「えーと、洗顔セット入れた、タオルも入れたし後は…」
「ハルカー!もう寝なさい。明日がきついわよー!」
「分かってる!!」
 自室で大きなカバンと葛藤するハルカに母親が注意を促す。
 ハルカ…絵南町に住む中学生。中学はここから少し離れた『鳳炎学園中等部』に籍をおいてる。勉強は3段階評価の真ん中。スポーツは女子で敵う人間は中等部に一握り程度。つまりかなり出来ると言うこと。弓道部に所属しており、元気で活発と言う言葉はまるで彼女の為にあるような言葉である。
 そのハルカは明日のための準備に追われていた。
「いよいよ明日か…楽しみかも!」
 彼女が楽しみにしていること。それは『修学旅行』学生と言う期間において一番のイベントと言っても過言ではない行事。ハルカは明日、この地を旅立ち友人たちと思い出を作る予定。
 母親に言われて荷物の最終をチェックを終えるとカバンをドアの付近に置き寝床へと入る。
「…楽しい思い出が作れますように……」







『修学旅行へ行こう!〜波乱の出陣〜』







空は青く澄み切り夏のような暑い日差しは無く、涼やかな風が吹いている。まさに修学旅行日和という奴である。
「『今日は晴天なり』かも!もう、楽しみ!!」
 ハルカは昨日に引き続き嬉しさを心の中だけでおいておくことが出来ず軽く踊りだす始末。そんなハルカを不可解に思い近づいてくる一人の影。
「もう少し静かに出来ないのかい?君は。」
「シュウ…」
「その調子じゃどこかでこけるのは時間の問題かな」
「そんなことしないわよ!」
 ハルカに話し掛けるいなや、嫌味もしくは皮肉と言われる言葉を発する少年。名はシュウ。ハルカと同じ絵南に住み、ハルカと同じクラス。さらには弓道部所属と言うことでハルカが家族以外で今の所一番多くの時間を共に過ごしている少年だ。しかし、全てがハルカと一緒とは行かない。ハルカと対照的に頭もよく冷静沈着。おまけにかなりの顔立ちの良さ。中等部では言わずと知れた美少年である事には間違いない。
「はぁ。折角人がいい気持ちに浸ってたのに…。」
「それは邪魔して悪かったね。だけど、こけるのは勘弁だよ。」
「しないって。」
 一見仲が悪そうに見えるこの2人。第三者が思うほど仲は悪くない。口喧嘩はするがそれはこの2人にとってスキンシップのような物。だからこの学校ではこれが当たり前の風景なのだ。
「ハルカ、おはよう!」
「おはよう!いい天気でよかったね!」
 ハルカを見つけた友人が話し掛けてくる。
「シュウもおはよう!明日から暫くよろしくね!」
「ああ。こちらこそ。」
「特にハルカのことは頼んだ。私たちじゃ無理だから。」
「ちょっと、聞き捨てならないわね!」
「あはは。だってハルカの行動パターンて突拍子も無いから私たちには判断できないんだもん。だからシュウに頼むのよ。」
「僕に拒否権は無いのか?」
「そんな物あったらとっくの昔に使ってるでしょ?」
「否定はしないよ。」
「2人とも酷いかも。」
 いつものように話を持っていくハルカたち。
「ところで君の大荷物はなんなんだ?」
「え?大荷物?」
 シュウはハルカの旅行カバンを指差して呆れている。確かに少し大きくは感じるが…。
「そんなこと無いよ?」
「え?」
言い返してきたのはハルカではなく友人の少女
「ハルカは女子にしたら少ない方だよ。まぁ、シュウは私のと見比べたんだろうけど、私が女子にしたらすごく少ないのよ。大まかなのは宅急便で送っちゃったからね。ハルカそれで荷物全部でしょ?」
「うん。宅急便使うほどなかったから。」
「ほらね。」
「少ないってことは…何か忘れているとか言うお約束はないだろうね?君?」
「シュウ…あんたって謝るって言葉知らないの?何があっても私のこと貶したいわけ?」
 何があってもハルカを貶す。それはシュウにとってスキンシップと言うより愛情表現といったほうが近いかもしれない。
 そして暫くし、メンバーはこのペースのままバスに乗り込む事となる。












「シュウ、バス平気?」
「山道で無ければね。」
 クラス全員が乗り込み人数点検をした後、バスは走り出した。ハルカの横は言わなくてもわかるシュウご本人。
 シュウが乗り物に弱いのは弓道部の合宿で把握済みである。だが彼が今口走ったように、シュウは山道のようなカーブの連続でもない限り平気な様子。どこか都会っ子風情が入っているのは気のせいだろうか?
「ならいいけど。でもさ、修学旅行は流石に何処の学校も一緒だと思ってたけど…やっぱり鳳炎なのね。常識が通じないわ。」
「おや?君の口から常識と言う言葉が出てくるんだね。」
「今度言ったら殴るわよ?」
「失敬。でも常識的じゃないかい?」
「当たり前よ。ほら私、公立の中学から来たじゃない?確かに公立のルートとは一緒なのよ。奈良・京都・大阪て言うのは。だけど日にちがすごいわよ。」
 ちなみに鳳炎は『超』がつく程の金持ち学校である。つまりは私立。その上高校までのエスカレーター式と来たもんだから、公立出身のハルカは鳳炎に来たこと驚きの連続だったことは言うまでもない。その驚きは今も継続中である。
「日にち…あぁ。確かに他の学校に比べたら長いかもね。」
「かもねじゃなくて絶対にそうだって。普通は4泊5日とか5泊6日なのに…約2週間?それくらいでしょ?」
「長旅か。その間僕は君の面倒を見なくちゃいけないかと思うと憂鬱になるよ。」
 その言葉を喋ったシュウは次に瞬間軽く咳き込む。何かが腹部にヒットしたらしい。
「言ったでしょ?今度言ったら殴るって。でも本当に長旅かも。半月も使っちゃうんだもん。流石鳳炎。一味違うわね。それにこれが終わったら体育祭があって、煥発入れずに文化祭。まぁ、練習とか計画は1学期からしてるから問題は無いけど。殆どぶっつけ本番て感じ?もー考えただけでワクワクしちゃうかも!」
 テンションが高いハルカを見ながら少し笑うシュウ。好意をもっている人間が楽しそうだとこちらまでが楽しくなる。これは恋愛における定義であろう。
「でも、今良く考えてみたら、君とボクは他の人間に比べたら過ごす時間が多いかも知れない。」
「うん。それはあるかも。」






