『帰り道』






  「全く…ココまで来ると流石に嫌気が…」
  ここ数日シュウとハルカの住む地方は雨に見舞われていた。
  毎日降ってはいるが、時間帯により降るときもあれば降らない時もある。
  そんな不安定な天気。そして降るとなったら丸で熱帯雨林のスコールの極
  大量の雨粒が大地へと注がれる。ある意味梅雨より嫌な天気だ。
  シュウのように愚痴に似たあきれた言葉を零したくなる気持ちもわからなくは無い。
  「毎日傘は欠かせないし…酷い時は靴まで濡れる…」
  雨のときの学生は最悪だ。バス通学の者たちと普段は自転車だが雨で乗れない、
  学生が一気に乗り物に頼り登校する。バスは当たり前のように鮨詰め状態。
  学校の校門前に至っては家からの送り迎えの車で渋滞。憂鬱な日の始まりだ。

  幸い、シュウは電車と徒歩の登校。渋滞も鮨詰めの状態も味合わずにすむ。
  だが、徒歩も徒歩で苦労はある。シュウの言うように傘は必須アイテム。
  雨が降っていなくても持って帰らなくてはいけないし、靴なんか酷い時は
  歩くたびに水が溢れてくる。あまり心地のいいものではない。
  そして何より…傘が無い時に雨がいきなり降られては悲惨だ

  「そう…例えば…あんな風になりたく……?」

  一瞬自分の目を疑い軽く首をかしげる。電車に乗るためホームで待っていたのだが、
  同じ学校の生徒が目に入った。この時間同じ学校の者と会うのは珍しくないが、
  シュウの住んでいる場所は学校からかなり遠いため、あまり同じ電車に同じ学校の
  生徒が乗りあわせることは早々無い乗り合わせることは無い。
  そう…乗り合わせるとしたら…
  「ハルカ…君?」
  「げっ!!」
  やはり読みは的中した。それは間違い無く同じ学校で、同じクラスで、同じ部活、
  そして同じ街に住んでいる女子ハルカだった。いつもだったら『シュウも帰り?』
  等と明るく振舞うのだが、今日は顔と言葉で激しく拒絶されたらしい。
  「人に会っていきなり『げっ!!』とは失礼だね。まぁ…君に常識を求めた
   僕も悪いけど…」
  「あんたね…普通に公衆の面前でもそれを言う?」
  「真実は時として場所を選ばないはずだけど?」
  「ああいえばこう言う…少し黙っててくれない?唯でさえこの状態で気持ち悪くて
   気が立ってるのに!余計に腹が立つかも!!」
  「…八つ当たり…だね」
  「い・い・か・げ・に・し・ろ!!」
  シュウが彼女を見つけたもう一つの理由。それは今の彼女の状態。
  風呂上りとでも言いたくなるような濡れ具合の髪に、見ただけでわかる位水分を含み
  重くなった制服、スカートなんか襞がとれかけて肌に張り付いている。
  まぁ、コレは誰なんと言おうと…雨にぬらされた決定的証拠である
  「全く…何でそこまで美しくない姿なんかに…」
  「色々理由は有るけど言ったら絶対に厭味言うから言わない!!」
  「…へぇ〜そこまで恥ずかしい理由なんだ…まさかかっこつけて友達に傘貸したとかは
   言わないで欲しいけど…」
  「………悪い?」
  「…まさか…本当に?」
  当てずっぽうとは結構当たるものだ。絶対違うと思った答えがあたると言う事も多い。
  「この天気が不安定な時に自分を犠牲にして傘を貸すとは…そこまで行くと親切じゃなくて
   唯の考え無しだよ…」
  「私だってここまで濡れる計算じゃなかったわよ!今日はお母さんが迎えに
   来てくれるって言うから校門で待ってたのよ。そしたら朝車でつれてきてもらって
   徒歩で帰る予定の子が傘忘れたって言うから…私、車だから濡れないなって思って、
   貸して…その直ぐあとに『ごめん!行けなくなっちゃった!』て携帯にメール入って…
   気付いた時にはこう言う状況で帰るしかなかったのよ!コレで全部!」
  呆気にとられたシュウがハルカの前で佇んでいた。そして…
  「……フッ……」
  「今笑ってでしょ?」
  「いや…笑っては無いけど…」
  「絶対に笑った!『フッ』て声聞こえたもん!だから話したくなかったのに!」
  そう言ってハルカはシュウを睨んでいる。シュウは別におかしくて笑った訳じゃない。
  唯単に

