僕の道、私の道、自分の道を突き進め!








「ごめん、待たせたかな?」
「いや、まだ時間よりは早いよ」
 シュウより少し身長が高めの茶色い短髪の髪を持った同年代の男子。
「久しぶりだね、シュウ君」
「君も久しぶりだね。……キミマロ君」
 ハルカの知らないところでハルカをめぐり日々良い戦いをしているキミマロだった。
「ちょっと驚いたよ。君から電話がかかるなんて」
「僕もまさかかけるなんて事になるとは思わなかったよ」
「『まさか』?」
 待ち合わせてすぐに始まった会話でいきなり疑問が芽生える。まさかとは……
「昨日……僕はハルカちゃんと一緒に居たんだ。デートって言うのかな……お昼からずっと二人きりだったし」





 その言葉はシュウに大きすぎるほどのダメージを与えた。





 体は重力を何倍にも感じるほど大きな衝撃を一瞬で与え、
 喧騒で静かさとは無縁の駅前を静寂と化し、
 視界からは色が消えうせ、モノトーンのさびしい風景になり、
 時間はもどかしいほど遅く時を刻む。





 彼女はその為に日曜日の誘いを断ったのだと。理解できた。
「シュウ……君?」
「え? …あぁ……ごめん」
「大丈夫? 今、呼吸してるかすら危うかったけど」
「ちょっと、驚いただけ……大丈夫」
 大丈夫なわけがない。ずっと自分が好意を寄せていた少女が他の男子と二人きりで時を過ごしていた。これ以上の精神的なダメージはそうそうない。
「なら、いいんだけど……。あの、もし僕が今言ったことでダメージを受けてくれてるならそれは、僕としては嬉しい。酷いとは思うけど」
「……」
 そのキミマロの意見にはシュウも心の中で賛同する。
 だって、もし自分が逆の立場だったら、きっと優越感に浸っていただろう。
 ああ、自分は恋愛において恋敵に勝ったんだと。
 だから、否定が出来なくて、肯定するのも腹立たしくて……無言を突き通すしか出来ない。
「やっぱり、受けてくれたんだね。でもね、真相はそんなものじゃないよ」
 少し笑うキミマロ。しかしその表情は苦笑いだった。
「確かに僕は昨日ハルカちゃんと一緒にいた。でもね、一緒に話し込んでただけなんだ。本当、友達と言わんばかりに」
 何故だろう? キミマロの会話と表情から昨日の出来事がキミマロにとっては良いものではなかったと言っているような気がする。
「元々はねホワイトデーのお返しを渡す予定だったんだ。ホワイトデーがちょうどうちの学校が模試で会えなくて」
「じゃ、……今年のバレンタインチョコレートもらった相手って……」
「バレンタイン? 学校が終わって、夜にハルカちゃんからもらったけど?」
「それって、夜の七時ごろ?」
「時間はちょっと覚えてないな……でも、それくらいだとは思うけど」
 ここでこの前先生の言っていたハルカがチョコレートを渡した相手が分かった。
「そっか……」
「バレンタインがどうかした? 貰ってたかったとかじゃないよね?」
「いや、そういう噂があってね。誰に渡したのか気になってただけだよ」
「噂になってたんだ……。でもね、本当貰っただけだよ。しかも義理って分かってたし」
 義理という言葉にシュウは心の中で胸をなでおろす。本命でなかったことだけでも分かったのだから良いとしなくては。それに、今はバレンタインよりも二人のデートのほうが気になる。
「それでね、そのお返しをする為に昨日は喫茶店とか行って話しこんでたんだよ。それに……転校の話しも気になったしね」
「やっぱり……聞いたんだね」
「うん……。ホワイトデーの次の日くらいに。昨日予定を立てる為にね、電話したらあっけらかんと言われちゃったよ。『私、城都へ転校する』て。せっかく再会してまた会えるようになったのにまた別れれちゃうんだと思って……正直、本当にショックだった」
 きっとそれはシュウがハルカから転校を告げられたときと同じくらいの気持ち。キミマロもまた、ハルカの転校の犠牲者。
「それで、僕は思ったんだ。『悔いは残したくない』て……。つまりね……」
「告白することにした……」
 シュウの言葉にキミマロは一瞬驚いた表情をしたがすぐに冷静に戻り……頷いた。
「だって、前に転校して、本当に悔いが残ったからそうすることにしたんだ。もう、告げられないのは嫌だって。そして……昨日の帰り際、気持ちを伝えた。そして……」
 まっすぐにシュウを見つめたキミマロから告げられた言葉は、
「『ごめんね』て……言われちゃった。最初は冗談やめてよとか言われたけど、こっちが必死になって本気だって言ったら……ハルカちゃん、真っ赤になって……すごく考えてくれてそれで、断られた」
 結果を口に出した瞬間から、キミマロの表情はどことなく明るくなった。
 しかし、対照的にシュウの表情は重い。それは……心のどこかで安心した自分とその結果に喜んでいる自分を隠す為だった。
「ハルカちゃん、真剣なことに対しては真剣に答えてくれるから、ああ、この言葉に嘘はないんだなって思った。でも、一晩くらいは悩んでくれると思ったんだけど、彼女ってば『キミマロ君は友達だから。それ以上でもそれ以下でもないの。それが分かっているのに答えを先延ばしなんて出来ないかも』て言われちゃったよ」
「彼女らしいね。友達だからそれ以上でもそれ以下でもないって……」
「だよね。僕もそう思う。でも、なんとなく答えは見えてたから、そこまで落ち込みはしなかったよ。それに、僕への対応は変わらなかったし」
 ショックではないといいつつも、ずっと好きだった少女に振られるというのはきっとシュウが思いもよらないほど辛いものだろう。
「彼女は……何があっても関係を変えないからね。関係の進歩はあるけど、退化はない人だ」
「それがハルカちゃんの良いところだと思う。それに、自分の気持ちを知らないうちにさらけ出しちゃう純粋さも」
「?」
 先ほどからキミマロは何かを言いたそうで言わない。何か言葉を含んでいるような言い方。
「ハルカちゃん、僕といるとき、前の学校の話より、君のことしか話さないんだもん。本当にムカつくほど。君がいたら殴ってたかもしれない」
 のほほんとしたキミマロから発せられた暴力的な言葉にシュウは一瞬驚いたが、それ以上にハルカが自分のことばかりを話しているという事を聞いて……嬉しかった。
 第三者から何度も聞いた台詞。
 ハルカはシュウの事ばかり話すと。
 いつもと一緒なのに、いつもと違う嬉しさ。それは……
「目の前に男子しかいないのに、他の男子の子と話すとかありえないよね」
 キミマロの言葉でようやく理解する。
 何であろうとも、昨日キミマロとハルカのした行為はデート。
 そんなときにでも出てくる話はシュウの事ばかり。
 久々に会った友達なら前の学校のことでも話せばいいのに、それより多かった自分の会話。それが……嬉しさの要因。
「本当、包み隠さずだね。ハルカは……」
 ようやく、キミマロと一緒に笑えた。自分たちは彼女のそういうところが好きなんだと。
 そうしてシュウはまたひとつ、ハルカに思いを寄せる。
「だけど…」
「ん?」
「それを言う為にわざわざ絵南まで来てくれたのかい?」
 そう。途中から疑問に思っていた。
 自分が告白して断ったことを、わざわざ言いにくるなんておかしい。
 振られて慰めてくれというなら分からなくもないが、言っている相手が恋敵。確かに変である。
「うーん……実はこれはついでなんだよね。実際は……」
 キミマロが言った台詞にシュウは……笑う。
「なるほどね。そういうことなら協力するよ」
「ありがとう!」
 いったい、彼らは何をたくらんでいるのだろうか……?










