『合宿準備期間』





  一人だと痛感する…

  
  それは遅からず早からず痛感すると分かっていた…


  でも、痛感しても大丈夫…


  私は強いから…大丈夫…








  今年の夏の暑さは尋常ではない。気象庁が発する『真夏日=30度以上の日』は

  連続30日を既に越え、毎日暑さと格闘する日々か続いている。

  茹だるような暑さをさらに悪化させる人の群れ…

  所々に発生する『陽炎』…

  その暑さは街中だけではなく山の中にあるエスカレータ式の学校『鳳炎学園』でも

  例外ではなかった。







  「あっ……………つい!!」

  その日の暑さを『暑い』と言う言葉の間の長さが物語る。言葉を発したハルカは

  手に持ったハンドタオルで首筋を伝う汗を拭う。

  「全く…何なのよ…この暑さは!こんな小さいタオルじゃ何の役も立たないかも」

  ハルカは動物がプリントされているハンドタオルを見つめる。暑さの所為で

  プリントされているウサギがコチラの状況を笑っているかのようにも見えてきた。

  「はぁ…早く家に帰ってクーラーのある部屋で休みたいわ…」

  ハルカの所属する男女混合で行っている部活『弓道部』の夏は練習に追われる。

  練習が無いのはお盆と夏休み最後の一週間。それと顧問の先生の用事がある日だけ。

  そして案の定夏休みの平日の今日もごく当たり前のように部活はある。…が、

  今日は半日のみ。理由は明後日に控えた『合同合宿』。顧問の先生が今日の半日と

  明日の日曜日だけ特別に休みをくれた。そして、昼の12時に終わり少し部室の用事をして

  ハルカは家路に帰る途中と言うわけだ。

  「暑いよー。家が遠いよー。クーラーの効いた車で帰りたいよー」

  夏の暑い中一人で帰る家路は何ものにも変えがたく遠く感じる。さっきからこんな小言

  ばかり零しながらとぼとぼと歩いていた。しかし、校門近くで何かの影を捕らえる。

  「あれぇ?…先輩かな?」

  それは弓道部の男子キャプテンの先輩の姿だった。ハルカよりかなり先に部室を後に

  した筈なのに一体何をしているのだろう?

