その思い出は1人で思い出すだけだと思っていたのに そうならない事が起きるのが偶然。 『文化祭〜驚愕のクラス展示〜』 「ハルカー!遅刻するわよ!」 「今行くー!!」 平日の朝。ハルカは時間に追われていた。早く家を出なければバスの時間だの電車の時間だのに間に合わない。それはいつもの事でこの家にとっては日常茶飯事。自分でも直そうとは思っているのだがうまくいかないのが現実。 「はぁ…また小言言われるかも。」 深いため息を付きながら教室についたときのイメージを膨らませる。きっとあいつは嫌味たっぷりで自分に挨拶をしてくるだろうと。 しかしそんな想像を膨らませている時間などはない。早く家を出なければ。 最終的な身だしなみを鏡の前で整え、部屋を出ようとしたとき『それ』はハルカの目にとまる。 「もう…出番無いんだよね。本当ごめんね。」 「ハルカー!!」 「はーい!」 何か別れを告げるような囁きは母親の激怒の声で消し去られていた…。 「それで?今日は何するの?」 「本格的に部屋を作ろうかと思って。」 遅刻ギリギリで登校してきたハルカは案の定シュウに嫌味たっぷりの挨拶を貰い、少々機嫌を損ねて席についた。そして朝のHRが終わり、今日が漸く始まる。でも今日はいつもの今日ではない。授業が無いのだ。 何故授業が無いか。それはこの鳳炎学園中等部の文化祭が迫っているから。 ハルカ達の通う鳳炎学園は全国有数の金持ち学校として有名。そんな学校だからこそ文化祭にかける手間隙や技術は半端ではない。公立中学の人間には到底考えもつかない文化祭となる。そう…丸で校舎自体が大きなテーマパークと化すのだ。 なんでも業者を雇うクラスもあるらしいが『そんなの文化祭じゃない!』と公立校からの転入生ハルカが一喝。今年は全部業者に任せるのではなく、自分たちに出来る事は自分たちでやろうと言うことになりクラスが今までにないやりがいを感じていた。 「確か…6部屋だよね?」 「そうそう。」 ハルカ達のクラス展示は『世界のお茶展』と言う名目。 他のクラスは今流行のメイド喫茶や学校では考えられないほどリアルなお化け屋敷など。いたって普通の出し物をするクラスもあれば、本業者顔負けの映画を作るクラスやマッサージ・ネイルアート等など金持ちだからこそなしえる出し物をするクラスもある。そこにあえて目をつけたのがこのお茶というもの。 もともとはハルカとハルカの友人で食べる事が大好きな少女が食べ物関係をやりたいと言い出したのがきっかけ。しかし、単なる喫茶店や出店では他のクラスと被る事は目に見えていた。そして考え出されたのが、一つの教室を数個の部屋に分け、そこで本格的なお茶を楽しんでもらおうと言う企画。文化祭と言う事もあり、外部の人間の入場も許可されている。つまり本格的なお茶とは無縁の人々も多数くると言う事。そんな人たちにお茶を楽しんで安らいでもらおうと考えたのだ。単にお茶を出すのではなく、お茶にあった軽食やその国々の民族衣装を着た生徒がもてなす。そしてお茶が気に入ればそのお茶の葉などの販売も行う。確かに金持ちではないと出来ない企画ではある。国々のお茶をそろえたり、民族衣装を作ったり発注したり。しかし、結局お茶を出すのは生徒。つまり自分立ち頑張らなくては良いお茶は出せないのだ。これこそ『自分たちの出来ることは自分たちでする』と言う物には間違いない。 「それで、私たちは何すればいいの?」 「えーとね、男子はとりあえず教室の部屋作りで、女子は軽食の研究。調理室は他のクラスに取られてたけど、うちのクラスの保護者の1人が…」 「1人が?」 「外に仮設のキッチン作ってた。」 「ええ?!そんなことってあるの?」 「あるよ。時々ね。」 「シュウ…」 友人との会話に何時の間にか顔を出すシュウ。毎度毎度あることとは言え、さすがに心臓に悪い。 「金持ちの学校だからね。何があっても不思議じゃないんだ。」 「あはは…私には到底ついていかない考えかも。文化祭なんて各クラスに振り分けられた限られた資金でどうやりくりするか。それが一番だったもんね。」 