 日曜日昼の午後一時。ハルカは鳳炎学園に居た。
「何で態々こんなところに……?」
 友人たちが送別会をしてくれるのは知っていたが、場所や何をするかなんて聞いていない。
 詳しく聞こうとすると、
『当日までのお楽しみー!』
 と微笑みながら誰一人として友人は詳細を教えてくれなかった。案の定、シュウまで教えてくれない始末。
 サプライズなのだろうが、その驚かされる瞬間まではなぜか疎外感を感じてならない。
 しかし、その疎外感も何とか乗り越え、今ようやく『その瞬間』が訪れようとしている。
 お陰で心なしか足取りも軽い。しかし、いまいち集合場所の意味が分からない。
 今日の十一時あたりにシュウから入ったメールは



 件名:送別会会場
 本文:送別会の会場は【遅咲き桜】の袂になったから、一時に集合。



 シュウらしい用件のみのメール。顔文字なんかは見当たらない。まぁ、使っていたとしても気味が悪い。
 とりあえず、了解とのメールを返信してハルカは家を出た。そして、今に至る。
「遅咲き桜って……まだ咲いてないのに」
 そう。学園の遅咲き桜は名前のとおり学園の中で一番最後に咲く桜の愛称。他の桜が皆散ってから咲くのが毎年の光景。
 今はようやく他の桜が咲き出したばかり。到底、遅咲き桜の季節ではない。
「まぁ、好きな場所ではあるけどね」
 遅咲き桜の咲くころ……ハルカは鳳炎に転入してきた。
 そしてその満開の桜の袂で……シュウに出会った。
 だから、あの桜はハルカに特別な場所。大好きな場所でもある。
「だけど、悩んでたってしょうがない。行ってみよう!」
 途中から歩くのをやめて走り出す。
 いつもシュウのラブレターを目撃していた昇降口の前を通り抜け、
 喧嘩しながらクラスメイトにからかわれた教室を見上げて、
 追い付きたくて、ずっとシュウばかりを目標にして見つめていた的場の角を曲がる。
 そして……そこに現れたのは…… 










「嘘……」










「桜が……咲いてる……」
 満開の遅咲き桜の姿だった。
 ひらひらと心地よい風に乗って舞う花びらはまるで雪のようで……その光景はシュウと出会ったまさにあの時と一緒。
 予想外の光景にハルカは唖然と立ち尽くす。そしてしばらくしてわれに返った時、もうひとつの出来事に気がついた。
「……皆? でも、なんか人数が多いような……」
 桜の袂に大きなブルーシートを広げた集団。それは間違いなく友人たち。
 しかし、妙に人数が多い。確か予定の人数は自分を入れて九人。だが、その人数はどう見ても二桁は超えている。そしてよーく目を凝らして近づいてみると、
「ななな!! 何で皆居るの?!」



「ハールカ!」
 近づいた瞬間、勢いよく抱きついてきたのは、
「カナタ?!」
「久しぶり! ぜんぜん変わってないね!」
 鳳炎に転校してきてもずっとメールや電話で交流をしていた親友、カナタ。

「本当、相変わらずですね、ハルカさん」
「こっちでも元気にしていたみたいね。良かったらあとでシュウ君を紹介してもらえないかしら? 噂に聞くカッコいい男の子よね!」
「もう、ママ! いい加減、カッコいい男の子を見ると目の色かえるのやめてよ!」
 引っ越す前に住んでいた家のお隣さん。
 ハルカの後輩でしっかり者のホシカと、いつも元気いっぱいで若々しく、町のママさんチアリーディングのリーダーでもあったホシカの母親ツキコ。

「まさか、あなたがこんな有名な学校に本当に通ってるなんて驚いたわ」
「まぁまぁ。彼女のがんばりなら問題なかったはずだよ。久しぶりだね」
 前の学校で有名だった幼馴染で出来た恋人たち。
 ハルカとは勘違いでぶつかったけれど、その後は良い関係を気づいてきたエリコ。
 いつも穏やかでエリコのフォローに回っていた人の良い少年、トシキ。