  「せんぱーい!」

  暑さを無理やり振り払うとハルカは少し駆け足で先輩の元へと向かっていった。

  「あ…ハルカちゃん。」

  先輩はハルカの声に反応すると笑顔で迎えてくれた。恰幅が良く、のほほんとしているが

  キャプテンにふさわしい技術と器を兼ね備えている。もちろん部員からの信頼も厚い。

  「どうしたんですか?こんな炎天下の中?」

  「いや、別に好きでいたんじゃないんだ。ちょっと困った事が起きてそれで自転車小屋から

   引き返してた途中。」

  「困った事ですか?」

  暇人のハルカの取っては少しの『困った事』でも楽しいねたに変わりは無い。先輩を

  助ける気持反面、興味本位で話に深く入っていく。

  「実は…俺、昼から顧問のパシリ…基、買い物頼まれていく筈だったんだ。だけど…

   さっき、クラス担任に呼ばれてさ。俺と数人二者面談できてないらしくて…今から

   やるって言われて…買い物どうしようかなってそれでいったん引き返してたわけ。」

  「先の買い物行って面談するとか…後で買い物するとかはダメなんですか?」

  「うん…俺もそれは考えたんだ。だけど、クラス担任は1時間後から出張で隣県に

   行くらしくて…俺も買い物行ったら直ぐに塾の時間だから…どちらか取るしかないんだ。」

  先輩はハルカが話し掛ける以前より深く考え込んでしまった。割と深く考えるタイプまじめな

  人なので他の人より少し融通が利かない。

  「顧問の先生に頼んだいいんじゃないんですか?元はといえばその先生が行く筈

   だったんでしょう?」

  「ああ。それは無理。その先生が忘れてて今日出張でいけないから俺に頼んだんだ。

   ほら明後日合宿だろ?それに使うやつ」

  大きくため息を付くハルカ。弓道部の顧問は物忘れが激しいおっちょこちょい。時たま

  こう言うことをやって生徒を巻き込む事も屡ある。

  「あの先生ならあるえるかも……。…私行きましょうか?学園内にあるんでしょ?」

  この鳳炎学園には買い物できる施設がある。学校に必要な道具を買う文房具や本屋もあれば

  関係ない施設も多々ある。学校規模の中の施設としては大きい方だろう。

  「うん…それがさ…さっき行ってきたら夏休み中で…ほら学校が休みだとさ

   休む期間も多いから。だから外まで行くしかないんだよね…徒歩20分くらい」

  「20分ですか…部室までですよね?往復40分か…」

  安易に引き受けるつもりになってはしまったがこの暑さで往復40分はちょっときつい。

  だが、お節介が好きなハルカとしてはやはり引き受けるようだ

  「いいですよ。40分なら。運動にもなりますし。」

  「でも…それだけじゃないんだよね」

  「え?」

  「お使いの代物が…これ。」

  先輩はポケットから殴り書きされたメモ用紙を取り出す。いかにもおっちょこちょいな

  顧問が書きそうな字だ。内容は…

  「冷却スプレー…30本?!」

  「そう…箱ごと。かなり重いと思うんだよね。」

  ハルカの顔が青ざめる冷却スプレー1本の重さは他愛も無いが30本となれば大変な事に

  なるのは誰でも予想がつく。

  「コレ買いに行く気だったんですか?!学園内の施設でも歩いて部室に持っていくには

   重いですよ?!」

  「いや、俺にはチャリがあるから。大丈夫だとおもって引き受けたんだけど…こんな事に

   なるなんてね。」

  あははと苦笑いする先輩。だが、こうしている間にも時間は過ぎていく。

  「やば!呼ばれてる時間まで後10分しかない!」

  携帯の時間を見て叫ぶ先輩を見たらどうやっても断れない。だが一人ではとてもではないが

  大変な作業だ。

  「気持は嬉しいけど…ハルカちゃん女の子だし…電車通学だから自転車も無いだろうし…

   いいよ。俺が塾遅れて買いに行くからさ。それじゃ…」

  「ちょっと待ってください!」

  「え?」

  先輩を呼び止めるとハルカは自分の携帯を取り出し誰かにかけはじめた。

  「あ、もしもし?……悪かったわね!てそれどころじゃない!あんた今何処にいる?

   ………ラッキー!にらんだ通りかも!時間ある?……それぐらい後でもできるでしょ!

   今急いでるの!時間作ってよ!………ありがとう!それじゃ校門でね!」

  凄い速さで話を片付けていき通話のOFFボタンを押すとハルカは先輩に笑ってみせる。

  「助っ人一人捕まえたんで多分…大丈夫だとおもいます。私に任せてください。」

  「でも…女子二人でもきついよ?」

  「あぁ、女子じゃなくて男子です。弓道部の。」

  「え?この時間帯はもう皆帰っちゃったんじゃ…昼から休みだから男子全員

   カラオケだって…」

  「一人だけカラオケに参加できなかった奴がいるんですよ。校長先生から直々に

   呼び出し食らった奴が。」

  「……ああ!『シュウ』か!」

  「ピンポーン!正解です!夏休みの大会で優勝した表彰状取りに行くって言ってたんで、

   多分いると思ったんですよ。案の定校長室から出たあとでまだ学園内にいました。

   多分あいつとなら大丈夫ですから面談行ってきてください。」

  「いいのかな…?状況説明もしてないみたいだけど…」

  「いいんです!こう言うことなら承諾してくれますよ。だから行ってください!」

  「うん…じゃあ行かせてもらうね。今度何か奢るから。それと、部室には

   戻らなくてもいいよ。合宿当日に持ってきてくれればいいから。だけど実際問題、

   一回買って部室に戻るか、重たい箱を持参で学園に来るかはハルカちゃんに任せるよ。」

  「はい。」

  そう言って弓道部のキャプテンは足早に職員室へと走っていった。















  


