鳳炎学園 暖かい地方のどこかの町のどこかの山にあると言うお金持ちの私立校。 その学校敷地内にあるとある部屋でやり取りされた会話。 それを知る者は当事者のみだろう。 「……君の願書は通りましたよ」 「ありがとうございます。無理を言ってしまって……」 「いえいえ。君のやる気に応えただけですよ。それに君の優秀な成績ならなんら問題はありません。これから大変でしょうが、頑張ってくださいね」 「はい。転校しても頑張ります」 一人の紳士的な長い金髪の男性と鳳炎学園に在籍する一人の生徒。 そんな二人の会話だった。 告白〜白き日に告げる真実〜 三月。鳳炎学園は何かとあわただしい。 それは新学期も近いことから、編入試験だ、入園試験だので学校内は疲労困憊の教師が増大する。つまりそれほど仕事が多くなれば、どうやっても授業時間は減るわけで、その点は生徒たちにはうれしいことだった。 「今日も半日授業だったね」 「この時期はどうしてもそうなるさ。毎年のことだから珍しいことじゃない」 「普通だったら授業が遅れるだので問題になりそうだけど、鳳炎の場合はこうなることを予測して授業作ってるから凄いかも」 鳳炎学園から駅までの道のりを並んで歩く二人。 それはもう鳳炎学園では名物となってしまった二人であった。 一人は快活と言う文字が似合う少女ハルカ。 一人は美麗と言う文字が似合う少年シュウ。 クラスメイトで隣の席で同じ委員会で同じ地方にすんでいて、そして親友で戦友でライバル。そんな不思議な関係を彼らは今まで少しずつ前に進みながら歩んできた。だからこの風景もなんら変わりない日常。それを二人は今満喫とまでは行かないが過ごしている。 「そう言えば皆は? 女子の友達は皆帰るって言ってたけど、男子もやっぱりそう?」 「うん。皆先に帰るって。メールとかで連絡貰ってる」 「やっぱそうかぁ。今日はホワイトデーだもんね。皆先約入っちゃってるか」 がくりとうな垂れるハルカ。 今日は三月十四日。世の中ではホワイトデーと言うバレンタインのお返しをする日。 幸い、今年のホワイトデーは奇跡的にシュウが一つもチョコレート受け取らなかったことから、何もしなくて良いらしく、平穏には過ごせている。しかし、シュウとハルカの友人たちは、御礼をするためにプレゼント買いに行くとか、何か奢るとか奢られるとか色々な理由で今日は傍に居ない。 ホワイトデーに何もしない男女二人と言うのは逆に物悲しい。 おかげで今日は二人きりで歩いている。 「皆薄情かも。私も誘ってほしかった……」 「君……僕以外の男子に今年何か渡した?」 「……渡してないかも」 てへっと可愛く笑ってみせるハルカ。 何も渡していないのにお返しだけ貰おうなんて凄い考えである。 「それなら誘われなくて当然だよ。全く、どうやったらそんな自己中心的な考えになるんだか」 「う、五月蝿いわね! ちょっと言ってみただけでしょう?」 「どうかな? 実は本心だったんじゃないのかい?」 シュウの台詞に一瞬ひるむハルカの行動はまさに図星。つくづくハルカは隠し事が出来ないたちらしい。 「そうやって人の心見透かしたようなこと言うのやめてよね! 普通に言うだけならまだしも、シュウのはただでさえ嫌味っぽいんだから」 「事実を言うのが悪いこと?」 「言って良い事実と悪い事実があるの!」 むちゃくちゃなことを並べ立て、何とか図星をごまかそうとするハルカ。しかし、その行動がシュウを面白がらせているということにまだハルカは気づいていない。 「まぁ、そういうなら今度から少しは事実を控えてあげるよ」 「少しなの? ま、改善してくれるのなら良いかも。ところでさ、シュウ」 「ん?」 「今日先生に呼ばれてたけどあれ、何? 凄く時間が掛かって見たいだけど……」 「あ、あれは……」 言葉と一緒に今まで快調だったシュウの足並みが止まる。何か聞いてはいけないようなことを聞いてしまったような雰囲気。 