楽しい時間は面白くない時間より経つのが早い。
この修学旅行も漸く終わりへと近づいていた…。




『修学旅行へ行こう!〜思い出はいつまでも〜』





「………」
 車内は思ったよりも静かだった。
 約2週間にも及ぶハルカ達の修学旅行も漸く終わりを告げようとしている。
 今日このバスが学校に付いてしまえばそれが終了の合図。修学旅行は思い出へと変化する。
 そんな最終日のバスの中は案の定眠りに誘われた大量の生徒で埋め尽くされていた。
「皆寝ちゃったね。」
「起きているのは僕らを含めて4人くらいだと思うよ。」
 小さな声で交わされる会話。聞いている人間はまず、いないだろう。
 会話をしている人間は誰でもなくシュウとハルカの2人。
「疲れたんだね。皆。」
 自分の座席から見える男子の寝顔を見てしみじみと語る。
「普通修学旅行とか合宿なんて皆帰りに乗り物じゃ寝るよ。」
「だよね。私も合宿の帰りいつも寝てたから意識なかったもん。」
「でも…今日は起きてるんだね。」
「うん…もったいないとか思っちゃって。」
「もったいない?」
 会話を聞かれる心配などない二人はいつものように喧嘩などはせずしんみりと言葉を交わす。
「だって…バスがついちゃったらもう終わりだもん。」
「何にだって終わりはあるものだよ。終わりがないものなんて早々ない。」
「分ってる。でもそれなら寝るなんてもったいないから…」
 そういった矢先、ハルカの口から欠伸が漏れる。
「なんて言ってるけど…体は正直かも。」
 舌を出してお茶目に返すハルカ。
「君はかなり疲れてそうだもんね。誰よりも無茶してたから。」
「無茶って…もっと『元気だったから』とか良い言い回ししてよ。それじゃ私が無鉄砲みたいじゃない。」
「気づいてるんなら口にしないほうが良い。自分が惨めになる。」
「はいはい。分りました。私が悪かったわよ。…じゃ私そろそろ限界だから寝るわね。もったいないとか言ってたけど、体はついていってくれないみたいだから。」
「了解。」
 そう言ってハルカはバスの背もたれに大きく腰をかける。
「…体勢きつくないのかい?」
「へ?」
 眠りのふちの住人になっていた為ハルカは間抜けな返事を返す。
「いや、腰に負担のかかる眠りかたしてるから…」
「だって、皆こうしてるよ?それに私窓際じゃないし。」
 ハルカの席はシュウの隣。シュウは窓際の席に座っているためバスの構造上ハルカの席は通路寄りとなる。
「だったら肘立てにでも肘をついて寄りかかれば…」
「…シュウは私に美しくない状況になれって言ってる?」
「え?」
「ほら…あれ。」
 ハルカの指差した方には大きく通路にはみ出して寝ている担任の姿。自ずと肘立てを使って寝ていればああいう格好になるだろう。
「だからこうやって寝るのよ。シュウはずっと窓際だったから気づかなかったんだろうけど。」
「すまない…。」
「…シュウって謝らなくていいところで謝るんだから。すまないは駄目。私だって承諾してこの席になったんだもん。」
 シュウはバスに弱い。それを知っていたからこそハルカは窓際をこの旅行中ずっとシュウに譲っていた。例え山道でなくても酔っては大変だと。
「…だったら僕にもたれかかるかい?」
「シュウに?」
「幸い僕もそろそろ寝ようと思っていたから…眠ってしまえば人が寄りかかってることなんてわからない。」
「そ、それは遠慮するかも。」
「どうして?」
「だって、気兼ねして起きちゃうわよ。寝てなんていられない。」
「でも体勢は辛いんだろう?」
「辛いなんていってないわよ。それに他の子だってしてるんだから大丈夫。それじゃおやすみ!」
 シュウから視線をずらし通路がわに顔を向けてハルカは無理に睡魔の世界へと進んで行った…。
「おやすみ…」