  「…それでこの暑い中僕が呼ばれたわけだね。」

  「ね?いいでしょ?先輩困ってたから…」

  ハルカの拝み顔と少し困惑した表情に負けたシュウは軽くため息を付いてネクタイを

  緩ませると

  「しょうがないね…キャプテンの頼みじゃ断れないし…手伝うよ。」

  「ありがとう!恩にきるかも!」

  実際『キャプテンの頼み』ではなく『ハルカの頼み』だから断れないのがシュウの

  真相だろう。

  「で、どこのお店だい?」

  「えーと、山を降りて直ぐのスポーツ用品店みたい。私行った事ないから分からないけど…」

  「ああ。学園内に支店があるところだね。今日みたいな猛暑の日に僕も長時間、外にいる気は

   無いからね。さっさと事を終らせるよ。」

  「そうね。家に帰り着く前にどこかで冷たい物でも飲みたいかも。」

  「じゃ、自転車小屋に行くよ。」

  「へ?…シュウ自転車持ってたっけ?」

  シュウは再びため息を付く

  「僕は持ってないけど学園内が生徒に貸し出すものならあるはずだよ。一応そのへんは

   お金のある学校としてね。」

  「ああ!その手があった!…よかった私一人でやってたら徒歩で買いに行ってたよ」

  「全く…」

  空笑いするハルカをシリ目に自転車小屋へと急ぐシュウ。だが、たどり着いた自転車小屋には

  自転車はなく変わりに3人の女子が立っていた。

  「あの…ちょっといいかな?」

  雑談を楽しそうにしていた女子達の動きが止まる。ハルカとしてはもう見慣れたが、

  大抵シュウに話し掛けられた女子は動きを止める。理由としてはその顔立ちのよさからだろう。

  「なんですか?」

  「君たち自転車知らない?ココに十数台くらいいつもあるんだけど。」

  「自転車は一昨日から点検に出してますよ?戻ってくるのは明後日です。私たちも

   借りに来たんですけど無くって…」

  シュウとハルカは顔を見合わせて頭を押さえる。本格的に徒歩で買いに行くはめになりそうだ。

  「あの…シュウ先輩ですか?弓道部の」

  「え?…うん。そうだけど?」

  「初めて話しますよね?じゃそっちがハルカさんだ!」

  「え?何で私のこと…」

  「有名ですよ?中学部の間『女子と話そうとしなかったシュウ先輩が初めて行動を共に

   してる女子』て。二人ともそう言う関係なんですか?」

  いかにも中学生の女子が好きそうなネタ&お決まりの噂だろう。シュウとハルカは再び頭を抱える

  実はこの質問はけっこうされることが多い。まぁ、シュウの片思いに近い感情は伏せておき、

  二人は明白に『違う』と断言する。

  「よく言われるけど、私たちそんな仲じゃないよ?同じ弓道やってて…クラスが一緒で、

   乗る電車が一緒で他の人より一緒にいる時間が長いってだけだよ?」

  「そうだね。その程度の事で彼女と『内密な関係』と思われると僕も少し痛いよ。」

  「何よその言い方?」

  「別に。本心を言ったまでさ。」

  「そうなんですか?私たちてっきり…」

  「そうだ!先輩覚えてます?先輩が5年生の時に結婚した国語の先生、先日漸く

   子供出来たらしいですよ!」

  「え?…それはおめでたい事だね。」



  これが後にハルカを怒らせる原因となる……

  











