毎年…その日にちは僕にとってはあまり関係のない日で…
もちろん今年もそのつもりだった…
でも、一年もあればそんな考えどこかに飛んでいく。
やっぱり、外す訳にはいかないよ。






『白い兎』








「あ、もうそんな時期だっけ?」
「何?お前忘れてたの?」
「だって、去年はやんなかったもん。」
「今年は2,3個もらっちゃったからな…するしかないでしょ?」
そんな会話を繰り広げていたのは隣の席の友人たち。
3人程度で集まって何を買うかとか何個買えばいいかとか話し合っている。
それはその席の主にも影響が及ぶ話題。
「シュウは何個買うんだ?それともやらないとか?」
「何を?」
「ホワイトデーだよ。お前かなりの量もらってるからめんどくさいだろ?」
「ばっか。シュウは基本的に返さないんだよ。どの子にもらったなんて
 数が多すぎて覚えてないって。」
「その通りだね。それに、わかる子だけ返してたら不公平だし。」
もっともな意見を言われてうなずく男子三人。
シュウの今年のバレンタインの成績は中学部で上位だろう。
そんな大量の人間に返すなど不可能に近い。
「じゃ、ハルカちゃんにもあげないのか?」
「そっか。今年はハルカちゃんがいたんだっけ。どうするんだ?」
「………」
口元に手を当て少し考え込むシュウ。
「今考えるなよ…ま、どっちにしろ俺らにはあんまり関係ないけどな。
 だけどさ、やっぱり返すとしたら?」

「キャンディだろ」
「クッキーだろ?」
「マシュマロだろ」

そこにいた男子三人全員の意見はすべて食い違う。
「二人とも何言ってんだ?元々ホワイトデーって菓子業界の陰謀第二段とか言って
 キャンデーの促進に努めた日だぜ?!」
「え?!俺姉貴に『お返しはクッキーが有名!』とか言われたんだけど…」
「オレはマシュマロが白いから『ホワイトデー』だと思ってた…」
意見が食い違ったことにより、3人は軽く混乱を覚える。考えていたお返しの案が
少し狂ってしまったらしい。
「ったく!もう少し早く言えよな。また考え直しだ。」
「続きは帰りながらにでも考えようぜ。じゃぁな!シュウ!」
「また明日。」
そのあと友人たちとは玄関を出てすぐに別れた。シュウは電車通学、友人たちは
徒歩と自転車その距離は歴然としている。








「お返しね…」
久々に早く学校から帰れる。卒業式だ入学式だまたはエスカレーター式の学校だからこそ
存在する編入試験というさまざまな理由でここの所部活は休みが多い。
いつもなら一緒に帰るハルカも今日は不在だ。友人と春物の服を見に行くとか言っていた
ような気がする。
「返さないわけにはいかない…と言うか返すつもりではあるけど…」
実際問題ホワイトデーなんてなにを返せばいいのだろう?
先月、シュウはハルカから一方的にバレンタインと言うことで煎餅を押し付けられている。
実際、ハルカは友達同士の交換バレンタインがやりたかったらしいが、
シュウがバレンタイン当日に交換するものなど持っていないことは誰でもわかっていた。
そして言われたのが

『お返しはホワイトデーでいいわ』

そういわれて早一ヶ月…いまだ何をあげればいいかわからないでいる。
言っては何だが、ホワイトデーのお返しをあまり迫られたことがない。
大体『もらってくれるだけでいいんです!』といわれ受け取るだけと言う状況ばかり。
その他は『ホワイトデーに告白の返事をください』などなど…
これがホワイトデーで一番憂鬱だ。さすがに無視するわけにはいかず、
告白の返事待ちの女子にのみ謝罪の気持ちでお菓子を渡すぐらい。
しかし、それと一緒にできるわけがない。
「全く。彼女にはいつも困らせられてばかりだ」
そう呟きながら電車から降りる。しかしそこは自分の家がある絵南ではなく
商店街が多く、特に雑貨やアクセサリーが多いと言われる隣町。
「ここにあればいいけど…」
街を歩きはじめるシュウ…しかし、15分ほど歩いてもピンとくるものが見当たらない。
彼女ならきっとなんでも喜ぶだろう。





