貴方はいくつ…クリスマスのジンクスをご存知ですか?

 これはある町に纏わる…小さなジンクスです…











 『聖誕祭前夜』
















 「ハルカ…あんたさっきからどれだけ止まれば気がすむの?」
 「あとちょっと!もうちょっと待って欲しいかも!」
 二階建ての邸宅に響き渡る声。その声は一人や二人ではなくかなり大人数。
 今日は待ち待ったクリスマス・イブ…鳳炎学園弓道部の数人が一人の部員の
 生徒の家に押しかけクリスマスパーティーをやっている真っ最中だった。
 数人とは言っているが、四捨五入すれば二桁には到達する人数。幸い、押しかけられた
 生徒の家はメンバーの家の大きさでは一番広くそして学校からも近い。
 皆が集まるには適確な場所である。
 「だって、さっきからハルカの番になると他の子よりかなり時間かかってるよ?」
 「そんなこといわれても…皆が強すぎるのよ!」
 今メンバーがやっているのはトランプゲームの一種『七並べ』。全てのトランプを配り
 最初に七の付く四枚のカードだけを並べそこから七の次の数…降順でも昇順でも各個人が
 決まった順序で出していくと言うゲーム。ハルカは先ほどから自分の手持ちの札を
 出せないでいた…そう…誰かが自分のもっている手札の前の数を止めているらしい。
 「もうー!!誰よ!ハートの5止めてるの!私のそのへんのカードしかないのに!」
 「本当にハルカは頭を使ったゲームは苦手よね。」
 「日頃頭を使っていない証拠だよ。」
 「そう言う事言わないでよ!…絶対シュウが付け加えて厭味言うんだから!」
 ハルカの隣の人物がぼやく。隣の人物とは誰でもなくハルカのライバルともいうべき存在『シュウ』
 頭が良いだけあって先ほどからトランプゲームを幾多やっているが一度も負けてはいない。
 「嫌味と言うか…真実だと思うけど?」
 「真実でも伏せておいてよ!」
 「はいはい。早く始める。」
 「う〜…しょうがない。ジョーカーを出すわ」
 「なーんだ。ハルカがジョーカー持ってたんだ。さっきも持ってたけど負けたよね?」
 「ほっといて欲しいかも!」
 ハルカは小学生のようにムキになっている。
 「あ…そうだ!なんなら罰ゲーム決めない?」
 「いいな!それ面白そう!」
 一人の女子の提案にメンバーが拍車をかける。
 「それじゃぁ…コンビニまで買出し。そろそろ夜ご飯の時間でしょ?」
 「あ、もう5時半なんだ!」
 「まぁ、9時までの予定だし泊まるやつもいるみたいだけど。コンビニに軽食の予約してるから
  それをとりに行く事。そんなに重くないと思うけど寒いからね。結構な罰ゲームになると思うよ。」
 「賛成ー!」
 あれよあれよと言う間に話は進んでいき罰ゲームが3分以内に可決されてしまった。
 これに怒りを覚えたのはハルカ
 「ちょっと待ってよ?!それって確実に私じゃない?皆よりカード倍近くあるんだよ?」
 「まぁそれも運の付って事で!」
 「最悪かも〜…。」
 罰ゲームが加算された事で更にゲームはヒートアップする…



















 そして…

 敗者は…

















 「て…事でハルカに罰ゲーム決定!」
 「はぁ…巻き返しできるわけがないよ…。」
 「しょうがないじゃない。はい、これが引換券ね。」
 家主の少女にポンと引換券を渡される。
 「分かったわよ。行って来る。」
 「待って。流石に暗いから二人で行ったほうがいいわよ。負けるの男子だったら別だけど。
  誰が一緒に行く?」
 「え?ハルカだらシュウが行くんでしょ?」
 「…その簡単に話を決めないでほしんだけど…」
 シュウが眉間に手を当てて話に割り込む。
 「あー!そっか。シュウは行きたくないんだ。じゃぁ俺が行くよ。」
 「いいんですか?キャプテン?」
 「いいよ。ハルカちゃんなら可愛いから!」
 「それって私たちが可愛くないって言う感じの言い方ですね。」
 キャプテンの一言はその場にいたハルカ以外の女子を敵に回す。
 「別にそう言う意味じゃないよ。男子ならこの寒い中二人で歩くクリスマスって寂しいけど、
  女子なら良いって事。それにハルカちゃんならナンパされかねないし。」
 「やっぱり私たちが可愛くないって言ってる!」
 座っていた女子たちは一気に立ち上がりキャプテンに押し寄せた。一気にその場はバトル会場。
 男子も止めに入ったり恐れをなして端の方に引いている。
 「あの…行っていいの?」
 一人ぽつんと取り残されたハルカはメンバーに問い掛けるがこの状況で返ってくるはずがない。
 その時後ろを小突かれる。
 「痛!」
 「ぼうっとしてないで…行くよ。」
 そこにいたのはコートを羽織ったシュウ。二人はその戦場から逃げるの等しい速さで家を
 飛び出した…

























