生徒の姿。
 先ほど管理室で寮母にからかわれていたハルカのようだ。
「約束わすれてて本当にごめん! 代わりに何か奢るから許して欲しいかも!」
「君ね……約束忘れた挙句に、人が話しているのに割ってはいるのはどうかと思うよ」
「あ……ごめんかも」
「全く……」
「あらあら、約束があったのね」
 くすくすと笑って二人の仲裁に入るサオリ。このあたりはやはり大人だなと思う。
「あ、新しい寮母さんですよね? さっき寮母さんから聞きました」
「え? サオリさん寮母さんなんですか?」
「そう。そのためにここに来たのよ。そして、寮母でもあり保健の先生よ」
「ああ! そういえば新しい寮母さんは先生も掛け持ちって聞いたかも! よろしくお願いします! 私、ハルカです!」
「ああ、貴方がハルカさんね?」
「え? ……何で私の事……」
 初めて会ったはずなのに、サオリはハルカを知っていると言う。なぜ?
「時々シュウ君とかから聞いて……」
「サオリさん!」
 あわててサオリをとめに入るシュウ。しかしハルカはそれを聞き逃さない。
「シュウから聞いてるって事は……お二人は知り合いなんですか?」
 ハルカの問いにシュウは軽く咳払いをして説明に移る。
「サオリさんは弓道の名手。いつも全国大会では上位に名を連ねている人だ。そういう関係で時々相談に乗ってもらったりしてるんだよ」
「私が学生時代最後に出た大会で新進気鋭の選手として出てきたのがシュウ君。それからの付き合いよ」
「へぇ……シュウにそういう関係の人が居たなんて初耳かも」
「相談ていっても雑談なんだけどね。このごろ何があったとか。あとは貴女の……」
「サオリさん、本当怒りますよ? でも、これでようやくなぞが解けました。ロバート理事長から届いた手紙の人物ってサオリさんだったんですね」
「ロバート君からそんな手紙が?」
 二人しか分からない話が行きかうのはやはり人間として面白くない。案の定ハルカが痺れを切らす。
「もう! さっきから何の話? ロバート理事長の手紙とか、それに、何でロバート理事長がサオリさんのこと知ってるの?」
「君……毎日のように見てて覚えてないのかい?」
「え?」
「ほら、鳳炎の弓道部の部室でにあった個人優勝とか団体優勝とかの写真」
「優勝したときの写真?」
 鳳炎学園弓道部の部室には歴代の全国大会優勝者の写真やトロフィーなどがおいてある。
 その中の写真の一つにロバート理事長が写っているものがあった。確か凄い美人と一緒に理事長が写っていた気がしたような……
 そして思い出す。その美人の女性の顔を。
「あー!! あの写真のオレンジの髪の人!!」
「思い出した?」
「思い出したも、思い出したかも! そっかぁ、あの人だったんだ! じゃ、先輩になるんですね」
 それが分かったとたん、サオリがまぶしく見えた。シュウとは別に見つけた憧れの対象が目の前に居ることに。それはハルカにとって嬉しいことには違いない。
「じゃ、もしかして弓道部の顧問なんですか?!」
「それは新学期になってみないとなんとも言えないわね。でも、これから楽しくなりそう。よろしくね、シュウ君、ハルカちゃん」
「はい、よろしくお願いします!」
「僕もよろしくお願いします」
 こうして、サオリの到来は秋の始まりを告げる。










「……と言うわけで今学期から保健医として赴任してきましたサオリです。気分が悪くなったりしたら直ぐに言ってくださいね。あと、一人だとさびしいので時々保健室に遊びに来てください」
 気さくで優しそうで美人ということもあり、新学期早々サオリは生徒の心をがっちりつかんだ様子。皆、サオリの自己紹介が終わったあと大きな拍手を送っていた。
「サオリさん……じゃなかった、サオリ先生馴染めそうだね」
「あの人は元々の人徳があったからね。多分どこでも生徒たちに人気があると思うよ」
 ハルカとシュウもまた拍手を送りながらサオリを城都へと迎え入れる。
「寮でもサオリさんに会えるんだからこれからまた学園生活楽しくなるかも!」
「迷惑をかけないようにね」
「わ、分かってるかも!」
 ハルカの小声の返事とともに教頭先生が次の新しい先生紹介する。
「えー、今学期から保健医の先生を男女一人ずつという形になりまして、新しい先生をお迎えしました。先生、どうぞ」
 その迎えられた先生に……シュウとハルカは唖然とする。



「鳳炎学園から来ましたハーリーです☆男子生徒は悪くなったらあたしのところへ来て頂戴ね! みんなと仲良くなるためにハーリー頑張るかも!!」



 なよなよとした動きにおかまのようなしゃべり方で留めはウインク。
 その奇怪な見た目としゃべり方で体育館に居た生徒全員がドン引き。
 まさか二人の天敵がこのような形で二人の目の前に現れるなんて……
「シュウ……なんでハーリー先生がここにいるの?」
「それは僕が聞きたいよ」
 引きつった顔で壇上を見つめる二人。
 その二人を発見したかのようにハーリーはこちらへと手を振る。
「見つかったかもしれないね」
「いや、どっちにしろ見つかるのは時間の問題だったからね」
 冷静さを取り戻そうと必死なシュウ。しかしそれに追い討ちをかけるように教頭先生の一言が追加された。
「急な話ではありますが男子寮の寮父さんが都合によりお引越しをされました。よってハーリー先生には男子寮の寮父さんとしても頑張ってもらいますので、皆さん先生が困っていたら助けてあげてくださいね」
 その瞬間、寮に入っている男子生徒からため息が漏れたことは言うまでも無い。
「顔が真っ青かも……シュウ、大丈夫?」
「これから卒業するまで……出来るだけ健康体を保つことを今誓ったよ」
 そうだ。病気になんてなってしまい、ハーリー先生の世話になんてなってしまったら恐ろしい事になるに違いない。
「……ロバート理事長もやってくれるね。理事長の友人て多分、ハーリー先生も含まれてたんだ」
「一人しか来ないとはいってなかったもんね……これから先行き不安かもー!」
 二人の保健医の到来。
 一人は優しくて頼りがいのありそうなサオリ先生。
 一人はあまりかかわりあいになりたくないハーリー先生。
 まさに天国と地獄。
 これから先、シュウとハルカの二人に穏やかな日々はやってくるのか?










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 作者より……
 えーと、ようやく登場の運びとなったハーリーさんとサオリさんです。
 ハーリー先生は絶対に出したかったのですが出すような機会が無く、
 こんなに遅くになっての登場でございます。
 絶対に保健室の先生として出したかったのでございます。
 でもそれと同じくらいサオリさんも保健室の先生として出したかった。
 そして思いついた打開策が男女一人ずつの保健の先生。
 まぁ、大きな学校だからいいでしょう。
 そしてこの組合せ思いついたのは誰でもないロバート理事長だったら面白い。
 実は三人ともかなり親しい間柄と言うのがマイ設定。
 その辺りのお話は機会があれば出したいですね。

 これからどんなドラマが待っていることやら。
 私個人としても楽しみです!

 2007.9 竹中歩