『もう一つの物語』






「シュウ先輩に彼女出来たって!!」
 教室に飛び込んできた友人の一言は私を驚愕させた。
その一言は大好きな先生が離任すると言う話を聞いたときよりも…
恋愛沙汰には全く興味が無かった友人に彼氏が出来たと言う話を聞いたときよりも…
ずっと私を驚かせたのは間違いない。




 シュウ先輩とは私たちの通うここ『鳳炎学園』中等部では知らない女子はいないというほどの有名人。容姿端麗は当たり前として、文武両道もさることながら、冷静沈着…クールな性格がまた女子の人気を誘う。おかげで、シュウ先輩を憧れる女子は数知れず。まぁ、私もその中の一人ではあった訳だけど。




 彼女が出来たと言う話はあっという間に中等部に知れ渡ったが、後に本人たちが訂正をして回ったと言う。訂正された部分はシュウ先輩には確かに女子の親密な友人が出来たには間違いないそうだが決して恋人同士ではないらしい。それを聞いて安堵した私と…なんともやりきれない感情を持った私が複雑に交差したのは確かだった。


















「暑い…」
 そんな騒ぎもいつのことやら。今は夏休みを終えて、期末テストも終了し、今学期のメインイベントの一つ『文化祭』の準備であわただしく時が進んでゆく。
 私もシュウ先輩の親密な関係の女子の出現でめでたく失恋(?)したわけで、心置きなく文化祭の準備が出来ると言うもの。……だったはずなのに…
「本当、暑いよね」
 何故か私の傍にはシュウ先輩がいる。理由としては簡単で、シュウ先輩とその噂の親密な女子『ハルカさん』は文化祭実行委員。私もクラスの男子と一緒に実行委員になっている。そして、準備班として私のクラスとシュウ先輩のクラスは一緒に行動することとなった。
「ほ、本当ですね。」
 自分でも緊張しているのがよくわかる。シュウ先輩は私にとって好きな存在だったが『手の届かない人』だったからだ。シュウ先輩とは年齢が違うため殆ど接点が無い。弓道部に所属しているから時々大会で見たり、全校集会の時にチラッと見る程度。そして何より怖いのはシュウ様(シュウさんだっけ?)ファンクラブの会員の恨み。少しでも仲のいい人間がいるとその女子は校舎裏に呼び出されると噂で聞いたことがある。あくまで噂だから何処までが真相かわからないけど。そのお陰で近づけない私…いや、大抵のシュウ先輩好きの女子が近づけないでいただろう。きっと高嶺の花になっていたと思う。そんな先輩が横にいるんだから緊張するのも当たり前と言うもの。
「付き合わせることになっちゃたね。」
「いえ、気にしてません。」
 さっきからおぼつかない会話が続く。
 うちのクラスの男子とハルカさんは文化祭に必要な機材の注文にすぐ傍の店へと入ったきりだ。本当は4人で行っても良かったんだけど、お店があまり広くないから他のお客さんにも迷惑がかかるだろうとシュウ先輩が言い出したので、2人だけ行くこととなった。男子の方は店の人と知り合いらしいから選ばれたけど、ハルカさんは『クーラーがきいてるから行きたい!』と少々我侭な意見で選ばれた。普通なら怒るけど、シュウ先輩に近づけるならまぁいいかと思った自分がいたので、これを承諾。そして今にいたるわけだ。
「彼女には本当に困らせてもらうばかりだよ」
 ハルカさんについて愚痴をこぼす先輩。だけどその顔はいやな表情ではなく、逆にその困らせられることが嬉しいと言わんばかりの表情。これが続に言う『恋は盲目』と言う奴かもしれない。
 シュウ先輩とハルカさんを見ていて分かることが少しだけどある。それはシュウ先輩の方がハルカさんを好きだってこと。大抵の女子がそれに気づいている。
 まだ、2人が噂になりたてな頃、私も他の女子と一緒でシュウ先輩が誘惑されたとか弱みでも握られてるんじゃないかと思った。それぐらい、シュウ先輩は女子を一緒に行動するのが少なかったから。シュウ先輩は一緒にいる女子が他の女子に『いい気になるんじゃない』と言われている現場を目撃したらしく、それ以来そんな不幸な女子を出さないために女子を近づけなかったんだ。だから、余計にハルカさんのことをよく思えなかった。
 でも、私の想像と本物のハルカさんは全く違う。それどころか想像していたほどいちゃついてもいない。いや、仲が悪くも見えた。クールな先輩がハルカさんに向かって嫌味を言ったり、ハルカさんも勝てないと分かっていながら突っかかる。そのやり取りは『好きな子だからいじめちゃう』と言う典型的な恋愛図に見えた。それからかな…シュウ先輩の方がハルカさんの方を好きなんだなって思ったのは。ハルカさん天然ボケが入っているみたいで全く気づいてない。
「でも、ハルカさんてなんか可愛いですよね。」
「え?」
「だって…年上って気がしませんもん」
 そう。ハルカさんには先輩の威厳が感じられない(ごめんなさいハルカさん)。悪い意味じゃないよ。ただ、付き合いやすいんだ。頼りになる女友達って感じかな。それにどこか放っておけないくて逆にこっちが年上に見えてくる。だから可愛いと思う。それにねハルカさんは『先輩』て呼ばせない主義らしいの。なんでも先輩って呼ぶと『隔たりが出来たみたいでヤダ』て。だからさん付けやあだ名で呼ばせてるみたい。どうしても無理って子は先輩で許してるみたいだけど。だから嫌いじゃない。ハルカさんのこと。
「確かに。彼女は子どもっぽいし」
 ほら…また笑ってる。いいなぁ…本当に恋愛してるって感じで。私もシュウ先輩の横で笑ってたかったよ。(あ、今笑ってるか。)
「怒られますよ?」
「かもね…。そうだ、ちょっと待ってて。」
 行き成り先輩は話を切り上げると近くのコンビニへと走っていった。飲み物でも会に行ったかな?あ、早い。もうレジ終わったんだ。
 店から出てきた先輩は袋から何かを取り出す。…アイス?取り出したのは二つに分けれるアイスだった。先輩はそれを二つに分けると一つを私にくれる。
「甘くないやつだけど平気?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます。」
「ごめん、あまり僕が甘い物得意じゃないから…2人には内緒だよ?ばれると後が怖いから。」
「ハルカさんにですね?分かりました。」
 私は先輩からアイスをもらえただけで十分に嬉しかったけど、先輩が甘い物が苦手と言うことが分かったことも嬉しくて、顔に少し笑みがこぼれる。甘い物苦手だったんだ…じゃ、バレンタインとか大変だな。来年からチョコレート止めようかな…って…私何考えてるんだろう?先輩にはハルカさんもいるし…それに私の中では終わった人なのに。
 脳内で格闘する私…多分すごい形相だったと思う。そのときだ
「あー!!2人でアイス食べてる!」
 もう少し時間がかかると思っていた二人の帰還。案の定シュウ先輩に向かってハルカさんが怒ってる。
「早かったね」
「うん、後輩のお陰で助かったかも。ありがとう!」
 ハルカさんは屈託の無い表情を男子に向けている。あーぁ男子赤面してるよ。確かにハルカさん可愛い系の女子だもんね。モテそうだし。当たり前か。
「でも酷いよ。私たちだって頑張ってるのに。」
「頑張ったのは彼だけだろう?」
「し、失礼かも!」
「ウソがあるかい?君は涼しいところに行きたいと言っていったわけだし。」
「う゛〜。はぁ、もう良いわよ。ちょっと待ってて。」
 二人の言い合いを聞いてるとやっぱりちょっと焼けてくる自分がいる。だって、こんな先輩見たことないんだもん。ハルカさんはすごい早さでこの場所とコンビニ往復して帰ってきた。何か買っていると思ったら私たちと同じアイス。それを二つに割ると男子の方にあげていた。
「これで、全員平等じゃない?」
「そうだね。先輩が後輩に奢るんだったら問題もないし。」
「でしょ?………ん?」
「どうかした?」
 ふと、ハルカさんの行動がとまり、シュウ先輩がふしぎそうに問いかけをする。
「ねぇ、これシュウにしたら甘いけど、大丈夫?」
「ああ、これぐらいなら平気だよ。」
「そう。」
 そして何事も無かったかのように食べ始めるハルカさん。やっぱりハルカさんは私の知らない先輩を知ってるんだね。甘い物が駄目だってこと。私ファンやってた期間長かったけど知らなかったこと、出会って少ししかたたないのに知ってる。ていうか、多分ハルカさんが一番先輩の事を知ってるんだ。
「ああ!!シュウ!弓道部のミーティングの時間!」
「あ!もうこんな時間だったんだ。2人ともごめん。今日はこの辺で!」
「ごめんねー!本当に!じゃ、後日の委員会で!」
 2人は物凄い速さで私たちの前から姿を消す。速い…流石文武両道のシュウ先輩に運動神経抜群のハルカさん。追いつけないよ。
 残された私たちも直ぐに解散をした。その私の手にはまだアイスが残っている。容器に入ってるタイプだから解けても平気。だけの中身ど略液体に近い。
「あーぁ…やっぱり忘れられないのかな…」