 「大丈夫…なのかな?皆?」
 「多分…熱気とさっき皆が飲んでたシャンパンの所為だと思うから暫くすれば落ち着くと思うよ。」
 「え?シャンパンにそんなにお酒入ってたっけ?」
 「シャンパンて言ってもどうせ子供用だからね。摂取した事にはならない程度だよ。」
 暗くなり街灯が漸く灯り始めた道を二人はさくさくと歩く。
 「でもどうして?」
 「苦手な人は少しでも酔うって言うからね。君は…お酒強そうだけど。」
 「どうなんだろ?あんまり飲んだ事ないからな…」
 「その歳でかなり飲んでたら怖いよ。」
 「それもそっか。でもなんでシュウ…ずっと私の持ってるカードの前止めてたのよ!
  おかげでパスばっかりして負けちゃったじゃない!」
 「そう言うゲームだし…僕がどうして君を助けなくちゃいけないのさ?」
 「それが友人に向かってとる態度?」
 「あの場にいた全員が友人だけど?」
 「あー!!一々ムカツク言葉で返す!」
 「勝手に君がキレてるだけど思うよ…」
 やはりこの二人を二人きりにさせてはいけない。シュウの厭味がハルカしかいないとハードになる。
 「ああそうですか!例え隣の席で同じ部活で鳳炎学園で同じ学年で唯一帰る方向が一緒の私でも
  あのメンバーと同じ扱いなわけね!もういいわよ!シュウがそんな酷い人だとは思わなかった!
  私一人でコンビニに行くから帰っていいわよ!」
 そう言うとハルカはこの寒い中、走り始めた。
 「待って!」
 「知らないわよ!」
 シュウも直ぐに追いかける。








 どうしてだ?

 いつもより厭味は言ってない筈。

 なのにいつも以上に怒っている。

 何か変わったことでもあったのか?







 「………」
 追いかけながら考えてみる。そしてその考えが仇となったのか少し気を緩めた時
 ハルカが走り去ったあとの信号が赤に変わってしまい二人の距離は余計に広がってしまう。
 「……もしかして…酔ってる?」
 ふとどこかの科学者だか医者だか誰かの言葉を思い出した。


 『例え微量でも単純な人にはお酒は効き易い』


 なるほど…漸く理解できた。単純と言う別名を持つハルカのことだ。その考えは当てはまる。
 「彼女ならどんな上戸であってもおかしくない」
 喜怒哀楽の激しいハルカ怒り上戸や泣き上戸の全てが当てはまるだろう。
 「なら早く追いかけないと…何しでかすか分からない…」
 コンビニのある商店街を見渡した時道の真ん中にある大きなもみの木に目が行く…
 「多分…あそこだろうな……」
 傍に駆け寄ると…予感は的中。大きなもみの木を見あげるハルカの姿があった。
 「…帰ったんじゃなかったの?」
 シュウの気配に気付いたのか顔は怒りを示していた。
 「ハルカ君…君…少し酔ってるよ…」
 「シュウさっき言ったじゃない!私は強そうだって!」
 「でも君は単純だ。お酒は少しでも効き易いはず。」
 「単純で悪かったわね!」
 大声でけんかをする中学生…しかもクリスマスイブで異性同士ともなれば人々の目線は自ずと
 そちらへ向けられてしまう。
 「…もうこれ以上君と口論する気は無い。」
 「私だってないわよ!でもシュウが直ぐ怒らせるんじゃない!」













 本当は…もう怒りたくないのに…











 「うわぁ…」
 その場にいた人々の声がいっせいに揃う。そして…自分達の近くにあったもみの木が
 綺麗にライトアップされていた。おかげで周りの目線は全てそちらへと注がれる。
 「…………」
 「…………」
 あまりの突然の出来事に二人は固まる…そして…


 「ふふ…あはは!」
 「はぁ…君って人は…考えの転換が早いね…」


 二人して笑っていた…
 「なんだか怒るのが馬鹿らしくなってきちゃったかも。」
 「右の同じく…せっかくのイブがこれじゃ台無しだよ。」
 「それもそうよね…さ、早く取るものとって皆の所に戻ろう。」

