「何か私不味いこといった?」 この行動に不安を覚えたハルカはシュウと一緒に足を止めて表情を伺う。 「いや、大したことじゃないんだ。君が気にする必要はない」 なぜかハルカにはその言葉が嘘をついているように思えて仕方が無かった。だから念には念を入れてもう一度聞いてみる。 「本当に?」 「ああ。もし、関係するようなことなら絶対に話すから」 「それなら……いいけど」 本当はもっと深く聞いてみたかったが、どうしてもシュウの表情がそうして欲しくないといっているようで……ハルカはここで追求を止めた。 そして会話の方向を変えて再び歩きながら話を始める。 「でさ、これからどうする? 部活もないし」 「電車もまだ来ないしね」 「絵南行きの電車って実はそんなに無いんだよね。日常の昼間とか余計に無いし……じゃ、やっぱりどこかでお茶でも飲む?」 「昨日もそれだっただろう?」 「そんなこと言ったって……」 二人は少しはなれた絵南に在住中。 鳳炎から絵南までは少し距離があり、バスが電車通学になる。しかしながら今の時間帯ではまだどちらの便も無い。どうにかして時間をつぶさなければ。 そうしてあれだこれだと案を出し合って、最終的にシュウが何とか打開策を提案。 「たまには鳳炎で散策でもしてみる?」 「え?」 「この時期だと外でも過ごしやすいし、幸い今日は天気にも気温にも恵まれてる。いい気分転換にはなると思うよ」 「でも鳳炎で散策って言っても……どこを?」 鳳炎はいわば二人にとって慣れ親しんだ場所。今更散策するようなところは無いと思われる。それを指摘したハルカにシュウは笑って地面を指差した。 「ココ」 「ここ?」 ハルカが不思議そうに首をかしげる。 「ここったって……学校しかないよ?」 「それを散策するんだよ。ココは山を丸々一個使って学校にしているからね。ずっとココに籍を置いている僕でも言ったことが無い場所も多いんだ」 その言葉は探究心旺盛なハルカの心を刺激するには十分だった。 「へぇ……なんかちょっと面白そうかも! 行って見たい!」 「じゃ、決定だね」 「うん! それじゃ、一度学校の中にある売店に行こう? お菓子とか飲み物買う為に!」 「結局君は花より団子なんだね……」 普通なら聞こえている嫌味も何かやりたいことがあるハルカに対しては全くの無意味だった。 果たして二人はどんな冒険を繰り広げるのだろうか? 「今更だけど……鳳炎学園て本当に広いかも」 「敷地を把握している人なんているのかどうか怪しいくらい広いよ」 売店に立ち寄った二人はお菓子やシューズを適当に買って鳳炎学園の存在する山の頂上を目指した。 登山の途中には乗馬部の馬たちにも遭遇したりと、それはまるでちょっとした遠足。楽しいことが大好きなハルカには有意義な時間の過ごし方になったらしく、それは表情からも見て取るれる。かなり楽しんでいる様子。 損なちょっとした発見を繰り返しながら二人は頂上まで後一歩と言うところまで来ていた。 「ちょっと休もう? 流石に疲れちゃったかも」 「賛成」 二人は休憩小屋らしき場所を見つけるとそこのベンチに腰掛ける。傍には桜の木や、木から吊るしてあるブランコもあり、その光景は学校の敷地内だとは到底思えない。 「本当、凄いわね……まるで本当に登山してるみたい」 「テレビで見るような本格的な登山ではないけど、実際には登山に間違いは無いよ」 「でも、私はこう言う登山好きかも。シュウの解説もわかりやすいし、なんたって発見もある!」 ハルカは本当に発見するのが好きなようで、シュウに目に入った新しい物を全て聞いてきた。まるで、ここには言ったばかりの新入生のように。 「それに、私ここの頂上から見る景色好きだから苦しいとかも思わなかった。皆は日ごろここの頂上には行かないの?」 「あまりに慣れ親しんでる場所だから態々登ろう何て皆思わないらしいよ。