  「(彼女らしい…)」

  そう思っただけ。何事も他人第一。あまりそうは見えない我侭な性格だと思われがちだが、
  彼女も一応は長女気質。他人を思いやり自分は二の次と言う性格だ。それを知っていたから
  こそ、可愛いと思え笑いが出た。
  「早く家に帰ったシャワー浴びたいかも…」
  そのとき、漸くホームに電車が到着。いつものように電車に乗り込もうとしたハルカを
  シュウは腕をひいて止める。
  「何よ?」
  「君はこの状態の中で人が多い車両に行く気かい?」
  「…どういうこと?」
  「そこまで濡れた君が入っていけば周りの人たちが濡れるのは至極当然だろ?」
  「あ……」
  シュウに言われるまで気付かなかった。確かに自分の所為で周りの迷惑をかけるのは目に
  見えている。雨の日の傘の水でさえ人に迷惑をかけるのだ。それ以上の自分が入っていけば
  大変な事になるのはわかっている。
  「あんまり人変わらないと思うけどな。でも…少ない車両って…」
  「別に人の少ない車両を選べとってる訳じゃない。人と触れ合うのが少ない車両した方が
   いいそう言ってるだけさ。」
  「うーん…とりあえず座れないわよね?私が座ったら席が濡れちゃうし…てことは、
   席が少ない立ち車両?」
  「そうだね…それが一番迷惑をかけないですむ方法だろう。」
  「今の時間ならサラリーマンもいないしね。学生ばかりだし…だけど1時間立ってるのは
   重労働よね…」
  「今日は部活が無いから楽な方だと思うけど?」
  「はぁ…それじゃ、頑張るかも…じゃあね。」
  まだ水分の抜け切らない服をまといハルカはその場を後にする……











  「うわ…本当にガラガラ…」
  立ち車両は今の時間帯、人が少ない。この電車を今の時間使うのは殆どが学生。社会人が
  少ないおかげで席は開いている。この車両が使われる事は本当に混雑している時位だ。
  「はぁ…迎えにいけないならもう少し早くメール頂戴よ…しかも…か弱い女子一人残して
   シュウは席のあるほうの車両に行っちゃうし…薄情者かも…」
  「一緒に来て欲しいなんて一言も言わないで、人を薄情者にするのはよしてもらおうか…」
  「?!」
  つり革を持った自分の背後に数分前まで一緒に喋っていたシュウが目に入る。最初に
  ホームであった時より驚いた事は確か。
  「どうしたのよ?シュウが立ち車両に来る必要なんて…」
  「それが…僕も迂闊だったんだけど…」
  「?…どうしたの…その格好?」
  ほんの数分前まで濡れていなかったのに、今のシュウはハルカに引けを取らず濡れている。
  「君が車両に入って直ぐにまたスコールのような雨がホームに振り込んできてね…
   あっという間の出来事に何も出来ずに唯濡れるしかなかったんだ。
   おかげで僕も立ち車両行きだよ…」
  「人を馬鹿にするから天罰が振ったのよ…」
  「馬鹿にした覚えは無いよ…本当の事を言っただけだから…」
  「それを人は馬鹿にしていると言います!」
  しょうがなく二人は車両の出入り口の扉に身を修める
  「全く…鞄の中身は無事だったから良いようなものの…この髪はどうにかならないものか…」
  「タオルで拭けばいいでしょ!タオルで!」
  「君は?」
  「タオルなんてとっくの昔に使い物になってないわ。漫画みたいに絞れが水が出るもの。」
  「はぁ…」
  シュウは鞄からタオルを一枚取り出すと大雑把にハルカの頭に被せる
  「何よ!」
  「拭いた方がよさそうなのは僕じゃなくて君だね…」
  「いいわよ。もう拭いても無駄だし…」
  「好意は素直に受け取るものだよ?ハルカ君。意地っ張りは損をするよ」
  「う〜……それじゃ借りる…」
  「どうぞ。」
  前にもいたような光景がどこかにあった。確か合宿に行って自分がタオルを忘れた時に、
  シュウが貸してくれた覚えがある
  「(…なんかいつも借りてばかり…)」
  「本当に…この雨は嫌になるね…」
  「?!」
  シュウの髪からぽたぽたと雫が落ちる。不本意だが、一瞬それに見とれてしまった
  自分が悔しい。
  「どうかしたかい?」
  「なんでもありません…」
  「そう…」
  そんなどうでもいい会話を繰り広げているうちに電車は目的の駅へと到達。