  ハルカはかれこれ10分夏の暑さと戦っていた。

  直ぐに終ると思われた会話。しかし終ることなく女子はヒートアップ。

  思い出話に花を咲かせている。だが、シュウがいなくてもいいと思われる会話だった。

  隙を見て抜け出そうとするのだがなかなか上手くいかない。女子の巧みな話し掛けに

  もう一歩のところで止められてしまう。

  流石にこれ以上夏の暑さの中で待つ気のないハルカもこっちを少しだけ見たシュウに

  口の動きだけで『まだ?』と聞いたのだが『もう少し掛かりそうだ…』と言う口の

  動きが帰ってくる。



  『(男だからそれぐらいどうにかしなさいよ!)』

  『(どうにかできるんだったらしてるさ)』



  お互いこの少女達を気遣い、既に口の動きではなくジェスチャーや口の動きだけで

  会話するが、少し違和感を抱いた少女達。どうしたのかとシュウに聞くとシュウは

  『用事があって…』そう告げようとしたのだが、ハルカの怒りの行動の方が先だった。

  目を合わせていたシュウに怒った表情を一瞬見せた後口に動きだけで



  『もういい!!』

  そう言って足早に学園の外へと出て行ってしまった。

  女子の中でボー然とするシュウを残して…













  
  「信じられないかも……」

  学園を後にしたハルカは何故か駅のホームに立っていた。理由は『本当に付いてない運の悪さ』

  学園の山を下った場所にあったスポーツ店についたハルカに告げられた言葉は

  「すいません。今切らしていて…一本しか残ってないんです。」

  『品切れ』という響きの悪い言葉。しょうがなく片道20分の旅は電車を乗り継いだ

  電車で15分の所にある支店へと行く事になった。

  そろそろ電車が来る事とハルカは携帯をのぞいて時間を確認する。が電源が入っていない。

  学校を出るとき誤って電源を切ったらしい。まぁ、電車に乗るので切れたままでもいいと思い、

  再び携帯を鞄の中へとしまう。丁度その時、電車の到着を告げるけたたましい音が

  ホームに響き渡る。電車の到着と同時にハルカは電車に乗り込み、ドアの袂の席へと

  腰をおろした。今の時間がラッシュではないため人はまばらだ。自分と数人の人間しか

  乗っていない。そして今度はドアの閉まるアナウンスが電車内に響く。

  『プシュウ』と言う独特な音と共にドアが閉まる。が、なにやら自分の後方が煩い。

  後ろを振り向くとシュウが軽く息を切らせて窓を叩いていたが、ハルカはそれに気付いても

  あえて窓は開けなかった。代わりに『イーだ!』と思い切り歯を見せた怒りの表情を

  示したところで電車は出発した…再びその場にシュウを残して。





  「確実に怒らせたな…」

  考えれば分かる事だった。彼女は待たされた事に怒っているのは当然だ。

  だが、それだけの怒りではない。ハルカは自分が傷つきそうになると素直になれない

  ときなど怒る事がある。それはしばらく彼女と共に行動していて気付いたことだ。

  人の意思表現としては珍しくはない。かなり居ると思われる。しかし…

  ハルカにされると流石のシュウもきつい。

 

  一応自分でもわかっていた。ハルカが引っ越してくる。以前の話をすれば少なからず

  ハルカが傷つく事は…だけどココまで深く傷つくと思っていなかったのも本心。

  しいて言えば『状況が悪かった』この暑さの中、結局は自分の所為でハルカを

  待たせたことには変わりないし、ましてやハルカはシュウより以前から外にいたのだ。

  その暑さは相当な物だろう。それも追い討ちをかけて自分の入れない過去の話…

  ハルカをそう言う気分にさせたには間違いない。いつのも彼女の数倍の怒りの

  パターンにシュウは少々動揺していた…そしてしばらくしてシュウはある大きな

  問題に気付く

  「………確か彼女…一回しかあの町に行ったことがないんじゃ…」

  転校してきて毎日のように学校案内したにも拘らず、ハルカが学校迷わなくなったのは

  2週間後の事。そんな彼女が怒りに身を任せ行動すれば大変な事になるのはわかっている。

  シュウには違う不安が訪れた。

  「次の電車は……」



  

  













  「私って最悪かも…」

  電車に乗っていたハルカは申し訳なさで溺れてしまいそうだった。

  シュウだって思い出話は嬉しいに違いない。実際自分だって

  そうだろう。シュウの知らない学校の同級生とあったらそうなっていたに違いない。

  暑さの所為とはいえそれを責めた自分を本当に馬鹿だと思っている。

  それだけ自分がシュウを頼っていたという事実にも気付く。そんなモヤモヤを

  振り払うため無理やり違う方向へと話を自分の中でずらす。







  「だけどコレ…本当に重いかも…」

  支店に漸くあった箱ごとの冷却スプレーは案の定かなりの重さだった。

  さっきから数回休んでは持ち直すの繰り返し。このまま帰るも学校に行くも

  大して距離は変わらない。このまま帰るか学校に戻るか悩みどころである。

  「シュウと来てたらもう少し軽かったんだろうな…」

  本当ならシュウと一緒に行動する筈だった。だけど自分の所為で彼を置いて

  きてしまった。それは自分の所為であると再び痛感させられる。

  そして何気なくふっといつもの自分に戻ると今の自分の現状を知る。

  

  「ここ…どこ?え?私どうやって歩いてきたの?町並みがぜんぜん違う…」



  今、ハルカは道に迷っている事に漸く気付いたのだ。

  そのお店に行く時にあった本屋さんや喫茶店が自分の眼中にはない。

  代わりに見たことのない呉服屋…不動産屋などが並んでいる。

  「え?!迷った?」

  体中の血の気がサーと引く。知り合いが唯でさえ居ない町に一人きりだという事に  

  「こ、公園で少し休もう!それから考えよう!」

  ハルカは少し歩いた所にあった公園のベンチに腰掛ける。少し疲れた肩をもんで

  目をあけるがそこは全く知らない風景が広がる。今は本当に一人だ。

  転校してくる時に分かってはいた。こうなる事を頼れる友達の数が少なくなる事、

  知らない事が多すぎる事。そして…一人になる回数が多い事も…

  「ああ!!辞め辞め!こんなことしてたら気持が後ろ向きになるかも!