「この学校はクラスの保護者が資金出してくれるから…ほぼ無限に近いわね。」 「なんか普段は公立っぽいクラスなのにお金のことになるやっぱり違うよね。」 いつもはなんら変わりのない学生たち。本当に何処にでもいる学生に見えるが、じつは大手旅行会社の嫡男だとか、聞いた事があるホテルチェーンの娘だとか、果ては大物政治家の孫娘など等、保護者の事を出してきてはきりが無い。まぁ、その保護者のお陰でこうやって大きな文化祭が出来るわけだが。実際、このクラスには保護者で威張る子はいない。その辺に公立出身のハルカは感謝をする。 「で?私たちは何をすれば言いの?」 「それなんだよね。」 今回まとめ役となったのは先ほどからハルカとはなしている友人。ハルカと一緒にこの企画を発起したグルメな友人だ。案の定保護者は棒ファミレスチェーンの社長。 「2人とも何処の属してないんだよね?」 今回の文化祭の為にクラスは各国ごとに班分けされているが、シュウとハルカは文化祭実行委員なので、忙しいだろうと言う友人の配慮で何処にも属していない。 「思った以上に実行委員忙しくなかったんだよね。」 「実際仕事があるのは体育館の出し物時だけだしね。」 2人は今の状況を説明する。要するに暇人なわけである。 「あ…本来なら女子は調理に言って欲しいけど…」 「行っても足手まといになるよ。私。」 「君にも料理下手と言う自覚症状はあるんだね。」 「それぐらいあるわよ!それに作るより食べる方が性に合ってる!」 「だよね。やっぱり料理は食べる方がいいよね。…って!そうじゃなくて。…うーん…後で軽食の方の味見は頼むとして…」 「え!食べさせてくれるの?」 「うん。ハルカは舌が肥えてるから。…うーん…じゃ、2人そろって男子と部屋作りやってもらっても良い?」 「OK!いいよね?シュウ。」 「ああ。」 「それじゃ!お願いね。私はパンフレットの原稿とかの手続きで会議室に行くから。」 「はーい!」 友人はなにやらかかれたノートを手に教室を出て行った。 「さてとやりますか!」 「手、かなづちで打たないようにね。」 「分ってるわよ!」 こうして2人の準備は漸く始まる事となる。 「そういえばさ、ハルカちゃんの学校ってどんなところだったの?」 「学校?前の?」 「あ、俺も聞きたい!」 そう声をかけてきたのはクラスで一番騒がしい男子2人。司令塔の友人の幼馴染であり、いつも3人で行動しているが多いため、何かとハルカは面識がある。ハルカは人数の足りないこの男子たちの班を手伝っていた。 「聞いた事無かったよね?」 「そっか。シュウに話した事あったからそれで話した気にはなってたけど皆に話してなかったっけ。」 「やっぱりシュウには一応話してるんだ。」 「まぁね。でも面白い話でもないと思うよ。」 「それでも良いって。で?どんな感じだったの?」 「どんな感じって言われてもね…今と対して変わらなかったよ。皆と話して勉強して…あ、でも進路相談とか受験とかはあったな。」 「あ、やっぱりあるんだ。」 「俺絶対その手駄目!」 少年2人は大きく罰を作る。見た目的にも分るようにやはり勉強は苦手なようだ。 「それ以外は本当一緒だったよ。まぁ、確かにお金の面とかじゃやっぱり違うけど。専用バスがあるとか、敷地内に合宿施設があるとか。それ以外は一緒。」 「ふーん…結局学校は学校てことか。」 「だな。」 「手、止まってるよ。」 「シュウ、何時からお前いたんだ?」 「かれこれ30秒前くらいから。」 気が付けばハルカの傍にいるシュウ。それを察知できなかった少年たちはやはりそのいきなりの登場に驚く。 「悪い悪い。あ…釘もう無いや。」 「あ、じゃ俺取りに行くよ。」 「お前が行くなら俺も行く!」 2人はそれが当たり前かのようにならんで走っていった。女の友情は薄いとはいうが男子の友情は深いらしい。ハルカはそれが少し羨ましく感じだ。 「いいなぁ。ああいう関係。」 「羨ましい?」 「うん。でも私にも友達はたくさんいるし。」 釘が戻ってくるまでつかの間の休息。