 今回の修学旅行は男女に別れ5人程度のグループで行動することとなっている。ここから考えて男子であるシュウと、女子であるハルカが一緒に行動する時間は短いように見えるがそうが行かないのがこの2人。
 まず、グループを作った時、そのグループで3日間ほど京都を自分たちの力のみで行動することとなっていた。続に言われる自由行動というものだ。これは自分たちで行き先を決めるのだが、その途中で学校から支持された寺院の内何件かを回らなくてはいけない。その行動パターンがシュウの班とハルカの班が全く一緒なのである。ちなみに到達予定時刻も全く一緒。
 こうなった理由は簡単である。ハルカの班はクラスの女子の人数都合上一人少ない4人で編成されている。そのハルカをのぞいた3人のうち1人がシュウの班の男子と付き合っており、違う1人の女子はシュウの班の男子の1人に恋心を抱いており、残った女子の1人と、シュウの班の残った2人の男子は幼馴染で仲が良い。そしてシュウとハルカが組めば自ずと一緒に行動したいと言う意見が出る。そして修学旅行中唯一別行動となっていた自由行動さえ一緒ならば、9割の時間一緒に行動すると言うなんとも仕組まれた結果が生み出されたと言うわけである。
 さらに追加すればシュウはグループの班長であり、ハルカも班長である。もう、入浴や就寝の時間以外は本当に一緒と言っても過言ではない。






「ま、みんなの意見統合しちゃったらこうなるしかなかったのかも。」
「運が良いんだか悪いんだか。」
「シュウは私と行動するのいやだったの?」
「え?」
「や、だって私の面倒お願いとか頼まれて嫌がってたみたいだから。…流石にここまで一緒は嫌だったのかなーって。」
「そういう意味じゃないよ。」
「じゃぁ、どういう意味よ?」
 少しため息をついて呆れるシュウ。
「平穏な空気はお預けかなって。」
「ん?」
「君は寺院とか苦手だからね。行ってみたいお寺とかあったけど…ちょっとそういう空気は味わえないのかと思ってね。」
「そういうこと。大丈夫よ。シュウの行くところなら付き合ってあげるから。」
「無理しなくていいよ。歴史とか社会は苦手で寝てる人だからね。君は。」
「失礼ね。勉強は苦手だけど、野外授業みたいなのは好きよ?」
「野外授業って……」
「あ!そうだ!」
 話を勝手に打ち切ったハルカは何かを言おうとしていたシュウを尻目に手持ち様のカバンから何かを探している様子。
「じゃーん!」
 出てきたのは使い捨てカメラ。デジカメや携帯電話などでの撮影を試みる生徒が多い中では珍しいかもしれない。
「と言うわけで…よっと!」
 左の窓際に座っていたシュウの肩の辺りを左手で自分の方に寄せたハルカは右手でレンズをこちら向けた状態のカメラを掲げボタンを押す。
 パシャっと言う音がなったのと同時に眩しいフラッシュがたかれる。
「シュウの不意打ち顔激写!」
 あまりの素早さに拒否をする行動すら忘れていたシュウは呆然とする。ある意味赤面と言ってもいいだろう。
「シュウの旅行の写真は全部作り笑顔に近いって聞いてたから。」
「君ね……。」
 項垂れるシュウ。もう疲れが出始めているのかもしれない。
「それに使い捨てのカメラじゃなきゃいけない理由もあるし。」
「そう。それを聞こうと思っていたんだ。君は確か携帯もデジカメも持っていたはずじゃ…。」
 我を取り戻したシュウにハルカはにやりと笑って答えを返す。
「だって、デジカメとかならシュウに取り上げられてデータ消されちゃうの目に見えてたんだもん。シュウの方が機械強いし。これなら撮ったものは消せないからね。」
 やられた…こう言う悪知恵はハルカの方が一枚上手なのだ。
「さー!思いでいっぱい作るかも!!」
「おー!!」
 独り言のつもりで上げた雄叫びに何時の間にかクラスメイトも続いていた。
 こうしてシュウの苦労の修学旅行…基、波乱の旅行が幕をあける。


                                 to be continued...


作者より…
修学旅行シリーズ開始と言うことで移動からです。
金持ちの学校だから日数あっても良いんじゃない?
と言うのりです。
実際私の住む地域の学校は16日間海外へ修学旅行に
行ったようです。今の修学旅行海外が多いですが、
あえて有名どころの奈良・京都・大阪にしました。
理由?私が中学の時に行った場所なので
インスピレーションが浮かびやすかったからです。
なんか安直な理由ですが、
修学旅行最終日まで付き合ってやってください。
                     2005.11 竹中歩