「本当、あなたの元気のよさに代わりが無いことを確信したわ」
 豪快に笑う赤い髪がトレードマークの女性はハルカの前の学校の担任、グレース。



「どうして…皆が?」
「驚いた? ハルカちゃん」
「キミマロ君?!」
 この状況を理解できないハルカに昨日会ったばかりのキミマロが話しかけてきた。
 思わず、機能の出来事を謝ろうとしたが、
「あのね、キミマロ君……昨日は……」
「それは、もう終わったことだから気にしないで。ハルカちゃんの良いところは気を使わないことなんだから。ね?」
 申し訳ない気持ちを抱えるハルカ。しかし、それをキミマロは望んでいない。
「うん……キミマロ君がそういうなら……そうするかも」
「ありがとう、ハルカちゃん」
「ううん。でさ、話し変わるけど……この面子はいったい何?」
 ここが前に住んでいた町ならまだ分かる。でも、ここは鳳炎学園。カナタが居るなんてありえない。
 しかも、一人ならず、何人もの知り合い。一体どういうことだろうか?
「彼が君のために呼んだらしいよ」
「シュウ……」
「君が城都に転校すれば、余計に皆とは会えなくなるから、ここに居るうちに皆と君を合わせたいといって、ここまで呼んだんだって」
「そうな…の?」
「うん。カナタちゃんも皆……君に会いたがってたから……両親に頼んで、連れてきてもらったんだ」
 少し恥ずかしそうに詳細を教えてくれたキミマロ。
「そう言えば、キミマロ君家、お金持ちだったね。でも、ありがとう! 凄く嬉しい!」
「良かった。でもね、シュウ君にもお礼を言ってね? 部外者が入れない鳳炎に僕たちを入れるように手配してくれたのは彼だから」
「そうなんだ……シュウもありがとう!」
 ハルカがあまりにも嬉しそうに笑うので、シュウも少しだが笑って返してくれた。
「シュウ君、午前中にいきなり呼び出してこんなことお願いしてごめん」
「いや、これくらいのことなら大丈夫だよ。それに何より本人が喜んでくれてるし」
 二人の会話を尻目にハルカは久々にあった友人たちと盛り上がっている様子。
 午前中の彼らのたくらみはどうやら大成功だったようだ。
「ねぇ、ハルカ」
「ん? 何、カナタ?」
「ここに居るハルカの鳳炎の友達、詳しく教えてくれないかな? まだ、名前ぐらいしか分からなくて。私たちの事はさっきキミマロ君が紹介してくれたんだけど」
「あ、そうなんだ!」
 てっきり、皆が先についていたのであらかた紹介はしていたのかと思ったが、考えてみれば、このメンバーで共通する知り合いはハルカだけである。
「じゃぁ、紹介するね」
 メンバーはお菓子やジュースを囲むようにして円形に座る。



「じゃ、まずこの子から。この子は『アカリ』。私が鳳炎に来て一番最初に女子で友達になった子。弓道の腕前が凄くて、面倒見もいいの!」
「ハルカ、ちょっと褒めすぎ……」
 少し照れながらも姉御肌で勝気な少女、アカリはぺこりとお辞儀をする。

「次に『マサル』君。アカリの彼氏って事ですぐに打ち解けたの。弓道はシュウの次に強くて、明るいからすぐにこっちも釣られて笑っちゃうかも」
「マサルです! 以後お見知りおきを!」
 メンバーの中で一番シュウとハルカの中を心配してくれた熱血少年は恋人ということで冷やかされて入るがまんざらでもない様子。

「それで、そっちが『タカコ』ちゃん。私と同じ時期くらいに鳳炎に来たから転入生同士って事で友達になれたの。手先が凄く器用で私の髪とかアレンジしてくれるんだよ」
「た、タカコです……あ、でも、アレンジなんてものじゃ本当に無いよ?!」
 顔を真っ赤にしてそんなことはないと否定する少女。でも赤い顔の理由は横に片思いの男子がいるからかもしれない。

「そして、その横にいる男の子が『タカシ』君。勉強を教えるのがとっても上手で、よくお世話になってるかも。シュウももちろん教えてくるんだけどね」
「あの、古事記とか昔の本を読むことが好きです。よろしくお願いします」
 礼儀正しい態度で自己紹介をする。その後に『でも、ハルカちゃんに教えるなら、やっぱりシュウには敵わないよ』なんて二人をからかってみたりするのもまた彼のお茶目。

「それで、次に……あー! もう食べてる! そこでお団子食べてるのが『ツカサ』。食べることが好きだから、良くグルメツアーとか組んで行って遊んでるの!」
「ごめんなさい。お腹空いてて……ツカサです。美味しいものはハルカ以上に大好きです!」
 お団子を無理やり頬張って笑って見せる。色気より食い気という言葉が似合いそうな行動が可愛い少女。

「そしてそのツカサの右にいるのが『ナギサ』君で、左にいるのが『サナエ』君。そこの三人は幼馴染でとても仲良しなの。しかも、ナギサ君とサナエ君の漫才って本当に面白いかも!」
「ナギサでーす! 髪の色素が薄いですけど、ハーフとか外人じゃありません。地毛です」
「サナエです。一応ボケ担当になってます!けど、三人の中じゃ一番しっかりしてると思います!」
 そんなわけないだろと、黒髪の少年はツカサと茶髪の少年ナギサに突っ込みを食らう。本当に三人は仲が良くて、見てて微笑ましい。