その間に繰り広げられる会話など誰も聞きはしない。 「さっきさ、前の学校の話してたんだけど…」 「今の学校も前の学校も同じ…と言うあれかい?」 「そうそう。何処も一緒だけどやっぱりアレは違うんだよね。アレは。…もう一度機会があれば…」 「あれ?」 「そう。」 「釘貰ってきたー!!」 少年たちの帰還で打ち切られた会話。結局それは何なのか分らず仕舞いに終わった。 そして数日間の準備は順調に進み漸く文化祭前日となったある日。 その事件は起きた。 「忘れてた−!!」 クラス中に響き渡った司令塔である女子の声。それは前日練習としょうして総練習まがいを行おうとしていたクラスメイト全員に響き渡った。 各部屋から民族衣装に着替えた少女たちや少年たちがぞろぞろ集まってくる。その光景は民族大集合と言った感じである。 「どうしたの?」 ハルカが慌てて駆け寄る。 「ハルカとシュウのこと忘れてたのよ!」 「?」 「?」 名前を挙げられた二人は示し合わせたかのように首をかしげる。自分たちを忘れたとはどういう意味なのだろう。 「2人の衣装の事すっかり忘れてた。」 その言葉で一緒に困惑していたクラスメイトと2人は理解した表情を浮かべる。 「はぁ…。2人には客寄せしてもらおうと思って目立つ格好用意しなくちゃとあれほど思ってたのに…」 「客寄せ?私たちが?」 「うん。ほら、2人の性格さえ知らなければ美男美女って感じじゃない?」 「性格悪くて悪かったわね。」 「君だけならまだしも僕まで言われるとはね。」 「まぁ、そんな痴話喧嘩は置いておいて。そんな2人だからこそ目立つ衣装と思ってたのに…どうしよう…」 「別に制服でいいんじゃ…」 「甘いわよ!制服なんてうじゃうじゃいるんだから。それに制服で客寄せしてる方がよっぽど恥ずかしいわよ。遠くから見たら単に大声あげてるだけど思われちゃう。」 「まぁ…そうかも。」 想像していると制服での客寄せと言うのは案外恥ずかしい物だと知る。確かにそれは遠慮願いたい。 「あーどうしよう…。普通の服ならまだしも、今更民族衣装なんて手配できないし…うーん…」 少女は頭を抱える。この少女、元々ハルカと性格が似ていたため、友人となった。つまり…ドジなところが多い。そこを幼馴染の男子がずっとサポートしてきたわけだ。 「私服じゃ余計に見立たないしね…どうしようか。シュウ。」 「僕に聞かれても。第一民族衣装といったって、一つの国ばかり着ていたんじゃこの教室にいろんな国のお茶展があるとは分らない。」 「だよね…。はぁ。」 「もう、こうなりゃ目立てば何でもいいわ!そうすればお客さんから声かけて来てくれるはずだもの。」 「目立つとは言っても…この学校でどうやっても目立てばいいやら。」 ハルカの言うとおり、この文化祭と言うテーマパークで目立つのは至難の業。コスプレまがいの生徒がうじゃうじゃいるのだ。それに対抗する衣装など手作りするほかは無い。しかし、今そんな時間がないことはこのクラスメイト全員が分りきっていた。 「はぁ……。まぁ、悩んだところでしょうがないわ。手配できなかった物はどうにも出来ないから。ハルカ、シュウ。」 「ん?」 「なんだい?」 「本当に悪いんだけど、やっぱり学生服で客寄せって形なると思う。それでもやってくれる?」 友人に頼み込まれた2人は暫くアイコンタクトをして…何かを決意し、笑う。 「いいわよ。大声出すのは慣れてるもん。」 「残念ながら目立つ事もね。声を出さなくても目立つものは目立ってしまうから。」 「じゃぁ…」 「うん。明日はこれで頑張るわ。ここまでやってきたんだもん」 「無碍には出来ないからね。出来る事はやらせてもらうよ。」 「ありがとう!じゃ、皆明日はがんばるよ!」 再びクラスは結束を深め、明日の決戦に備えた。 「とは言ったものの…」 「制服は勘弁…て?」 「うん。」 帰りの電車の中2人は明日の事に関して話していた。 「目立つ衣装って結構難しいよね。」 「まぁね……」 「明日は大声で何とかするか。シュウみたいに目立たなくても。」 「君も十分に目立ってる気はするけど。」 