『奉仕作業』






  その日…


  私は『彼』の…『内側』を見た…






  





  「あつーい!!」

  夏休みを控えたここ鳳炎学園で一人の少女は空高くにある太陽に向かって愚痴を

  こぼしていた。今日はこの学園の恒例行事、奉仕作業の日である。

  この学園の奉仕作業は各学年、各クラスが割り当てられた区域の草むしりや

  ゴミを拾う『清掃活動』のことを示す

  「何でこんな暑い日にココでこんな作業しなきゃいけないのよ!!」

  大抵の生徒はこの作業に悲鳴を上げる。が、彼女の悲鳴だけは人一倍。

  彼女の名は『ハルカ』この学園に中途入学した転入生である。

  「そんなこと言って…今日は良い方よ?蒸し暑くないだけ。蒸し暑いと本当に

   これ地獄だもん。」

  大体草むしりというものは女子にとってはおしゃべりの場所。案の定、ハルカの

  周りにも数人の女子が集まり他愛もない会話を交わす

  「でも、この奉仕作業のおかげで今日は半日で終わるじゃない。それを

   考えれば楽よ。楽!」

  「そりゃ、今日、部活がない人たちはいいわよね。私はちゃんとあるのよ?

   静けさを求められる『弓道部』が。こんな暑さの中作業やってたんじゃ、

   昼までもたないかも。」

  どんなに他の女子がフォローを入れてもハルカの口からは愚痴ばかり。あきれた少女達は

  無言で草むしりを始める。

















  数十分後……

  「私、自分の区域終わった。」 

  「あ、あたしも終わり。」

  ハルカの周りにいた女子達は次々と自分達の範囲をこなしていく。そして…ハルカ一人

  取り残された

  「ちょ、ちょ!ちょっと!手伝ってくれないの?」

  「私たちもハルカと同じように暑いの!…早く終わらせてきなよ?かき氷なくなっちゃうよ?」

  「薄情者ー―――!」

  手元の草を握り締めて叫ぶハルカを少し笑うと友人達は足早にかけて行った。

  この学園では自分の区域の奉仕作業が終了したら、褒美として毎年何か冷たいものが

  支給される。昨年は冷やしぜんざいで今年はカキ氷。これがあってこそ生徒たちは頑張れるのだ。

  「ううー―!流石に皆毎年やってるだけあって手馴れてるわよね…。前の学校じゃ

   業者の人とか、先生達がやってくれてたから草むしりなんてやらなかったもん。」

  ハルカが前に在籍していた学校では清掃作業はやっても、ココまで手の込んだ

  除草作業はやらなかった。草むしりは初体験ではないが、毎年やっている『ベテラン』の

  生徒にはどうあがいても追いつかない。

  「うわーん!!終わらないよぅ!」










  「一人の草むしりでよくそこまで喋れるね…」










  ハルカの背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

  女子に人気があり、勉強も出来、その上ルックスまでいいというまるで絵に描いたような

  『優等生』の声が…

  「何で女子の区域にいるのかな…シュウ?」

  シュウはハルカの後方の建物『物置』の陰で休んでいた。

  その状況から人を見下すように笑っている。

  「僕はもう仕事が終わったからね。休んでるだけさ。」

  「確かシュウの班はゴミ捨てだったもんね。いいなぁー。一輪車とか使って楽で。」

  この場合の一輪車とは小学生が外で遊ぶ自転車のようなものではなく、工事現場等で

  機材を運ぶための用具のことだ。草むしりの草を集めたり、ゴミを集めて収集所まで

  持っていく時にとても便利である。

  「そうでもないさ。この広い学園にバラバラに散らばったクラスメイトの所まで

   わざわざ行って、収集しなくちゃならないし…ある意味重労働。それ以前に僕は

   あまり汚れる作業が好きじゃないからね。掃除は別だけど。」

  美しいものを一般人以上に求めるシュウとしてはいくら体操服を着ているからと

  いっても汚れるのだけは避けたいらしい。

  「…ふーん。でもさ、じゃぁ何でカキ氷の所行かないの?」

  「…甘すぎるから……」

  「へ?」

  「カキ氷は砂糖蜜かけたようなものだからね。特に学園のものはサービスのつもりだろうけど

   余計に蜜をかけるから…」

