追いかけて欲しいのに、
  追いかけてこない

  追いかけたくなくても…
  追いかけてしまう





  いろいろな追いかける理由や方法があるけど


  自分達にはどんな訳や方法があるだろう?



  


  『追いかける』








  「うわ!どうしたのハルカ?!」
  その声は一気に教室へと広まる。
  ハルカが教室に入ってを言う隙を与えなかったほどその友人の言葉は早く、
  そして驚いていた。
  「それが…その……」
  照れ笑いをしながらハルカは友人の元へと明らかに不可解な歩き方で近付く。
  その友人の言葉の発端となったのはハルカの右膝に巻かれている真白な包帯。
  それ以外の何ものでもなかった。
  「またなんでそんな妙な所を…怪我でもしたの?」
  「怪我と言うか…酷い打ち身。」
  いつもより長い時間を掛けてそばにあった椅子へと腰掛ける。やはり痛いらしく、
  表情が顔に出やすいハルカは思わず顔を引きつらせる
  「昨日さ、ちょっと激しくぶつけちゃって…家に帰ったら弟の方が先に気付いて
   蒼白してた。気付かないで帰った私も凄いけど、なんて言っても人間の肌が
   ここまでかと言うくらいに青くなったことは流石に驚いたかも。」
  「普通そんな風になるんだったら先に気付くわよ。」
  「しょ、しょうがないでしょ!」
  「確かに…彼女のような『鈍感な女子』ならしょうのないことだ。」
  「ああ確かに。シュウ君の言うとおりだわ。」
  いつものようにシュウはハルカの背後に立っていた。シュウは気配がまるでないかの
  ように何時の間にかハルカの背後に存在している。この教室ではもう当たり前の風景だ。
  「悪うございましたね!どうせ私は鈍感ですよ!」
  「気付いていながら、どうして直そうとしないんだろうね…」
  「ああ!もう!いいでしょ!私が鈍くてシュウに迷惑かけたことあった?!」
  「二桁に上るくらい既にあると思うけど?」
  「むき−−−−ーー!!」
  「ハルカ言葉になってない……」
  毎日繰り広げられる風景だが、どうやってもシュウのほうが一枚上手でハルカが
  神経を逆撫でされている。
  「でも、それじゃ今日のマラソンは見学よね?」
  「うわー…忘れてたよ。マラソンの事…3日は絶対安静なんだよね…明日、明後日は
   休みだからいいとして、今日の分は補習…かな?」
  「ううん。次回のマラソンの時に他の人より数キロ大目に走ればいいだけよ。
   ハルカは運動神経良いんだから、楽なもんでしょ?」
  「そりゃね…でも、体育一時間見学なんて暇かも……。」
  「きっと、コレで神様が君の鈍感を治せといってるんだよ。」
  「シュウは黙ってて!!」
  どうやっても二人の口げんかは始ってしまう。人はこの二人の事をこう呼ぶ…

  『痴話げんか』と…










  そして…マラソンの時間
  
  「それじゃ行って来るね。」
  「私の分まで頑張ってきて!」
  体育教師のホイッスルの音が響くと男女合同でスタート地点から飛び出していった…
  男子は約5キロ、女子は約3キロコレを一時間以内で走り抜ける。
  皆が帰ってこない間は見学の生徒は残される。暇な時間の始まりだ。
  「マラソンなんて殆ど競歩よね…」
  スタートしてからは真面目に走っているが、途中から殆どの生徒が歩き始め、
  おしゃべりを始める。ちゃんと消化できれば問題は無いので教師もコレばかりは
  大目に見ている。
  マラソンは結構疲れるがおしゃべりする時間だと思えばそんなに悪くは無い。
  「たく、普通は記録係とか任せるのに、それすらないってどういう事よ?」
  今日は体育教師は三人係でついている。記録係も安全を見守る教師も
  手は足りているらしい。
  「マラソンの時って大抵…」
  ふと、いつものマラソンの風景を思い出す。
  確かに友人の言うとおり自分はマラソンは早い方で女子としては一番最初に
  折り返し地点を通過する。友人もかなり早いため、ある程度の時間になったら
  歩き始めておしゃべりをする。しかし、必ずと言って良いほど自分の横を
  憎たらしい笑いで通過する男子がいる事を忘れてはいけない。
  シュウだ。
  友人と話しているといつも決まって自分を追い抜きそしてハルカのほうへと
  振り向いて人を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。それが悔しくて…
  文句を言いたくてそれを必死で追いかける自分がいた。そして、決まって二人で
  ゴールする。流石に何回もこのゴールの仕方だと先生も笑い出す。
  「全くあいつは!!」
  青空を見上げながら言う相手のいない悪口と怒りを空へとぶつけた…