「何それ?私がトラブルメーカーってこと?」 「さあね。」 一方的に怒っているはるかの言葉をあえて流すシュウ。そう言う意味で言ったわけではない。唯… 「(自分がモテてると言う実態を知らないって言うのはどんなものか)」 単に本人が知らないだけで、ハルカは意外にモテる。意外にと言うよりはこの顔でほぼ完璧なプロポーション。それに加えて明るい性格に運動神経抜群。同じ年層の男子なら注目を置くのが当然だろう。シュウはそのことを言ったのだが、本人には通じなかった。 呆れてため息をついたときふと電車から他校の生徒が目に入った。そしてシュウはそれを引き金にあることを思い出す。 「あ…」 「何?」 「…目立つ方法…ある。」 「え?」 「僕が君を初めて見た時どう思ったか知ってる?」 「はぁ?初めてって…転入してきた時?」 「うん…。」 「確かシュウとの初対面は…」 ハルカとシュウの初対面は弓道部の的場。転入前日にハルカが書類処理などの為に来たさい、矢が的に刺さる不思議な音に連れられ危険防止用のフェンスに張り付いてたのをシュウが目撃。それからいろいろな因縁があり今にいたる。 「的場だったと思うけど…それが?」 「あの時普通に思ったんだ『目立つ子』だって。」 「目立つって…なんで…」 「君の格好に驚いたんだよ。」 「私の格好…制服?!」 「そう。前日ってことで前の学校ので来てなかったかい?」 「うん。制服を学校で受け取ったから…その時は前の制服だった。だから目立ったの?」 「うちの学校はおろか、この辺じゃ見たこともない服だったし…一瞬コスプレかと思ったよ。」 「失礼ね。でも、確かに目立つかも。前の学校の制服ならこの辺の人では見たことないし。」 「それで明日来ればいい。君が嫌じゃないんなら。そうすれば君の友人も手配を怠ったことを後悔せずに済む。」 「そうだね。ありがとうシュウ!」 電車が駅についたとき2人の顔は笑っていた…。 「《へぇ、ハルカのところ明日からなんだ!》」 「そうなの!もうすごく楽しみ!」 家に帰宅したハルカはいつもどおり夕食をとってお風呂に入り、そして自室で前の学校の友人であるカナタにメールをしていた。そしてメールが発展し、何時の間にか普通の電話に手段が変わる。内容はもちろん文化祭の事。 「でもさ、客引きである私の衣装決まんなくって大騒ぎ。だけど前の学校の制服が目立つてことが判明してそれにしたんだ。」 「《うちのガッコの制服がそんな風に使われるなんてね。でも目立つものなの?》」 「目立つらしいよ。シュウが言ってた。」 「《シュウ君がね…》」 電話の向こうでカナタがにやりと笑う。 メールでしかシュウのことは言っていないが、ハルカのメールに出てくる回数からカナタはそのシュウと言う少年がハルカに気があることは把握済みである。女の感とは恐ろしい物だ。 「《で?シュウ君とやらはどんな衣装に?一緒に客引きやるんでしょう?》」 「シュウはないと思う。多分制服のままかも。それを考えるとちょっと可哀想。」 「《なんだ。残念…あ!ごめん。ちょっと今から出掛けるみたい。文化祭頑張ってね。》」 「あ、うん。夜遅くにごめんね。」 「《良いって。じゃ!報告待ってるよ!》」 「うん。」 がちゃりという音をたてて電話は切れた。そして電話の向こう…カナタがこのときある作戦に動いていたと言う事にハルカは気づくはずもなかった…。 そして…当日… いよいよ後一時間で文化祭は開始される。クラスメイトたちは最後の準備に余念がなかった。 「皆、落ち着いてね。楽しければそれでいいんだから。」 「分ってるって。」 「楽しみだよね!」 「ああ!髪が乱れてる!」 「ガムテープ!あそこちょっと歪んでる」 様々な声が響き渡る教室の端っこで2人は佇む。 「着替えないのかい?」 「最後の方に驚かした方が面白いと思って。黙ってるの。」 ハルカは面白さをこらえ切れず嬉しそうに笑う。 「はぁ…君は本当悪戯好きだね。」 「悪かったわね。」 「ハルカ!いるか?」 そんな会話を壊すように担任が教室に向かって叫んだ。 