「それで……最後に……」
 ハルカが隣にいたシュウを紹介しようとしたとき、鳳炎メンバーを除いた知り合い全員が声をそろえて、

「「「「「「「その人は知ってる」」」」」」」

 綺麗にあらかじめ示し合わせていたかのように声がそろう。
 その光景にみんな最初は驚いていたが、少しずつハルカとシュウ以外のメンバーは笑い出してしまう。
「ちょ、ちょっと何で皆笑うの?!」
「いや、なんだか可笑しくって……。どうしてかな? 心の中で『ああ、やっぱり』て思っちゃったの。多分、紹介しなくても分かるくらい、シュウのことはそっちの友達たちに知られてるんだと思ったからかも」
「そうなの! アカリさんの言うとおり! ハルカのメールでシュウ君の名前だけは覚えてたの! だって、シュウ君だけ、メールの名前の出現率高いんだもん」
 アカリとカナタは意気投合したように『ねー!』と声をそろえて再び笑う。
「つまり、この鳳炎の友達うちでシュウだけやっぱり特別扱いされてるって事だろ? さすがハルカちゃんだなー!」
「そ、そんなことないかも! マサル君!」
 必死でその場を取り繕うがすでにとき遅し。ハルカがシュウに対して思ったとおりの行動をしていたため皆、その行動が笑いのつぼに入っている。
 やはりハルカはシュウを心のどこかで特別扱いしていたようだ。
「ごめん、ハルカちゃん。笑い……こらえられない」
「た、タカコちゃんまでー!」
 もう、と少し怒るハルカだが、誰もその姿が目に入ってはいないらしい。
 その行動をみて、ようやく笑いの根源であるもう一人が行動を起こす。

『パンッ』

 一度大きく手をたたいた。その音で皆の笑いは一斉に静まる。
「治まったみたいですね……。怒ってるわけじゃありませんの安心してください。ただ、ちゃんと自己紹介をさせてもらいたいだけなんです」
 その言葉に体勢を崩していた友人たちは座りなおす。
「じゃ、ハルカ……続けて」
「うん、ありがとう。……じゃ、最後に紹介するわね。彼がシュウ。皆知ってると思うけど、私がライバルにした男子。頭が良くて、運動神経も良くて、おまけに見てよ? 顔まで良いでしょ? 人気もあって、先生からも頼りにされてるのよ? ムカつくったらありゃしないかも!」
「ハルカ……それは自己紹介になるのかい?」
「あれ? 違った?」
「貶してる様に聞こえるんだけど……」
「そんなこと無いかも! 貶してるって言うのはシュウみたいに私に嫌味を言うようなことを言うのよ?」
「あれは真実だから嫌味じゃないって言ってるだろう?」
「真実でも見ない振りとか、飲み込まないようにするとかあるでしょ?」
「前にも言ったけど、直したほうがいいと思うから態々言ってるだけだ」
「だったら、もう少し人目のつかないところで言ったらどうよ?」
 自己紹介から言い争いに発展した二人は、いつの間にか立ち上がり、周りに友人たちがいることさえも忘れていた。そして気づいたときには……

「ぷっ……くっ……! ごめん、あはははは! やっぱり、あんたら仲良すぎ!」

 ツカサの笑い声が響いた瞬間、皆の笑いも限界に来ていたらしく、一斉に笑い始めた。
 その光景を見て、止めようとも思ったのだが、なんだか自分たちも面白くなって一緒に笑い始めてしまった。こうなれば誰も止めようが無い。
 その笑い声はしばらく続いた。










「あー……笑い死ぬかと思った。な、サナエ」
「うん。ナギサの言うとおり。俺らより絶対才能あるよな?」
 まだ、笑いの余韻が残る桜の木の袂で皆は徐々に冷静さを取り戻す。
「シュウ君って、見る限りクールそうなのにこういうところもあるのね。でも、そのギャップがまた素敵!」
「マーマ! 今日はシュウさんを見に来たんじゃなくて、ハルカさん送りに来たんでしょ? あ、でも笑っちゃってごめんなさい。お二人とも」
「気にしないで、ホシカちゃん。しょうがないよ。クラスでもこんな感じだから」
「そう。日常茶飯事だから気にしなくていいよ」
 メンバーより先に冷静さを取り戻したシュウとハルカはお茶を飲み交わしていた。
「はぁ……久しぶりに笑ったわ。笑いは体にもいいからね。と、それと同時にお腹も空くのだけれど」
「あ、いただきますして無かったですね。ごめんなさい、グレース先生。じゃ、食べていいのかな?」
 ハルカが皆を見渡すと全員がOKサインを出したため、ここからようやく送別会が始まる。
「じゃ、ハルカ。乾杯の前に一言」
 アカリに渡された紙コップを持ってハルカは立ち上がる。
「えーと……皆、ここまで集まってくれて本当にありがとう。本当に嬉しい。城都に行くのは……不安とか、楽しみとか、心配とか……色々ぐちゃぐちゃあるけど、頑張りたい。だから……」
 次の言葉を言う前に、瞳から大きな雫がぽたりと紙コップに落ちる。
「え? え? 私泣いてる?! えー! 前の学校の送別会でも泣かなかったのに!」
 予想だにしない出来事に、周りより本人が驚いている。止めようとしても、雫はゆっくりともう一粒、もう一粒と流れ出す。
「ハルカちゃん……」
 思わず、キミマロがハンナチを差し出そうとしたとき、先にシュウがハンカチを持って動いた。それを見たキミマロはハンカチをポケットにしまう。
 きっと、今の自分じゃ役不足だから。そう思ったのだろう。しかし、実際は、
「ハルカ、ハンカチ……?!」
 ハルカはハンカチは受け取らず、乱暴にコップを持っていないほうの手で涙をごしごしとぬぐい、それが終わるとその手で、ハンカチを差し出したシュウの腕を持って無理やり立たせた。
 そして、
「頑張るから、絶対に城都に来るのよ! シュウが来なくちゃ意味無いんだからね! 転校もこの送別会も、この涙も! だから、絶対に約束!」
 契約という意味を持つ右手の小指をシュウの前にハルカは差し出す。
 涙を流した目は赤く、潤んではいるが、その瞳は真剣だった。
 そう……城都へ行く意味を教えてくれたあの時と同じ……本気の瞳。
 そして、その日と見返す瞳もまた……本気の瞳。
「ああ。絶対に城都へ行く」
 シュウは差し出されたハルカの右手の小指に自分の右手の小指を絡ませる。
 契約成立。
 その光景を見た友人たちは拍手を送る。
「もう……こっちがもらい泣きしちゃったじゃないの!」
「エリコ……良いんじゃないのかな? こんなもらい泣きなら」
 その二人のやり取りは一番つっぱねっていたエリコの目からも涙を流させた。
 きっと、皆応援してるよ。
「それじゃ、改めて。皆、ありがとう! カンパーイ!」
 声高らかに、ハルカの声が宴の始まりを告げる。