 「本当は…はっきりって凄く落胆しちゃったのよ。」
 「落胆?」
 コンビニで頼まれた物を受け取り友人の元へと歩く二人。
 「シュウがさっき『あの場にいた全員が友人だけど』て言った事。」
 「ああ。あれね」
 「私の言い方が悪かったんだけど…私はシュウのこと皆と同じとは思ってないよ?」
 「それって……」
 「私はシュウのこと親友だと思ってる…だから皆よりずっとランクは上なの。
  だって、私が鳳炎に来てシュウが一番最初の友達だから…なのに、そのシュウは
  私を皆と同じランクでしか見てないと思ったら自分が馬鹿らしくなっちゃって…
  本当は自分を馬鹿らしく思って怒ったんだと思う。だからあれは八つ当たりに
  等しいの…だから謝るわ…ごめん…」
 少し安心した…もしハルカからの言葉が『恋愛対象』という意味を含むものだったら
 どうして良いか分からずきっと意識が吹っ飛んだだろう。まぁある意味残念ではあるが…
 「君からごめんという言葉を久しぶりに聞いたよ。」
 「私、ちゃんと謝る時は謝るわよ?」
 「そうだね…なら僕も一つ訂正するよ。僕も君の事は皆により少しランクを上には見ている。」
 「無理しなくて良いよ…私が今言ったから…話し合わせてくれてるんでしょう?」
 「これでも信用しない?」
 すっとシュウはハルカの前に紙袋を差し出す。
 「??」
 「皆にはクリスマスプレゼントあげてないけどせめて君にはって思って…」
 「うそぉ!?」
 「そこまで言うなら他の人にあげてもいいけど…男子にはあげても意味のないものだから
  女子にあげなくちゃいけないけど…。」
 「ありがとう…ねぇ?あけて良い?」
 「あけても良いけどあけたあとは皆には言わないで欲しい。また二人の関係を誤解
  されかねない。」
 「わかった。」
 手の平に乗るくらいの小さな箱。それを開けると……
 「…クマ…」
 ガラスドールとでも言うのだろうか?クリスタルの体をもった愛らしいクマの置物。
 「君とは結構長い付き合いだけど土壇場になって何をあげたら良いのか分からなくてね、
  可愛い物は好きだといっていたから…これなら大丈夫かと思って…。」
 「ありがとう…なんかシュウらしいかも…」
 「僕らしい?」
 「普通はぬいぐるみとか携帯ストラップとかだけど…ガラスドールって言う所。」
 「意表をつくって言う意味かな?」
 「そんな感じかな…さて、次は負けないわよ!」
 「君の頭じゃ無理があると思うけど?」
 「そんなこと言ったら野球拳挑むかも。」
 「女子がそう言う事を言うのは適切じゃないよ…」













 「そう言えばさ…」
 ハルカとシュウが戻るまでババ抜きをするメンバーが話し始める
 「ん?」
 「あの商店街のジンクス聞いた事ある?」
 「ああ!聞いた事ある!もみの木の前で思いっきり喧嘩すると二人の絆が深まるって奴」
 「そのジンクスって実行しにくいね…恥ずかしいよ…」
 「そうそう。だから私も見たことないんだけど…」
 「ハルカとシュウならやりそうだよな…」
 「あれ?私その続編聞いた事あるよ?確か…絆が深まるのも確かだけど、絶対に何があろうと
  恋人になるって奴でしょ?」



















 知らなくても良い…

 そんなジンクスなくたって…

 二人がいっしょにいればいるほど…

 ジンクス以上の絆になるのは…

 当たり前のことだから…







 「あ…そうだ…ねぇシュウ…」
 「なんだい?」
 「…一緒についてきてくれて…有り難う…」
 「別に…」










 不器用なこの少年少女に…

 メリークリスマス…





                           END





 作者より…
 クリスマスというよりはイブでお願いします。
 昨年はオフィシャルだったので今年は学園物で。
 本当は七並べより大富豪(大貧民)が良かったのですが
 地方によってルールが異なるそうなので断念しました。
 ハルカが困ってる瀬戸際でシュウに革命とか
 起こさせたかったんだけどな…
 まぁそれはさて置き、多分今年最後の作品。
 もみの木がライトアップされるときに笑う二人が
 可愛いと思っただけです(笑)
 ハルカは今回プレゼント用意してないですけど、
 多分次の日にはあげたと思います。
 …バラの一輪挿しが似合う花瓶でも。
 さて、なにはともあれ、皆さんによきクリスマスが
 訪れる事を!メリーでクリスマスでした!!

             2004.12 竹中歩