でも、僕は人が少ないから時々登るけどね。変に騒がれることもないし」 「あははっ。いかにも人気者らしいシュウの言いそうなことかも」 各自売店で購入した五百ミリリットルペットボトルのキャップを開けてジュースのを流し込む。 気温が高いことや、ここまで上ってきた運動量からそのジュースはいつもより美味に感じた。 「美味しい! それにここ、日陰になってるからひんやりして気持ち良いし……最高かも! 賑やかなb所も好きだけど、たまにはこう言う森の中の静けさって言うのも良いよね。シュウはやっぱり静かな方が好き?」 「毎日誰かに騒がれてたら、おのずと静かな方が好きにもなるさ」 ハルカの問にわざとらしくため息をついて見せるシュウ。 それは人気者であるが故の定めと言うものだろう。 「んー…確かにそういう状況になったら静かな方が好きになるかもね。当人で無い私でもあの状況下は嫌かも。シュウ様ファンクラブ本当、怖いんだもん」 「好意を寄せてくれるのは構わないんだけど、一方的で度がすぎた物は迷惑以外のなんでもないよ」 「好きだから何をしても許されるって訳じゃないもんね」 「本当、それが分かってないのかな……彼女たちは」 「毎度毎度ご苦労様。なら、今日はいい気分転換になったんじゃないの?」 「そうだね。久々に肩の荷が下りた気がする」 最初はハルカを喜ばせるつもりで誘った山登り。それがいつしかシュウを癒させる物に代わっていた。 それは山の所為なのか、それとも横に居る少女の所為なのか……定かではない。 「そう言えば……ここからでも見えるんだね。高等部」 ふと、ジュースを飲んでいたハルカが目にした光景を口にする。 「え? ああ、校舎ね。一番頂上に近いから見えるさ」 三月忙しいのは中等部だけではないらしく、高等部もまた忙しいらしい。その証拠にここから見える高等部グラウンドには人影がない。きっと高校も午前中授業だったのだろう。 「あの校舎の中に居る同級生ってほとんどが知り合いでしょ? それって凄いかも。普通は受験して知らない人が増えたりするのに」 「エスカレーター式だからね。そりゃ知り合いばかりにもなるさ」 「それが鳳炎では当たり前な風景なんだよね……。転入生とか馴染むの大変そう」 「でも、君はそれをやってのけた人だろう?」 「え? ああ、そうか。私も転入生だっけ」 あっけらかんと話すハルカにシュウは思わず「記憶力大丈夫?」と突っ込んでしまう。 普通、それほど簡単には忘れない物だと思うが。 「だけどね、それは私がここにそれだけ馴染んでるって証拠だと思うの。私……もうここの一員だよね?」 「……ああ。多分皆が口をそろえてそういうね」 「そっか。そっか、そっか! なんか……嬉しいかも」 その一言が嬉しかったらしく、ハルカは満面の笑みを浮かべた。それを見ていたシュウは一言。 「君は……本当に凄い人だね」 「い、行き成り何よ?」 笑っていたハルカは、シュウの質問に顔を驚きへと変える。 「人との関係を築けるって事」 「………? 関係?」 「そう。転校しても、転校前の友達との友情関係を保ち、更にはここの生徒とも馴染んだ。普通はできないことだと思う」 「そうかな……」 そうでもないと返すハルカだが、シュウは首を横に振る。 「僕はこう言う性格だから、人との関係を築くのが苦手なんだ」 「えー! だって、信頼とか厚いじゃない!」 「いい子ぶってればね。でも君は違う。素でそれをやってのけてるから。これは僕でもできないこと」 「なんか、シュウに褒められるのって慣れてないから……くすぐったいよ」 思わず、ジュースを飲むふりをして目線をそらした。そうでもしないと照れているのが伝わりそうだから。 「確かに。日頃君は褒める点がほとんど無いからね。こう言うとでもないと褒める機会なんて無いかもしれない」 「褒めてるかと思ったら貶すんだから。でも、何でそんなこと行き成り言い出だすのよ? 