「いますけど…何ですか?」 「来客だ。」 「え?」 教室から出ていたハルカは開きっぱなしになっている扉を右に曲がる。そして暫くして聞こえた雄叫び。 「キミマロ君?!」 その名前にクラスメイト数人が動いた。他のクラスメイトは聞き覚えのない名前に思わず教室の窓や入り口から乗り出す。そこにいたのは……見たこともない男子。驚いたハルカに対して和やかに話していた。 「誰?!え?誰?」 「この学校の人?」 「いや…違う。」 困惑するクラスメイトを止めたのはシュウの一言。シュウはその男子と面識があった。 そう…弓道部の合宿の時に偶然再会した、ハルカの前の学校の友人。そしてハルカを気にする男子。 キミマロが登場した事でシュウの心をざわつく。さすがに冷静さを装うので精一杯だ。その心を知ってかしらずか、ハルカはキミマロと来客室へと足を運ばせて行った。その行動に唖然とする友人たち。 「なんで?他校の生徒が開催前に?」 「どうやって入れたんだ?」 「アレじゃない?ほらうちの学校で時々ある…許婚はOKとか言うシステム?」 ざわつく教室。金持ちの世界では良くあることだ。許婚がいるなど。しかしハルカに限ってそんな…。 いてもなってもいられなくなったシュウは案の定教室を飛び出していった。それを見たクラスメイトたちは…笑っていた。 「熱い男だね。」 「それじゃね!またあとで!」 シュウが来客室についたときはキミマロの姿は既に外で…ハルカはそれを見送っていた。そして教室に帰ろうと方向転換したときにいきなり息切れしたシュウの姿。ハルカは目を丸くして驚く。 「ど、どうしたの?」 「いや…はぁ…どうしたって…君こそなんで…彼が…」 「そのことだけど…ちょっと手伝って。」 「…?」 脳で整理する時間も与えられないままシュウはハルカにつれられある場所に連れて行かれた。 「更衣室?」 付いたのは男女の更衣室。そして男子の更衣室の前に佇むシュウにハルカは袋を渡す。 「これに着替えて。」 「どうして…それにさっきに話が…」 「着れば分るって。それじゃ私も着替えてくるから。」 パタンと言う音を立てて女子更衣室の扉が閉まった。腑に落ちないが着替えないわけにも行かない。シュウも男子更衣室へと足を踏み入れる。そして渡された紙袋の中身で漸く理解した。 「なるほどね…。」 そして…その理解はクラスメイトを驚かせる事となる。 「帰って来ないね…」 「まさか…取り合ってるとか?『ハルカは渡さない!』とか言って」 「殴って大事になってるとか?」 クラスは予想にしなかった状況にざわつくしかなかった。とりあえず2人が帰ってきてすぐに開催できるように用意はしてある。外は2人を待つだけだった。そして…漸く待った少女の声。 「ただいま!」 「お帰り待ってたわよ…って!何その服!」 「前の学校の制服。目立つでしょ?」 友人たちの前に現したハルカの姿に一同驚愕。赤を基本としたセーラー服はこの地方では見たこともないほどに派手だったのでただただ唖然とする。 「目立つって…本当に前の学校の?」 「うん。」 「一瞬、美少女ゲームの服かと思った。」 司令塔の少女が言うのも無理はない。現実とかけ離れた服に普通はそう思うだろう。 漸くハルカの服になれた頃、その少年の声もクラスに木霊した。 「これでよかったのかい?」 「うん。完璧!」 「シュウも…?」 ハルカもハルカだったがシュウもシュウだ。白を基調とした学ランズボンは青系これまたアニメの世界で見るような制服。その制服に身を包み眼鏡をかけていた。その姿は確実にシュウ様ファンクラブ(シュウを愛する少女たちの集まり)から追いかけられるのは必然のようにも思えた出で立ち。 「シュウのはどうしたの?」 「これも私の前の学校の制服。さっきの男の子が届けてくれたの。」 「あ…さっきの。そう言う事ね。でも良く入れたわね。開催前に。」 「先生付き添いで荷物だけだったしね。それにママが連絡入れてたみいだから。」 「そう…でもよかった。これで全員集合ね。」 少女は全員を見渡す。