  「やっぱりこっちはまだ降ってるわね…」
  雨はまだ止んでいなかった。そこまで酷くはないが本降りには近いだろう
  「さてと…また濡れて帰ろうかな…」
  「傘…貸そうか?」
  「久しぶりにシュウに優しくされた気がする…。でもいいよ。もう濡れちゃってるし…
   それにシュウが濡れるしね。二人で相合傘するなんて更にごめんだしね。」
  「いや…僕も濡れてるからあんまり関係ないんだけどね…」
  シチューエーション的には男女逆な方がふさわしい。だが、コレが二人の当たり前な光景
  「じゃぁね…」
  ハルカは再び雨の中を足早に走っていった…が、駅を出て直ぐの信号で立ち往生する
  「全く……」
  それを追いかけシュウも足早に信号へとたどり着く
  「シュウこっちじゃないよね?」
  「そうだね。確かに反対方向だよ。」
  「じゃあなんで?こっちに用事なんて…」
  「人の目が痛かったんだ…」
  「人の目ぇ?」
  「そう…君が走っていった後に傘を広げて帰ろうとしたら…周りにいた同級生が
   女子が濡れて男子が傘さすなんてどう言う事だ…と言うような目線が痛くて…」
  「へぇ…まぁ、普通はそれが常識よね。女子が濡れなくて男子が濡れる。もしくは
   相合傘して帰るこの二通りだもんね選択肢。でも…私には常識が通じないもの。
   シュウが言ってた様にね。」
  ハルカは笑ってそれを跳ね除ける。
  「それじゃ、第三の選択肢でもとろうか…」
  「第三?」
  「お互い一緒に濡れて帰る…それしか残ってないだろう?」
  「一緒に帰るのは良いけど…どこまで一緒に帰るのよ?反対でしょ?家。」
  「さぁ?それは天気にでも聞けば良いさ…」
  「シュウって時々わからなくなるわよね…しょうがない…家にでもおいでよ。
   タオルと温かい珈琲くらいなら出すから。」
  「それじゃ、お言葉に甘えるとしよう…」
  「なら…走るよ!」
  「…OK」






  本当は人目なんてどうでも良かった。

  ただ、ふに落ちなくて…

  自分は傘をさしてこれ以上濡れなくてすむのに

  君が濡れて帰る…傘はいらないと言う…

  だったらコレが一番の方法。

  だから追いかけたんだ…


  例えそれはやりすぎだと言われてもね……







                            END



  作者より…
  またもや、少女漫画的設定で書いてしまいました(汗)
  前半は竹中の本当のお話です。
  姉の迎えが来ると思ってクラスメイトに傘を貸したら
  そのあとに母からの電話で迎えにいけないから
  歩いて帰っておいでと言われました。
  あのお母さん…その日なんで私が雨の中帰る羽目に
  なったか覚えてますか?

  台風がきて学校が休校になったからでしょ!

  そんな中を濡れて帰りました。私はシュウのように
  助けてくれる人いませんでしたよ。
  というか…友人達も濡れて帰ったようです。



  まぁこの二人には常識が通じないと言う事で。
  濡れて帰るのもありなのでは?
  まぁあとは濡れたシュウが書きたかった…
  余程好きなんでしょうね。
  本当は眼鏡付きが良かったんですが…
  マニアックと言われそうだったので却下。
  いつかは書きたいと!


  どっちにしろ
  二人の喧嘩が凄く好きです。
  厭味万歳!!

              2004.11 竹中歩