『体育祭〜準備で崩れた関係〜』 「おーいこっち誰か男子!」 「これ、教頭先生のところ持っていって!」 「誰かメガホン知らんか?」 平日の学校のグラウンド。いつもなら授業でもない限りは人がおらず静かな場所であるが、このシーズンはそうも行かない。そう鳳炎学園中等部は体育祭の準備で大忙しだ。 「シュウ!そっち男子の参加メンバーリストできた?」 「こっちは出来てるよ。女子は?」 「それが1クラス埋まらなくて。」 中等部生徒が全員借り出されるとあってもちろんシュウとハルカの2人も準備大忙し。グラウンドと校舎を何度も行き来している。流石運動が出来る二人。他の生徒より体力はあるようだ。 「はぁ。今思うと体育祭実行委員でなくて良かったかも。」 「どうして?」 「だって、実行委員でもない生徒だってこの忙しさだもん。実行委員だったらどれだけ忙しいか。へばってる可能性大。」 「確かにね。実行委員はかなり忙しいだから…」 自分たちのクラスの実行委員は自分たち以上に動いているのが見て分る。このときばかりはシュウもその意見に賛同するしかなかった。 「で?1人点呼できてなかったんじゃなかったっけ?」 「そうだ。忘れてた。1クラス誰が得点係か分らなかったんだ。」 2人は先日の体育祭係決めの際、得点係に決定している。得点係とは競技の順位によって加算される点数を計算したり、現在の点数を校舎の最上階に位置する得点板に張り出す係。2人は張り出す係である。 体育祭の係は主に任意で装飾係や器具係等生徒の中から選抜される仕組み。先に名をあげたのは珍しくシュウの方。いつもならハルカが名をあげてシュウがそれにつき合わされると言う感じだが、今回は逆。 どうして立候補したのかとハルカが後にシュウに聞いたところ『生徒席にいると他の女生徒に囲まれる』というもてる男子の返事が返ってきた。だから競技以外の殆どの時間を得点板と過ごす得点係を選んだらしい。 「それで何処のクラス?」 「1年生のクラス。実行委員の子教室の方かな〜。」 「かも知れない。さっきから1年生の姿あんまり見ないから。教室で花でも作ってるんだと思う。」 「そっか。それじゃ私教室行って来る。リストの提出ちょっと待ってて。」 「一緒に行こうか?」 「ううん。私のほうは大丈夫だから、リストできるまでクラスのテントでも手伝ってあげて。じゃ、行って来ます。」 「いってらっしゃい。」 ハルカはリストを挟んだボードを片手に校舎の方へと向かっていった。 「教室に行くには…靴脱いで廊下通って…。」 自分の進む最短距離を考えながら走っていたのだが、真正面から来ていた男子二人組みに気づかず、お互い去り際に少年の右腕がハルカに接触する。 「あ!」 「あ!ごめんなさい!」 「わ…」 「急いでるの!ごめんね!」 ぶつかったことの驚きと申し訳なさに一瞬足を止めるが時間がないことを理由にすぐさまその場を立ちさってしまうハルカ。 「あ…謝るのこっちの方だったんだけど…」 「なぁ…。」 「確実にあれやばくない?」 「うん。大騒ぎになると思う。」 少年たちの申し訳ない気持ちなど知らずにハルカは我道を突き進んでいく。その時既に悲劇が始まっていたことも知らずに… 「すいませーん!出し忘れてました!」 「大丈夫。こうやってリスト完成したんだもん。終わりよければ全て良しよ。」 漸く最後の1人が誰か突き止めたハルカはリストに記入すると完成に安堵する。 「花作り頑張ってね。」 そう言い残し立ち去ろうとするハルカを実行委員の少女は呼び止める。 「あの…」 「え?」 「腰の…ペンキですか?」 「え?」 「それ。」 少女はハルカの腰の辺りを指差す。そこには赤い塗料のような物が付着していた。 「なにこれ?」 見覚えのない塗料にハルカは困惑する。自分は装飾係でもないし、ましてや塗料に関する仕事でもない。一体何時付いたのだろう? 「…血?」 「血?」 「ペンキにしては色が違うと思うんですけど…。血に近いかなって。」 「血ぃ?私怪我なんてした覚え…あ!」 ふと先ほど少年たちとぶつかったことを思い出す。確かあの少年の右腕が触れたのは腰の辺り。 「もしかしてあの時に?」 「怪我でもされたんですか?」 「ううん。多分さっきぶつかったからその時に。ごめんね心配かけて。大丈夫だから。それじゃ!仕事頑張ってね。」 何ともないという雰囲気をかもし出すハルカは教室から足早に立ち去った。 「大丈夫って…あのかなり範囲大きいと思うんですけど…」 少女の思うとおりハルカとすれ違う生徒はハルカの腰の血の汚れに驚いていたと言う。 「シュウ!」 「おかえり。リストは埋まったかい?」 「うん、なんとか。はいこれ女子の分。おねがいね。」 「OK。」 クラスのテントの方にシュウを見つけて駆け寄ったハルカはすぐさまリストを手渡す。これで漸く一段落出来ると言うもの。 「ふぅ。あとは放課後に得点板に花飾りつけるだけかも。」 「それだけじゃないよ。どの競技の時に誰が得点板のところにいるか時間も決めることも。」 「そうだ。忘れてた。」 「どうしたのハルカ!?」 「へ?」 後ろから駆け寄ってきた友人が悲鳴にも似た驚きの声をあげる。 