「そう言えばさ……何で今日は桜が咲いたんだ?」
 和気藹々とする送別会でマサルが一言ポツリとつぶやいた。
「ここは毎年、咲かないの?」
「うん。キミマロ君は知らなくて当然だよね。この桜はね、いつも他の桜より咲くのが遅くて『遅咲き桜』て呼ばれてるんだ。でも、今年はこうやって三月の時点で満開でしょ? だから変なの」
 ハルカは不思議そうに見上げる。
 シュウとであったときに咲いていた桜。
 それが今年はシュウとの別れ際の今、咲いている。不思議な縁もあるものだ。
 そう思っていると、この場所に思わぬ来訪者。
「お姉ちゃん!」
「マサト! どうしたの?!」
「どうしたのじゃないよ! 携帯、忘れていったでしょ?」
 ハルカの弟マサトはズボンのポケットからハルカの携帯電話を取り出す。
「うわー。本当だ。メール返信してそのままおいてきちゃったんだ。ありがとう、マサト」
「本当にもう! 学校に行くとは聞いてたけど、場所が分からなかったんだから。先生が知っててくれて助かったよ」
「先生?」
「ほら、あそこ」
 マサトはその先生を指差す。でも、先生は先生でも
「ロバート理事長!?」
 ハルカは思わず叫んだ。先生とは教科を教えてくれる先生ではない。この学校の最高責任者で、ハルカの城都行きを手伝ってくれた人、ロバート理事長である。
「ハルカさん、送別会は楽しんでいらっしゃいますか?」
「はい、とても、もちろん! あ、弟に場所を教えてくださってありがとうございます!」
「いえいえ。お気になさらず」
 ハルカのお辞儀に対して、ロバートもお辞儀をする。
 実はこの理事長、この学園でシュウの人気を上回るほどの人気。長い金髪と整った顔立ち、そして人当たりのよさが人気の理由。
 そんな綺麗な男性でしかも理事長となればその緊張はかなりのもの。ハルカがあわてるのも無理は無い。
「それにしても、今日は本当に送別会日和ですね。遅咲き桜が満開だから余計に良いでしょう」
「え? 遅咲き桜が早めに咲くのっていいことなんですか?」
「そうですよ。この桜は、この学校が出来たときに植えられたものです。そのときから十数年に一度、こうやって早めに咲くのですよ。そして、その年に送り出された生徒や先生には良いことが訪れるといわれています」
「へぇー……じゃ、私に良いこと訪れますか?」
「訪れますよ。きっと」
「うわぁ〜! 楽しみ! よーし! 頑張るかも〜!」
 遅咲き桜にも見送られることとなったハルカは再び笑顔をでやる気を出す。
「そうだ、ロバート理事長も一緒に送別会参加していただけませんか? それにマサトも!」
「僕も良いの?」
「もちろん! 私がそうして欲しいんだもの。みんな、良いよね?」
 全員から問題なしという答えを貰って、マサトも給与送別会に参加。しかし、ロバートはその場で何か考え込んでいる。
「あの……ロバート理事長?」
 ハルカが名前を呼んでみる。
「あ、すみません。もう一人、参加しても良いのでしたら、私も参加したいのですが……」
「私たちの知り合いだったら問題ないですけど……」
「知っているはずですよ。この学校の人ですから」
「なら問題ないかも! 良いですよ!」
「そうですか。なら、呼びましょうか……と、本人のほうが先に来たようですね」
 誰が来るのだろうと、メンバーはロバート理事長の向く方向へ目を凝らしてみる。
 そこから現れたのは、
「ロバート〜! おまたせ〜!」
 その人物に、鳳炎学園のメンバーは全員小声で『ゲッ!』と叫んでしまった。
 やってきたのは白衣の天使ならぬ、白衣の策略者。鳳炎学園高等部保健医ハーリー先生、その人だった。
「ようやく来ましたか。ハーリー」
「だって、どこかいるか分からなくてハーリー探したのよ?」
「それは申し訳ないことをしましたね。あ、そうだ。君もハルカさんの送別会、参加しますよね?」
「え? 送別会? ハルカちゃんの? もちろん、参加するわよ! ハルカちゃん、城都へ行っても頑張るのよ!」
「はい……」
 両手をぎゅうっと握られたハルカはやる気が抜けたような小さな声で返事をする。
「確かさ……ハーリー先生って……」
 サナエがハーリーに聞こえないくらいの小声で幼馴染どうして話し始める。
「裏表が激しくて有名で、ハルカちゃんみたいな素直タイプが大の苦手。そういう生徒はつぶして遊ぶタイプだっけ?」
 どんな性格だったかをナギサは思い出し、それを言葉にしていく。
「え? でもそれをハルカに仕掛けてそれがシュウにばれて失敗して、それ以来シュウとは因縁関係にある人でしょ?」
 ツカサの一言に二人は頷いた。
 つまりハーリーという人物はシュウとハルカに危険視されている人物。その人物が、今送別会に加わる。
「「「修羅場だね」」」
 怖い怖いといってジュースを飲む姿はまるで三つ子のようだ。
「じゃ、ハーリー、ハルカちゃんの横!」
 無理やりシュウとハルカの間に割ってはいるハーリーの姿を見てこれはバトルの始まりだと思ったが、シュウは何もいわずにハーリーに席を譲って立ち上がった。
「あれ? シュウ、どこか行くの?」
「ちょっと、コーヒー買ってくる」
「あ、僕も付いていくよ。人数が増えたから飲み物買いに行こうと思ってたし」
 そういって、シュウとキミマロはその場を離れる。
 そして取り残されたメンバーはハーリーのカラオケ大会の生贄となるのだった。