関係を保つだの作るだのって」 「それは……」 シュウは再び、今日ハルカに利かれた先生の呼び出しの件のときの様に表情を曇らせる。 「ま、またその表情? 私、本当何かした?」 不安そうに覗き込むハルカの顔。本当に今日のやり取りの繰り返しだ。 「いや、そんなつもりは無いんだけど」 嘘だ。本当は関係がある。 「私のことだったら言ってよ? シュウも私が鈍感だってわかってるでしょ? 言ってくれなくちゃ分からないかも……」 本当は言いたい。でも言えない 「大したことじゃない。だから大丈夫」 また嘘をつく。嘘の上につく嘘。 「……言いたくないんだったら言わなくても良いよ。でも、きっと話してね?」 その彼女の言葉に救われて罪悪感が残る。 「ああ。必ずね」 言えない自分を恨んだ。 そんなシュウの心の葛藤は暫く続いた。 彼の心の蟠りはまた、拭えないまま時だけがすぎる。そしてハルカはそんな重い空気を何とか打破しようと試みる。 「あ、あのさ、さっきの質問じゃないけど、私ってそんなに友達作るの上手な方なのかな? あんまり自覚無いんだけど」 「素質はあると思うよ。友情を大切にしているのからこそ出来るのかもしれないね」 「普通のことしてるだけだと思うんだけどなぁ。でも、シュウが言うなら間違いないのかも」 シュウのほうを見てまたぱっと笑う。本当ハルカは花が咲いたような笑い方をする少女だ。きっとこう言うことが出来るから友人たちを寄せ付け、更には安心させられる。これはある意味才能と呼ぶに相応しいかもしれない。 「だったらこれからまた友達が増えるんだろうな……楽しみ。あ、もちろんシュウとの友情も続けていくし、ライバルにもなるわよ?」 「そんなこと改めて言わなくても」 意味はわからないが、シュウはハルカにあわせて笑った。そして、 「私ね、また転校するの。だから改めて言いたくて……自分に自信をつけて更には確信を得るために。本当、ありがとう!」 その言葉の意味を理解するのにシュウは通常の数倍の時間を要した。 「今……なんて」 「私、城都の方に転校が決まったんだ。で、友情を保てるかどうかとか、友達上手く作れるかなとか不安があったんだけど、シュウにお墨付き貰ったから! 頑張る!」 話が上手く頭に入らない。 あまりにも嬉しそうにハルカが笑うから……シュウは言葉を失った。 その日、僕は担任に他校から推薦の話がきていると聞いて職員室を訪れた。 でも、鳳炎から離れる気など毛頭無い僕はもちろんそれを断った。 そのときに担任が一言。 「そう言えば、先月バレンタインにコンビニでハルカと会ってな。今からバレンタインのチョコレートを渡しに行くといってたんだが、あれはやっぱりお前か?」 笑って楽しそうに質問する担任だが、その言葉は僕を十分に混乱させた。 今年のバレンタイン、確かに彼女とは交換バレンタインをしたがチョコレートは貰ってはいない。 聞いた話によると、先生とハルカが会ったのは夜七時ごろ。 その頃僕は既に家路についていた。家族なら夜渡せばいいからそんなことは言わないだろう。 一体誰なんだろう? それが気になってしょうがなくて、ホワイトデーにはやっぱりお返し貰うのだろうかと余計なことを考えて、彼女に不愉快な思いをさせた。 本当は彼女には関係が大いにあって、聞きたかったけど、聞くのが怖くて聞けなかった真実。 それで考え込んでいた自分なのに…… 「―私ね、また転校するの―」 僕は一体……どうすればいいのですか to be continued... 作者より… ホワイトデー実は続き物です。 ハルカ転校説浮上ですがな。どうするよ、シュウ。 多分、シュウ人生史上初めての窮地だと思います。 ハルカは意外にあっけらかんと話しそうだと思ったのです。 そして最後にどうなるかなー。 それはまた次のお楽しみってことで。 次回までお待ちください(嫌な奴だ) 2007.3 竹中歩 |