  「甘いもの苦手なんだ。」

  「ある程度の甘さなら大丈夫なんだけど…『過度』の物は避けたい。」

  「で、ここにいるんだ?」

  「そう言う事。」

  漸くシュウがここにいる謎が解けた。が、見ているのなら手伝って欲しいというのが

  ハルカの本音。

  「手伝ってくれないの?」

  「…もし、君が無駄におしゃべりをしていなかったら…終わってたんじゃないのかい?」

  「…」

  痛いところをつかれた。全くその通りである。だが、ハルカにも反論したい部分はあった

  「だって…皆みたいに用意良くなかったもん。帽子も持ってきてないし、軍手だって

   もってない。タオルすらもってきてないのよ?この暑い中。」

  大抵の生徒は毎年のことなので準備万端でこの作業に取り掛かる。だが、ハルカにとっては

  何もかもが初めてなのだ。そん準備が出来るわけがない。

  「…それは君のせいだろ?一昨日、担任に言われたはずだ。必要ならばもってくるようにと。」

  「私……一昨日夏風邪ひいて休んでたんだけど……。シュウ、メールで『やはり君はナントカ

   なんだろうね。夏風邪はナントカしかひかないって言うから』て嫌味たっぷりのメール

   くれたじゃない。」

  ハルカはぷいとシュウから視線をそらして無言で作業を始めた。いくら自分の不注意のことを

  言われても、休んでいた時のことを話されては分からない。シュウはそれを忘れていた。

  しかし、気づいた時にもはもう遅く、ハルカの機嫌は斜め45度ほどになっていた。

  いつも似たようなパターンでハルカを不機嫌にさせる。

  「後はこの草むらだけか……長い草だなぁ…」

  「ストップ!」

  ハルカが最後の草むらに差し掛かったときシュウがハルカの行動を止める。

  「ほへ?」

  「…しょうがないね…同じ弓道部のよしみ…隣の席のよしみとして手伝うよ。その代わり…」

  シュウは軽く自分の持っていた淡い水色のタオルをハルカの頭にかける。

  「…何?これ?」

  「熱射病・日射病・熱疲労…どれにもなりたくなければそれを被って作業したほうがいい。」

  「…シュウは?」

  「僕は休んでいたから大丈夫。それに…」

  「…それに?」

  「そんなダサい格好が僕に似合うはずないからね。ま、君なら似合うだろうけど…」

  肩を少しすくめて笑うシュウに少しカチンと来たがそこは堪えて作業を続行することとなる。

  「口だけは本当に悪いわよね…。あのさ、話変わるんだけど、何でこの学園て業者雇わないの?」

  「清掃作業の業者のこと?…この学園はとりあえずお祭りが好きだから…何かにつけて

   生徒を喜ばせたいんだと思うよ。」

  「喜ぶって言うか…これじゃただの迷惑よ…。」

  太陽が嫌がらせのように暑い中、2人の作業は少しずつ進んでいった。






  





  「え?…草?」

  昼過ぎ…部活を前に昼食をとっていたハルカは合い席になった男子部員の先輩から話を聞く。

  「そう…ハルカちゃんの区域に長い草あったでしょ?」

  「あ!ありました。それに触ろうとした時シュウに止められたんです。」

  「…やっぱりな…あの草は、素手で引っこ抜こうとすると確実に手を怪我するんだよ?」

  「……そうなんですか?」

  「そう…だからあいつ止めたんだよ…。多分、口ではそういわなかっただろうけど…

   さり気に優しい奴だから…まぁ口が悪いのは多めに見てやってよ。」









  その先輩の一言で…


  私は『彼』の『内面』をまた一つ知った。


  弓を構える彼を見ながら……



  
  
                                fin




  作者より…

  奉仕作業でよかったけ?こう言う行動は?
  まぁ、とりあえず体操服を着せられてかなり嬉しいです。
  でも、エスカレーター式の学校こそ業者に頼む
  らしいですね。(友人談)
  まぁ、中学といったら奉仕作業。竹中の学校はそうでした。
  シュウが物置の所にいたのは多分用具を返しに。
  そのまま休んでたんでしょう。
  今回のお話は結構短め。続かなかったのよ…長く。
  多分短編小説に属すると。
  次回は少し学園行事を盛り込みたいです。

                  2004.7 竹中歩