「もしかして、話でもあった? キミマロ君」
「……さすがシュウ君。察しがいいね」
 二人は飲み物を買って、再び遅咲き桜の元へと向かっていた。
「で? 用件は?」
「うん。今日の午前中ちょっと聞けなかったんだけど……君は告白はしないの?」
 キミマロのその言葉にシュウの足が少し止まる。
「告白?」
「うん。だって……ハルカちゃんとは離れちゃうんだよ? 城都だよ? 遠いよ?」
「……そうだね……遠いね。城都は」
「だったらどうして? 会えなくなるなら普通は告白するよ。しかも、僕は言ったはずだ。言わな買った後悔するって。それとも、今の関係が崩れるのが怖い?」
「ううん。そうじゃない。今日言ったけど、彼女は関係において退化の無い人。悪い関係にはしない人だ。今の関係は崩れることは無い。前に進むこと……今以上のいい関係になることはあっても」
 そう言って、シュウは再び歩き始め、そしてキミマロはあわててそれを追いかけて行く。
「じゃぁ、なお更なんで?」
「……君はどうして告白しようと思ったんだい?」
「え? ……そんなの……好きだから。ハルカちゃんのことが好きだから」
 そんな当たり前なことをなぜシュウが聞いてくるのか。キミマロは分からないながらも質問には答える。
「それは転校と言う機会が無くても言っていた?」
「わ……からない。でも、会えなくなると思ったらいわなきゃいけない気がして。自分の気持ちを伝えたくて、もし、伝えなくて、城都でハルカちゃんに好きな人が出来たら……後悔するから」
 キミマロが手探りで出した答え。それに対してシュウは……微笑んだ。
「どうして、笑ってるの? 僕、可笑しなこといったかな?」
「いや、それが普通だと思うんだ。他の人にとられたくない。自分だけを見て欲しい。そんな不安があって、もしかしたら彼女は自分のことが好きかもしれない。そんな可能性があるかもしれないと思ったから、君は告白したんだよね」
「うん……そんな感じ。嫌だよ……自分の知らないところで、好きな人に好きな人が出来たりするのは。だから、僕は告白した。悔いはやっぱり残ってない。未練は少しあるけど。……シュウ君は後悔しないの? 告白しなくて」
 キミマロが問いかけた場所はちょうど遅咲き桜のところに出る曲がり角。そこで、シュウは再び足を止めてキミマロのほうを向いて、
「不安が無いから告白しないよ」
「え?」
 そんな言葉がいきなり向けられる。
 意味も、何のための答えなのかも分からず、もう一度聞きなおすキミマロ。
「どういうこと?」
「彼女の事は……好きだ。でも、だからといって転校という出来事であわてて告白なんてしたくない」
「だけどそれじゃ、思いを伝えられないままハルカちゃんに好きな人が出来ちゃう可能性が……」
「そうなったら、振り向かせる。振り向いてもらえるまで。それに……」
「……?」



「彼女の一番であり続けるために、強くなる。ライバルあり、目標であるために。
 だから僕が成すべきことは告白よりなにより、自分を磨くこと」



 キミマロが思っていた以上に、シュウはハルカのことを思っていた。
 好きな人は自分のために転校する。
 好きな人は自分を目標としてくれている。
 だから、自分も好きな人のためにやることをする。
 それが、シュウのハルカへの気持ちの証。
「告白がすべての愛の証じゃない。その人が喜ぶことをする事もまた証。だから僕は告白はしない」
「だけど……それだと、ずっと今の関係のままだよ? 進歩したくないの?」
 そうだ。だとすれば今の状況がずっと進歩しないまま続く。シュウはそれに耐えられるのだろうか。
「僕は今の状態で満足してる。……と言うのは嘘になるけど、今、彼女の中で一番中が良い人物であるならそれで良い。ある意味臆病かもしれないけど」
「……よく言うよ。普通、臆病な人は言わないよ」
「でも、そう思ってるのは事実だ。一番ならそれで良い。他の人に一番を取られた時は取り返すけどね。それに、取られない自信もあるし」
「……敵わないな。君には」
 そう言えてしまうシュウには本当かなわないとキミマロは笑う。それに釣られてシュウも笑った。
「いや、僕も敵わないよ。告白すると言う君の勇気には」
 キミマロは嫌われる可能性が少しでもあったのに、気持ちを伝えると言う勇気を持っていた。
 シュウはハルカの中で一番と言う存在であり続ける為、己を磨き、思いを隠すと言うものを貫いている。
 どっちもが本当に凄いんだ。
「じゃぁ、ハルカちゃんのためにも今日は盛大にやらなくちゃね」
「ああ」
 二人は笑って、遅咲き桜の角を曲がった。そのとき、人とぶつかる。
「と、ごめんなさい……理事長?」
「ああ、シュウ君でしたか」
「どうされたんですか……その、抱えているハーリー先生は?」
 ロバートは意識を失ったハーリーを自分にもたれ掛からせて運んでいる様子。
「さっきまでカラオケをずっと熱唱していたんですが、あまりにもマイクを離さなかったので、グレースさん、でしたか? あの方が鳩尾に一発いれたようですね」
「あぁ……そういうことですか」
 そういう理由ならば気絶してもしょうがないとシュウはハーリーに情けをかけなかった。
「そういうわけで、私たちはお先に失礼します。あとは皆さんで盛り上げてください。そうだ、シュウ君、君も新学期からはハルカさんに負けないくらい頑張ってくださいね。期待していますよ」
「はい、ありがとうございます」
「では」
 目を回した自業自得ハーリーを引っ張ってロバートは校舎の方へと向かって消えていった。
「ロバート理事長先生は、ハーリーさんと仲いいのかな?」
「ここの出身で同級生らしいよ。全く、先輩だとしてもハーリー先生は敬えない」
 はぁ、大きくため息をついたシュウを見てキミマロが笑う。
「まぁまぁ。ほら、皆待ってるよ」
「シュウー! キミマロ君! 早くー! 今から皆が色々暴露大会するって!」
 その言葉でシュウの目に入るのはやはり友人たちでなく、ハルカの姿。
 ハルカもシュウの姿を見て、そして笑う。