  「そうか…だから違ったんだ…」
  何かえも言われない違和感を抱きつつ走る。
  そんなの理由は簡単な事だ
  「彼女がいない……」
  そう…いつもなら全力疾走でマラソンに不向きな具合の走り方で自分を追いかけてくる
  彼女がいた。しかし今日はそれがない。当たり前だ…怪我をして見学しているのだから。
  「去年はマラソンなんて早く終らせて休んでたっけ…」
  だけど今年は明らかに違う…いつもよりゴールする時間は遅めだ。それは、
  彼女と走りたいからだと思っている事は間違いない。






  「面白いね…本当に彼女は…だからいつも…」

  追いかけて欲しいからわざと彼女を怒らせた。
  だけど今日は追いついてこない…





  「だからあいつは…」

  追いかけたくなくても気になってしまう…
  だけど今日は追いつけない…












  「だって…」
  「それは…」
  









  『気になるから…』
  帰ってきたシュウと見学していたハルカの口から同時に出た言葉。
  「何が気になるの?」
  「君こそ…何が気になるんだ…?」
  「わ、私は…そうよ!タイムよタイム!自分のタイムが気になるの!」
  「僕も同意見だ。」
  お互い自分の心を悟られまいと口からアドリブを出す。
  「でも…シュウ本当はやっぱり早いんじゃない…いつも手抜きしてたわけね…」
  「別に…手を抜いていた訳じゃない。本番ではもっと長い距離を走るんだ。
   それにあわせたペース配分で走るのと、5キロのペース配分で走るのじゃ、
   速さが違うのは当たり前の事だ。今日は5キロのつもりで走ったからね。
   君こそ…友だちと喋ったりしなかったら本当はもっと早い筈じゃないのかい?」
  「さぁ…練習で本気出した事なんてないし…わかんないかも…」
  驚いた事にマラソンなのでは決して息を切らせなかったシュウが少し息を
  切らせている。
  「そこまで早く帰ってくる理由なんてあったの?」
  「きまぐれ…だと思うよ…」
  「ふーん…早く足…治んないかな…」
  「やっぱり痛むのかい?」
  「うん…本当なら学校何て行っちゃ駄目だっていわれた。だけど、
   私がじっとしてるの嫌いな人間だって事は見ればわかるでしょ?」
  「一目瞭然だね」
  「だから無理やり来たのよ。多少は階段とか座る時とか痛いけどね。関節だから。」
  ハルカは自分の包帯をさすりながら答える。
  「だけど、この打ち身にもちょっとは感謝しなくちゃね」
  「どうして…?」
  「だって……」
 






  「シュウが心配してくれたから…初めてだもん…なんかちょっと嬉しいかな…」





  
  「当たり前だよ…」
  「ほへ?何か言った?」
  「別に…」










  
  僕が早く帰ってきたわけなんて多すぎるよ…


  君の怪我が心配だったし、

  君が暇にしてるだろうから

  それに…

  君が追いかけてこないから…

  全部君が問題だよ。


  だから、走るときは…

  いつも追いかけて欲しいなんて思うのは…

  贅沢なのかな…



                            END


  作者より…
  一回は書きたかった怪我ネタ!
  包帯とか見るとやっぱり心配するでしょ?
  友人だろうが知人だろうが。
  はっきり言って、怪我で甘い小説がかけない自分を
  お許しください。普通はおんぶするとかなんでしょうが、
  ハルカのことだからシュウにおんぶされる位なら歩くって
  言いそうですから…。
  この後の話としては怪我してるのに無理するハルカに
  ドキドキさせられっぱなしのシュウです。
  それで何かといってずっとその日は行動ともに
  するんだと思います。なんせ、私のポリシーは
  ロリコン的恋愛!ですから(オイオイ)

              2004.11 竹中歩