好きだった人のことは忘れられない。

甘い物が駄目だとか…

本当は好きな人いじめちゃうタイプだったとか…

微笑みも出来るんだとか…

全てに楽しさや嬉しさがこみ上げてくる。












「まぁ、こんなものかもしれないね。案外。」











私は心の中で一つの区切りをつけた。
それはまた新しい恋愛を探そうと言う心意気。
きっと、先輩のことは忘れられない。
女子は大抵が昔好きになった人を忘れられないと言う。
例えそれが終わった恋愛でも。
新しい好きな人が出来ても昔好きだった人が横を通れば、
心の中に何かがわきあがる。
それは何度も繰り返す。




「それに先輩から嬉しい言葉貰ったし。」



『内緒だよ』
少しの間だけでも先輩と私をつなぐ物が出来た。
それだけもらえたら良い方だよね?
先輩のその言葉は送る言葉としてもらっておきます。
















さぁ…明日も頑張ろう。

 

                               END



作者より…
竹中本来の少女小説炸裂です。
書いた後に見るとかなり痛いです(甘すぎだって)
今回はシュウハルでは初めての試み。
シュウでもハルカでも誰でもない女の子の視線で
お届けしました。
シュウは人気ありますからこう言う思いした
女の子がいても不思議ではないと思って書いた次第です。
と言うか多分絶対いたと思います。
それに、例え振られても、例え他に好きな人が出来ても
女の子の中でも好きな人はずっと好きな人なんじゃないかな。
女の子特有かと知り合いの男子に聞いたところ
男子も時々あるそうです。
まぁ、恋の秋って言いますからちょうど
良かったんじゃないでしょうか?

とりあえず、さぶ疣がたった方はごめんなさい。
ええ、私自身もたちましたから(笑)。
小説は 恥と喜び 紙一重

              2005.9 竹中歩