 この場所で僕と私のすべてが始まった。

 そして、僕と私のそれぞれの道がまたここから始まる。

 この遅咲き桜に見守られて……




















〜エピローグ〜









 パパ・ママ・マサトへ
 皆、元気でやっていますか? 私はようやくここの生活にもなれるかなーって感じです。
 明日はいよいよ始業式って事で今からワクワクしています。
 ここはいろんな学校から生徒が集まっているので、私みたいな学校間連携の
 生徒もいるので、けっこう友達にはなりやすかったです。
 寮での私の部屋の両隣の生徒はもう友達になりました。親しみやすい感じの子かも。
 だから……





「うーん……手紙って苦手かも。今の世の中あんまり書かないよね? 手紙って。パパもメールじゃなくて手紙にしなさいって言ってたし。まぁ、この方が形に残るしね」
 ハルカは城都学園女子寮の自分の部屋で手紙を書きながら文面に詰まっていた。
 いまどきはメールなどが多いので、こういった行数の多い文字を書くことはあまり無いだろう。筆不精だとこういうとき本当に不便だと、いまさらながら自分の手紙の書かなさをうらむ。
 そうこうやっているうちに、部屋の扉が叩かれた。
「あ……もう集まったんだ」
 ハルカは友人に扉越しで今行く!と叫んで、手紙をそのままにして部屋を飛び出す。





 寮の外では何人かが集まり、すでに出発の準備をしていた。
 引越しの準備などで城都学園にこもりきりだったハルカは今日は学校の外へ初めて出てみる。





「おまたせー! 城都って何かおいしいものあるといいな!」
 駆け寄った少女はハルカ。鳳炎からの弓道推薦関連携生徒。
 明るい性格だが、時折おっちょこちょい。語尾に『かも』とつけるのが癖。

「あんたってば、食べ物の話しかないの?」
 ため息をもらす少女はアカリ。ハルカと同じく弓道推薦関連携生徒。
 姉御的存在。ドジで馬鹿な彼氏が今のところの主な悩み。

「ハルカちゃんらしいよね」
 お下げがかわいい少女、タカコ。親が転勤族なため、今年鳳炎から城都へ転入。
 転校を期に思い人に告白したらしいが、その思いを知る人物はタカコと思い人のみ。

「私も気になるー! おいしいもの!」
 元気いっぱいに叫ぶ少女の名はツカサ。両親の新企業開拓により、鳳炎から城都へ引っ越してきた。
 食べることが大好きで、引っ越す前に城都のグルメマップを作るほど食べることに関しては熱い。

「オレは遊べるところー!」
 少年の名はマサル。鳳炎からの弓道推薦関連携生徒。
 勉強は駄目だが、性格は明るい。転校理由の真相は彼女が転校するだったから付いてきたとか。

「僕は図書館かな」
 物静かな少年はタカシ。自分の好きな分野をより深く追求するため城都へ転校してきた。
 古事記が好きで良く本を読んでいる。しかし、近頃本より見るものが他に出来たとか出来ないとか。

「とりあえず、食べすぎには気をつけろ! ツカサ!」
 黒い髪の少年はサナエ。両親の都合により、鳳炎から城都への引越しが決まり転入。
「本当。お前、限界無いもん」
 茶色い髪の少年はナギサ。同じく両親の仕事の都合上鳳炎から引っ越してきた。
 ツカサと三人ぐるみでの幼馴染。主に二人はツカサのお目付け役とボディーガードをかねている。
 メンバー内のお笑い担当。ボケはナギサでツッコミはサナエと担当が決まっている。





「でもさ、びっくりしたかも。あの送別会の暴露大会のときにみんなが城都行きの事言うんだもん」
「あんたがいけて、私らがいけないわけ無いっての。……それに、ハルカを見てたら私も行きたくなったのよ。強くなって見たいって。皆理由は違えど、転校はあの時点で決まってたのよ」
「アカリまで黙ってるんだもん。なんでもう少し早く言ってくれなかったのよ。それに……」
 ハルカは後ろに立っている、自分より少し身長が高い男子に話しかける。
「シュウまで言わないなんてひどい」
「言わなかったんじゃなくて、皆あの日に行くことが決まったんだよ」
「でもだからって最後まで黙ってるなんて……」
「同じこと、僕にした人に言われたくないね。君には思いやりとかそういう常識的なことが欠けているようだ」
「たくっ! こっちに来ても嫌味は顕在ね!」



 緑髪がひときわ綺麗な少年の名はシュウ。鳳炎からの弓道推薦関連携生徒。
 しかし、推薦を一度断り、後に志願したと聞く。
 ちなみに転校の件に関しては一人の少女がかかわっていたと言うのはもっぱらの噂ではあるが、真相は分からない。



「ロバート理事長の言ってた良いことってまさか、皆が来る事分かって言ってたんじゃ……
 ま、いっか! さぁ!今日は城都をあそぶかもー!」
 ハルカの声が響き渡るのは鳳炎ではない。
 しかし城都でもきっと彼女らは楽しく学校生活を送るだろう。
 今、彼らの学校生活は再び幕を開けた!