   そうだジュースでも買おう!考えたらかなりの間水分とって無い。」

  ベンチの直ぐ小脇にある自販機の前に立つ

  「本当は喫茶店に入りたいんだけどこの荷物じゃちょっと恥ずかしいし…

   また喫茶店探してたら迷いそうだし…決めた!炭酸飲も!」

  そう言って財布から小銭を出して自販機に入れるが…戻ってきた

  「あれ?おかしいな…」

  もう一回入れてみるが、やっぱり結果は同じ。

  「もしかして、硬貨が新しすぎて自販機がついていけてない?」

  時々起こる現象。何度やってもお金が戻ってくる。本当に今日は運が悪いらしい

  「えー!あとお札の大きいのしかもって無いよ?」

  財布の中を覗くがやはり小銭は入っていない。本当に運が悪いらしい

  「…何でこうなっちゃうかな…」

  再び暗い気分になる。公園でこんなに人は多いけれど自分を知っている人はいない。

  誰も助けてはくれない…自販機の袂に座るなんだかとても自分が惨めだ。

  「誰かが言ってたな…迷った時は動くな…誰かが探しに来てくれるから…

   誰が探してくれるって言うのよ…まぁ、いざとなれば警察にいくなり携帯で

   連絡するなり解決策は多いけどね」

  そう思いながら鞄から携帯電話を出して電源を入れたとたん自分の電話の

  音が軽やかに響く。

  「この着信音は…」

  その時






  『チャリーン!』







  お金が自販機に吸い込まれる音がして炭酸飲料が大きな音を立てて取り出し口に出てきた

  「あれ…今更お金が入ったの?」

  「本当に君は鈍感だね」

  「へ…?」

  ネクタイを緩め、自販機に凭れ掛かかるその人。、この場にいる筈がないのに…しかし、

  間違いなく今、自分に話し掛けている。片手に携帯を持参で。

  「本当に君は一人にしておくのが怖い人だね」

  「どうやってココまで来たの?!電車まだ来てないし…」

  「バスに乗って来るはずだったんだけど…バスが隣町までだったから…そこから走ってね」

  「走ってって…かなりの距離よ?!」

  「ちょっと待って…本当に今回は疲れたから…」

  珍しくシュウの息がかなりあがっている。

  「大丈夫なの?こんな無茶して?」

  「無茶は君だよ。この重い箱を一人で運ぼうとするんだから…一応頼って欲しかったな…

   男として…」

  少し厭味が入っているがそこにはいつもの…自分の知っている『シュウ』がいた。

  「ごめんなさい…私がもうちょっと待ってれば良かったんだけど…」

  「いや、…優しさのつもりで彼女達と話を断ち切らなかった僕も悪いから…」

  「ううん!私が悪いの!…全部……」

  ハルカはベンチでうつむいて自分のスカートをぎゅっと握る。その姿を見て考えたシュウは

  「じゃ、この事はこの尋常じゃない暑さが悪いって事で終ろう。」

  「暑さ…?」

  「そう。だって、暑くなければ君がここまで追い詰められる事も無かったし…」

  「でも……」

  「…君らしくないね。それともこの暑さに君の明るさは勝てなかったのかな…」

  シュウがそう言って冷却スプレーの箱を持とうとするとハルカは箱を開けて

  何本可の缶を取り出す

  「いいわ。この重さの『差』でなかったことにしてあげる。」

  「かなりの叱咤…かな…」






  

  自分が一人だと痛感した時…


  漸く見えた…


  自分が頼れる…


  大切な存在が……

                                 END






  作者より…
  合宿の話じゃなくて、合宿数日前の話です。
  ハルカが転校生だからかけたネタですね。
  久しぶりにトキメキポイントかけました。
  自販機に凭れ掛かってるとか
  携帯で話すのに横に居るとか
  ネクタイ緩めるとか
  長い話だったけどそれなりに満足。
  シュウが女子への優しさと
  ハルカへの思いとの間でゆれる
  あの集団から抜け出す葛藤が難しかった…
  まぁ、本当の彼ならもっと上手に潜り抜けた
  でしょうけどね。
  これからも学園頑張るぞ!!

  補足
  ハルカとシュウの電話の会話シーンはこんな感じ
  「あ、もしもし?」
  「何で君が電話してくるかな…」
  (↑実際着メロ指定で取る前からハルカと分かってます)
  「悪かったわね!あんたまだ学校内に居る?」
  「いるよ。残念ながら」
  「ラッキー!にらんだ通りかも!時間ある?」
  「今日は図書室で調べ物が…」
  「それぐらい後でもできるでしょ!今急いでるの!時間作ってよ!」
  「…しょうがないね。で、どこに行けばいいんだい?」
  「ありがとう!それじゃ校門でね!」


                2004.8 竹中歩