「それ…血でしょ?」 「あ…忘れてた。」 「忘れてたっていえる量?結構酷いよ。何でそんな大怪我を…」 ハルカ自体忘れていた腰の血。真正面しか見ていなかったシュウは少女の声に少し表情を変える。 「何処を?」 「あ、腰のところ。たいした量じゃないって。」 ハルカはシュウに後ろを見せたが…ハルカが思っているほど血の量は半端ではなかった。 「たした量じゃないって…大事だと僕は思うよ。」 「え?そんなに?」 「えーっとね…」 友人はハルカの背中を血の範囲をなぞるように大まかに説明する。その範囲を背中で感じ取ったハルカは漸く事態の大きさを把握する。 「そ、そんなに?!」 「だから言ってるじゃない結構酷いって。何でこんな怪我して気づかないのよ!」 「これ私の血じゃないって。さっき男子とぶつかってその時についたんだと思う。私よりきっとその子の方が大惨事かも。」 「あー…そう言えばさっき保健室に左腕を血だらけにした男子が入って行ったっけ。準備サボってサッカーしてた時にすごいスライディングして擦ったとか。自業自得じゃない?」 その友人の言う男子とやらがハルカと接触した相手には間違いないだろう。自業自得と言う言葉を聞いてハルカは少し胸をなでおろす。 「それは自業自得かも。でも、大怪我なのにぶつかってたら本当、申し訳なかったわ。」 「そんな大怪我の人間にすら気づかないなんて…注意力散漫なことには間違いない。」 「うるさいわね。急いでたんだからしょうがないでしょ!」 シュウの嫌味は相変わらずご健在。一気にハルカの感情は怒りモードへと変化する。 「そんなこといってる場合じゃ無いって。とりあえずどうするのよ。これ。」 「あ…確かに目立つかも。」 「このままじゃ君が大怪我をしたと思い込む生徒も多発するね。」 「ハルカ、長袖は?」 今日は秋にしては珍しく気温が高く、殆どの生徒が長袖である。友人にしてみれば長袖を切れば何の問題も無い。 「それが、うちの乾燥機壊れてて…渇かなかった。」 「運が悪いね…。」 「本当よ。」 「じゃ、制服着るとか?」 「この砂埃の最中制服は勘弁したいかも。」 中々打開策が見当たらない。ハルカと少女は普段使わない頭を必死にひねる。 「…使う?」 「ん…?」 黙っていたシュウが行き成り口を開く。言葉と共に差し出されたのはシュウの長袖ジャージ。それは今までシュウが羽織っていた物。 「そっか借りればよかったんだ。」 少女はポンと手を打つ。考えれば以外に答えは近所にあるもの。 「そろそろ日も照って来たから脱ごうと思っていたところだからね。それに血を見るのは遠慮願いたい。」 「ハルカ、借りれば?」 差し出されたジャージを一心に見るハルカだが、その答えは… 「いい。」 「え?」 この言葉には少女もシュウも驚いた。いつもなら『ありがとう!』と言って無邪気に借りる筈なのだが…どうしたことだろう。 「なんで?いつもなら借りるじゃない。」 「そうなんだけど…これが教室とか部活ならね…」 「場所に問題は無いでしょ?」 「おおありよ…今でも目線が痛いもん…。」 「あ…」 ハルカの言葉で友人は漸くその言葉の真意を理解した。目線それは… 「シュウ様ファンクラブか。」 「そう。今借りようと思ったんだけど…すごい殺気が。」 「でもジャージって誰のか分らないと思うんだけど…」 「今思い切りシュウが脱いだところ見てる子多いと思う。」 シュウ様ファンクラブは名の通りシュウを愛でたりする女生徒達の集まり。ハルカが転入したての頃色々とされた思い出がある。今でこそ姑息な嫌がらせは無いものの、その視線はかなり痛い。 「だからごめん借りられない。」 「そう…。」 シュウはしょうがなくそのジャージを再び羽織る。その表情はどこか寂しげにも見えた。 「まぁ、断ったところで『シュウ様の好意を断るなんて』て言う女子もいると思うけど。本当ごめんね。」 「君のせいじゃない。それは僕のせいだから。」 「…じゃ私の貸そうか。」 「いいの?」 「うん。教室にあるからちょっと待ってて。動くとそれこそ大騒ぎになるからここに居た方がいいよ。」 「ありがとう。」 「じゃ、行ってくるね!」 少女は全力疾走でグラウンドを走り校舎の方へと向かっていった。 「持つべきものは友達ね。」 「そうだね……」 体育祭の準備は進む。それは楽しい始まり。 しかし、少年の心はやるせない思いで満たされていく 波乱の体育祭は目前に迫っていた…。 to be continued... 作者より… 体育祭てことで準備期間ですね。 鳳炎はでかい学校ということなんで準備に数日かかる そんな設定でかいてます。 途中無茶苦茶ですけど。 怪我してる男子にぶつかっても気づかないとか。 普通は気づきますし、男子もそんな大怪我なら平常じゃ 無い筈なんですけど。まぁ、擦り傷と言うことで。 あとは秋なのに半袖のハルカ。 体育祭と言うことで半袖の方が動きやすいと 判断してください。 それを踏まえて読んでくださると楽かと。 体育祭はやはり怪我ネタという自分の脳みそを お許しください。 2005.11 竹中歩 |