誕生日プレゼントを渡したときも
クリスマスのときも
そして…出会って初めて会話を交わしたときも
すべて結果は同じ…明るい笑顔





その笑顔が見たいから探すんだと思う。
その笑顔に引けを取らなくて
…その笑顔と対応したもの…
「見つけた…かな。」


















ホワイトデー当日…
ハルカに渡すより先にまずやらなければならないことがある。
それはバレンタインのときに告白の返事をほしいと言ってきた女子たちへの謝罪。
「ごめん…君は僕の中では後輩なんだ…だからそれ以上でもそれ以下でもない」
「…わかってました…シュウ先輩に告白する前から断れるって。それに、
 今年は特に駄目だろうって。」
「え…?」
「だって、シュウ先輩はハルカ先輩と話すときに私たちが誰も見たことのないような
 やさしくて暖かい顔するんですよ。オーバーかもしれないけど…その笑顔を
 向けられない限りは先輩とは付き合えないって思ってましたから…。それじゃ。」
少女は少し涙目になりながら軽く会釈をするとその場所から足を遠のけた…。
きっとこのあと友人たちの前でこれでもかと言うくらい泣いてまた新しい気持ちに
なるのだろうと。
「これはいつやっても慣れないよ…で、どこに行くつもりだい?ハルカ君。」
「ば、ばれた?」
「君の気配は解りやすいからね。」
校舎の壁際の…普通なら見えない視点にいたにも拘らずシュウはその気配を感じ取る。
ハルカは照れ笑いをしながら出てきたが、その表情はいつものように笑っているのではなく、
申し訳ないという気持ちのほうが強いだろう。
「ほ、本当ね、今日ホワイトデーだから何かおごってもらおうと思って追いかけてきたんだけど
 間が悪くて…動いたらここ砂利だし直ぐに空気崩しちゃうと思って…動けなかったかも…」
「しょうがないね…君って人は。どの辺から聞いてたんだ?」
「あの女の子がいなくなる直前くらいかな。話声は途切れ途切れでしか聞こえなかったし。」
「そう…でも、二度としないように。こう言う事は多分これからもあるから…」
「わかった。」
「それで?ホワイトデーがどうのこうのって?」
「そうよ。先月言ったでしょ?お返しはホワイトデーでいいって。だから奢ってもらおうかと
 思ったんだけど…」
「ふーん…じゃ、奢ったらこれはいらないのかな?」
「え?」
シュウは緑色の紙袋から20pほどの大きさのラッピングされたものを取り出す。
「あのさ、ほかの子達に渡してたものと全然大きさ違うんだけど…あの子達のって…」
「謝罪のつもりのクッキーだよ。でも、君はあの子達と違うからね。食べ物じゃない。」
「何で私だけ違うの?」
「君は僕の内側を知る数少ない人だからね…だから一応特別にしたんだけど…いらなければ
 ほかの人にでも渡すけど?」
「誰もいらないなって言ってないかも。もらうわよ…シュウのありがとうの気持ちだもん。」
ハルカはそれを受け取るとラッピングを解いていく。
「あ…ウサギね!かわいいかも!しかも感触がいい!」
「気に入ってくれたなら幸いだよ。」
「でも、何でウサギ?マシュマロとかじゃなくて…」
「さっきも言ったけど君は特別だからね。それにそのウサギはホワイトデーのために
 いるようなウサギだよ。」
「ホワイトデーのためだけ?」
「君はホワイトデーのお返しと言ったら何を思い浮かべる?」
「え?えーっと…マシュマロとかクッキーとか…キャンディ?」
「そう…普通はそう思う。だけど決められなくて迷ったときは?」
「ん〜…私なら全部買っちゃうかな?」
「だからそのウサギだよ」
「だから、何で?」
「そのウサギは感触のよさから『マシュマロウサギ』と呼ばれるらしいんだ。作ってる会社は
 『キャンディー』。しかもそのウサギの名前は『クッキー』と言うらしい。ホワイトデーの
 王道のお菓子の名前が見事に入っていたし…何より…」
「??」
「君が好きそうだったからね…」



そのときのシュウの笑みはすごく優しくて…
いつもの嫌味なんて忘れてしまうぐらい…
温かかった…



「シュウもそんな顔ができるのね。」
「君ほど表情のバラエティは持ってないけどね。」
「むっかー!!まぁ、いいわ。ありがとう。」






僕の表情なんて君の表情には絶対かなわないよ。
君はいるだけで温かいから……



                           END





作者より…
最後だけ甘くなりました。
バレンタインがあればホワイトデーを書くのは当然でしょう。
白いウサギはいつか出してやりたいと思っていたのです。
なんか幸せの象徴かななんて。
シュウの温かい笑みが好きです。
いや、シュウ自体すきなんだけど、
この二人は基本的に笑顔を象徴してるんです。
結局どんなときでも笑ってるイメージが…
嫌味言うときでも
照れてるときにも。
でも、ホワイトデーというと、私は渡されて思い出します。
そういえばそうだっけな見たいな感じで。
ハルカは忘れないと思いますが…
今年はどんなドラマが繰り広げられたのでしょうかね?

               2005.3 竹中歩