「(全く…やることが時々紳士臭いのよ…。だから女生徒にも王子様扱いされるっていうのに。鈍感。)」


 シュウへの文句を頭で言ってのけたのと同時にハルカの意識は薄れていった……。








「…!」
 バスの長い道のりの中、シュウはふと目を覚ます。携帯の時計を見てみるが学校到達時刻まではかなりの時間があった。
「まだこんな時間か…」
 席をたって周りを見れど、まだ生徒の大半は夢の中。
「…まだ寝れるかな。」
 目を覚ましたとは言え、修学旅行の疲れは酷く眠気はまだまだある。もう1度夢の世界の住人になろうとしたとき、横の席の人物の奇怪の姿が目に入る。
「…意地張って変な格好で寝るから…。」
 体自体を通路側にして寝ていたハルカは肘立てから通路へ大きく体を乗り出していた。
「今の格好の方が美しくないよ。」
 さすがにこれをクラスメイトにみられては可哀想だと思ったシュウはハルカを起こす。
「ハルカ君……」
「ん?…何?」
「体勢…こっちに向けたほうが良い。すごい格好になってる。」
「ん…うん。」
 眠気眼でも言葉は理解したらしく、席に座りなおし再び眠りの世界へと入って行った。
「…君ね……」
 肘を立てて寝ている気らしいがどんどんとまた体勢が崩れていく。それを見たシュウは呆れた顔を浮かべるが、少し笑ってハルカを自分の方へと寄りかからせる。
「最後の最後まで目が離せないよ…。」
 ハルカが深い眠りに入ったのを確認するとまたシュウも同じ世界へと歩んでいった…。








 数時間後バスが漸く鳳炎学園についたとき、外は少し肌寒い夜空へとなっていたため、先生の話も簡潔に終わらされた。生徒たちは眠い目をこすりながら各々を帰宅につく。そしてこのときハルカとシュウは『ある出来事』が起きていたことを…まだ知らなかった…。







「おはよう!」
「おはよう。」
 数日後修学旅行の代理休日が終了して再び学園生活の始まった朝。
 シュウとハルカが入った自分たちの教室は何とも言われない雰囲気。
「おはようハルカ。修学旅行の写真できたよ。」
「あ!私も現像したんだ。後で渡すね。」
「うん。あ、これハルカの写ってやつ。」
「ありがとう。」
 ハルカの友人は写真の入った封筒をハルカに差し出す。
「シュウ−!!お前の分の写真。」
「ありがとう。」
 シュウもまた友人から何枚かの写真を受け取る。男子らしく封筒には入ってはいなかったが、それがシュウとハルカの目を疑わせる代物をさらけ出していた。
「……どうしたんだ。これ。」
「え?シュウどうかし……何これ?!」
 2人は目を丸くさせる。シュウが写っている写真と言うには間違いなかったが…その写真の一枚にハルカがシュウに寄りかかって寝ている物が混じっていた。
「バスの中でお前らが寝てたからその時に撮った。」
「撮ったって…これは流石に恥ずかしいんだけど…。」
 貰ったシュウではなく、確実にハルカの方が赤面している。確かにシュウとは何枚か写真をとったがこの状況はかなり恥ずかしい。
「君たちねぇ…」
 呆れて物も言えないシュウ。
「…まさか!」
 何か嫌な予感がしたハルカは先ほど友人から受け取った写真の封筒を開ける。自分の笑っている写真や友人とバカ騒ぎした時の物が大半だが、やはりその中に混じっていた…
「こっちにも入ってる…」
「当たり前よ。だって皆持ってるもん。」
「皆って?」
「クラスの大半がよ。」
 友人はけろりと返事を返す。
「な、なんで?!」
「誰だったっけ?クラスの人間があんたらの面白い図があるってハルカたち以外をたたき起こしてさ。それでとりたい人はとったんだと思うよ。まぁ、確かに面白かったけど。少女漫画みたいで。」
「さ、最悪かも〜!!」
「物好きな友人たちだね。全く。」
 恥ずかしさに打ちひしがれるハルカに言葉にすら出来ないほど呆れるシュウ。そしてそれをからかうクラスメイトたち。修学旅行はかなり楽しい物になったのには間違いない。









「もう!まったく!」
 ハルカは家に帰ってもらった写真をアルバムに張っていた。撮られた物はしょうがない。それは否定できない事実。思い出としてしまうしかない。
「でも…色々あったな…」
 思い出してみるとこの修学旅行ではいろんな出来事があった。



シュウとの不意打ちツーショット写真
友人から言われたシュウへの自分の思い
昔の知人との仲直り
シュウがくれたポストカード
そして二人の寝顔写真



「ま、良い思い出かも。」
「ハルカー!八橋食べるわよ!」
「今行くー!」






 アルバムを閉じてハルカは部屋を後にした。アルバムにはまだ余りがある。
 きっとそれは簡単に埋まるはず。そう…彼がいれば。必ず…。

                                     END


作者より…
修学旅行編完結です。
1度はやって見たかったのごとくもたれかかり図。
ハルカが『絶対にイヤ!』て拒否する所が自分で
お気に入りです。思春期ぽくて可愛い気がするんで。
それで後日、シュウにだけ友人からメールが入り、
シュウがハルカにもたれかかってると言う珍しい
写真が届きます。それに驚くシュウも可愛いかなって。
もちろんそのことは友人と自分の秘密ですが。

修学旅行編お付き合いくださって感謝です。
私の修学旅行をモチーフとしたので結構ざっくばらんかと。
それでも楽しんでいただけたのなら本当に嬉しいです。
中学の修学旅行はやはり京都が良いな(自分的に)

2005.11竹中歩