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 作者より……
 長きに渡り鳳炎学園をご愛読いただきありがとうございます。
 一応、ここでシュウハルの鳳炎学園はピリオドです。
 そういうわけですので、後書きも大盤振る舞いで書きたいこと書きます!

 さて、考えてみれば涼樹さんから設定をお借りして書き始めたのが
 三年前ですから、綺麗に中学校生活をすごしたことになりますね。
 これを見始めてた中学生の方はへたすれば高校生ですよ。
 本当、まさか自分でもここまで長く書くなんて思っても見ませんでした。
 しかも、祭りとか主催しちゃったり。
 このお話を書いてみて、自分は学生とか青春が大好きなんだと初めて知りました。
 やっぱり、やってみないと分からないことってあるんですね。
 これがきっかけで私は学生生活を好きになることが出来ました。

 実は私は中学校と言うものにちゃんと通っておりません。
 まぁ、事情は人並みに色々ありますが、その当時は学校が大嫌いでした。
 でも、こういう物語を書くに当たって、嫌だった学生生活でも
 好きなこととか楽しいこともあったんだと思い知らされましたね。
 嫌いと言うものが大きすぎて楽しいと言うことが見えていなかった中学時代。
 それをこのシュウハルの学園物は思い出させてくれました。
 なにより、自分が鳳炎学園に通っているみたいで楽しかったんです。
 この学校風景は私がしたかった理想の学園生活かもしれません。
 でも、理想でもあるけど、実は現実だったのかもしれない。
 一応、かろうじて通った三年生のときのクラスを思い出して書いてみました。
 だから懐かしくて、時には新鮮で、そして楽しかった。
 だから、あの中学時代も捨てたもんじゃないって思えるようになりましたよ。

 そしてようやく最終回で友人の名前が登場。そんな訳で友人が生まれた経緯でも。

 アカリはお母さん的な少女を目指して作りました。
 友人に前に私はお母さんみたいなところあるよねって言われてそれを形にしたのが彼女。
 名前はとりあえず、女の子は全員カタカナの『カ』を入れようと思って、
 明るい子ってことでアカリ。漢字のイメージは一文字で『明』。

 タカコはおとなしい少女を目指しました。
 引っ込み思案で言いたいことをいえなくて、でも土壇場とかでは発言しちゃうタイプ。
 そして、好きな人に一途と言う典型的な恋する女の子です。
 名前は古い幼馴染からいただきました。漢字では『貴子』と書きます。

 ツカサはハルカと意気投合する子という子で考えしました。
 何でも良く食べてポジティブに考えるところとか。いたずらが好きなところとか。
 何となく幼馴染キャラがいないと思って男の子を追加しました。この子が一番書き易い。
 名前は男女どっちか分からないのにしようと言うことでツカサは平仮名で『つかさ』です。

 マサルは私がこういう男子好きだから生まれたんだと思います。
 中学のときの真ん中にいるような元気なやつ。そして友人思い。
 何気に彼女もちと言うギャップが欲しかった。馬鹿に見えても女の子は守れると言う感じが。
 名前は学生時代の似たような性格の男子から貰いました。優しい男子って事で『優』

 タカシ君はシュウと似たような男子が欲しいと思って生まれました。
 こう、シュウと対等に話せる大人びた子、同じ考えを持つ子。そんなイメージで作りました。
 何もかもシュウが一番じゃつまらない。多分彼が性格で唯一シュウの上をいく子です。
 名前は男子は全員サ行を入れようとしたら女子とかぶった『貴史』君です。

 お笑いコンビは最初からありましたね。男女混合の三人組が欲しいって事で。
 それで、彼らが生まれました。基本、家…と言うかツカサちゃんの屋敷に住んでいるので、
 三人とも住所一緒です。彼らのお父さんがツカサのお父さんの秘書です。
 そういう環境で育ったので、ツカサは絶対に守らなきゃと思い、いつも守ってます。
 多分、未来はツカサが跡取りになるので、彼らが社長秘書になると思います。
 名前は彼らが一番、思い入れがあります。
 ツカサちゃんが生まれたときに、男の子っぽいから、それでいじめられないようにと
 彼らの両親が自分たちの息子には女の子っぽい名前をつけようと言うことで
 こういう名前になりました。全国のツカサさん、サナエさん、ナギサさん、すいません(汗)
 ちなみに漢字は『唆苗』に『凪唆』です。漢字だけ見ると男の子っぽいです。

 そんなこんなで友人たちは生まれたのです。
 今はもう、彼らで物語を作れるほど愛しています。シュウとハルカを見守る彼らが大好きさ!

 さてさて、かなり長くなってしまいました。
 まぁ、鳳炎学園最後だし。
 本当に皆様私の鳳炎学園を読んでくださってありがとうございました。
 涼樹さんもありがとうございます。
 私はシュウハルが大好きです。学園が大好きです。青春が大好きです。
 そしていろんなものに出会えたこのお話が大好きです。
 これからもこの鳳炎学園は私の中で宝物になっていくでしょう。
 そして、このお話が皆さんの心の中で時々思い出されて、
 シュウハルがもっと愛されていけることを思って最後にいたします。

 本当にありがとうございました!

 2007.4 竹中歩 Thank you for you!