クラスメイトは強気な笑みを浮かべていた。 「みんな…勝ち戦行くよ!」 「戦って…」 「まぁ、いいんじゃないの?」 「行くぞー!!」 「「おー!!」」 こうして鳳炎学園中等部の文化祭は開始された。 「始まったね。」 「そうだね。」 2人は学校のグラウンドへと向かっていた。案の定前の学校の制服の効果は抜群で既に他のクラスの人間にさえ驚かれている始末。 「そうだ…ありがとうシュウ。」 「どうしてお礼?」 「ほら準備のときに話したでしょ?『アレは違う』って。そして『もう一度機会があれば』って。それこれの事だったのよ。」 「もう一度着たかった…そういことかい?」 「うん…可哀想だったから…」 「可哀想?」 「少しの間しか着てあげられなかった…だから、着れる機会作ってくれてありがとう。」 シュウに微笑みかけるハルカ。そんな雰囲気の良い二人に近寄ってくる背後からの足音 「ハルカちゃーん!」 「シュウー!」 駆け寄ってきたのは幼馴染コンビの2人。どうしたというのだ? 「どうしたの?」 「いや、お礼言いたくて。」 「お礼?」 「あいつだよ…司令塔。あいつへまやったら落ち込んでたけど、2人がどうにかしてくれたから元気になったみたいで。」 「俺らが俺言うのも変だけど、本当ありがとな。」 「別に良いよ。へましてくれたお陰で私もこうしてまた制服着れたんだし。」 「言うね。ハルカちゃん。それじゃ、俺ら教室に行くから。客寄せ頼んだぞ!」 「了解。」 そして2人はまた楽しそうに教師に戻っていた。本当に仲の良い事だ。 「愛されてるね…2人に。仲良すぎるかも。」 「彼らと彼女はもとは同じ家の出身だからね。」 「え?親戚?」 「違うよ。同じ屋敷に使えてたらしいよ。ご両親のどちらかが。そして其々が企業を起こして同じ学校になったみたいだよ。」 「あはは。使えてた…またお金持ちにありがちな…じゃ、兄弟みたいなものね。あ、この辺でいいんじゃない?」 グラウンドに出て人が行き交う広場のようなところで足をとめる。やはり目を引くのか…制服のせいと二人の顔立ちのせいで数人が足をとめる。それを見計らったかのように二人は声をあげた。 「教室校舎二階、世界のお茶展どうですか?」 「歩き疲れたらどうぞ。本格的なお茶で生徒がもてなします。」 「「世界のお茶展どうぞご来店下さい!」」 その声はかなりの反響を呼んだという。 そしてその日の夜… 「なんでキミマロ君のこと連絡くれなかったのよ。カナタに頼まれて制服持ってきたなんていわれて驚いたかも。」 「《ごめんごめん。でも結果は良かったでしょ?》」 「うん。シュウにあえると思った女子で殺到したみたい。いや、怖いね。美形って。」 「《シュウ君てほんとに美形なんだね。今度写真送って。見てみたい。プリクラでもいいから。》」 「OK!本当ありがとうね!」 「《いえいえ。じゃ、明日も頑張ってね。》」 「うん!またね!」 携帯電話で交わした数分の会話。通話ボタンを切ってハルカは今日大活躍した前の学校の制服に目をやる。 「新しい思い出をありがとう。」 偶然があればきっとまた…思い出は生まれる。 だからそのために 「今度は実行委員頑張ろう!」 クラス展示… そして文化祭実行委員。 鳳炎学園の文化祭はまだまだ続く。 to be continued... 作者より… もう、異次元に飛んでいったようなもんです。 金持ちと言う事が分らなかったんですよ。 ということで小説始まって以来の確実なお金持ち風景。 書いてる最中何度『ありえない』と叫んだ事か。 でもいいんですよ。皆が楽しければ。 シュウとハルカに制服着させれば。 ハルカの制服はほぼギャルゲーに近い制服のイメージ。 シュウは頭が良さそうに見える学ラン。 それを書きたかった。 文化祭で一番やりたかったネタなんで楽しみました。 後は友情ベース? 幼馴染が可愛くてしょうがなかったです。 妹みたいに思ってるという設定です。大事なんですよ。 いつまでも楽しく生きてる幼馴染に乾杯。 もちシュウハルは日常喧嘩風景で! 2005.11竹中歩 |