先の事なんて分からない

  進路なんて…考えた事もなかった…

  でも、いつかは決める日が来るんだよね…

  私は…どんな基準でこれから先を

  決めるんだろう?  








  『進路希望』









  「あれ?先輩なんですか?それ?」
  「あ…そっか、ハルカちゃんはまだ見たことないんだよね。」
  放課後…弓道部の部室でハルカは3年の先輩が一枚のプリントと戦っている様子が
  視界に入った。
  プリントの題名は…『進路希望調査票』と大きく書かれている。
  「3年生は皆春に書くのよ。」
  「でも先輩…今…『秋』ですよ?」
  「そ。特例でねこの時期に書かされる生徒もいるの。私みたいな。」
  「先輩みたいな?」
  「鳳炎学園の外部を受験する生徒…それが『特例』だよ」
  「…シュウ…」
  今まで全く気配がなかった背後に何時の間にかシュウは立っていた
  「どこ行ってたのよ?休憩入ったとたんいなくなるんだから。」
  「僕は君と違って色々と忙しいんだよ。」
  「そんな人を暇人みたいに言わないでほしいかも…」
  「どこか間違ってる?」
  「……直ぐそうやって揚足取るんだから…」
  どうしてこの二人は直ぐに痴話げんかが出来るのだろう?
  いつもこんな調子でよく飽きないなと逆に頷かされるほどだ。
  「…あの、痴話げんかやるなら別にここじゃなくても良いと思うんだけど…」
  「あ!すいません。…でことは、先輩は鳳炎以外の高校に進むんですか?」
  「うん。そのつもり。この時期に調査票を書かされるのは最後の決定みたいなもの。
   『本当にこれでいいの?』て感じで聞かれるのよ。なんせ、鳳炎以外の学校に
   進む生徒は全体の5%程度だからね。」
  「5%しかいないんですか?」
  「そうよ。まぁ、殆どの生徒が受験しなくて済むからそのまま高校に入るんだけどね。
   私はあえて受験を選んだの。」
  「なんで…そんな道を態々…」
  ハルカ自身には到底考えられない。勉強しなくて言いなんてそれに越した事は無い。
  なのに、どうしてそこまでして鳳炎以外の高校受けようとするんだろう?
  それに…部活だって他の生徒より参加できる回数は少なくなる筈…
  「だったらどうして先輩大事なこの時期に部活なんて…本当は勉強しなくちゃ
   いけないんじゃ…」
  「ハルカ君…知らなかったのかい?先輩は既に引退してるよ。」
  「ええ?!そうなんですか?私てっきりまだ現役だと思ってました。」
  「あはは。そう思われても仕方ないわよね。現にまだこうやって部室にいるし。
   でも、いる時間は少なくなってるの。今は15分くらいしかいられない。そのあとは
   補習とか勉強会に参加してるし…勉強会って始るまでに少し時間がかかるから…
   始るまでの時間つぶし。」
  シュウに言われなければきっとこの先暫く先輩は現役だと思っていただろう。
  「でも…なんで他の高校受けるんですか?」
  「それは……ノーコメント、かな。卒業式には教えてあげるわ。時間だから
   もう行くね。」
  「えーちょっと!先輩!」
  時計を確認した後先輩は鞄を持って部室を後にした…








  「一体どんな理由があったんだろう?」
  「ハルカ君…君ね…人が教えてる時くらいは真面目に的に集中してくれないか?
   間違って事故にでも繋がったら危ないよ。」
  「ああ!…ごめん。」
  部活が始ってからハルカは少々上の空。さっきからどうしても先輩の進路希望の
  理由が気になって仕方がない。まぁ、そんなハルカの担当として付いたシュウのほうが
  ハルカが危なっかしくてしょうがないだろう
  「はぁ…進路…ねぇ…」
  「まだ、僕らは悩む時期じゃないと思うけど?」
  「確かにね。一応私も高校は鳳炎に進むつもりよ。だけど一年後がそうだとは限らない。」
  「まぁ、先の事は確定できないように世界は循環してるから…当然の事だけど」
  危なっかしいハルカを座らせ少しの休憩を取る二人。珍しくしんみりとした真面目な会話。
  「…シュウはどうして鳳炎を選んだの?」
  「え?」
  「だって、家からかなり時間がかかるじゃない?絵南にも中学はあるのに…」
  「それは君にも言えることだろう?君こそ何でこの学校を選んだんだ?」
  「私は…人が多いところが好きなの。人がいっぱいいたほうが楽しいし。
   それに、結構この学校って設備が行き届いてるから…かな?」
  なんともハルカらしい意見で選んだ動機。
  「不純した動機だね…」
  「悪かったわね!そう言うシュウの動機はどうなのよ?」
  「僕は記憶が漸くある頃幼稚園からここだから…別に動機なんてものないよ。」
  「そうなんだ…。じゃぁ、やっぱり高校もここにするの?」
  「そのつもりだよ。」
  「それじゃ、そのあとは?」
  「あと?」
  「だって、ここは高校までのエスカレーター式でしょ?大学はどこを受けたいとか
   就職はどこにしたいとか…考えあるんじゃないの?」
  「………」
  口元に手を当て考え込むシュウに少し唖然とする
  「もしかして、全く考えてなかった?」
  「全く…と言うわけじゃないけど…その時にやりたいように進むという感じかな。
   だから、あんまり深く考えた事がない。」
  「…意外。」
  「どうして?」
  「何て言うのかな?シュウって計画的だからきっとそこまで考えてるんだと思ってた。」
  「そう言う意味ね…」
  「だったら、私と考えにてるかも。」
  「君も似たような意見かい?」
  「うん。自分の進みたいように歩く。だから、あまり先の事は考えたくない。」
  「同意見だね。」
  「珍しく意見があったわね。」
  「本当に…雷でも落ちなきゃ良いけど…」
  「何ですって!!…と、そう言えば先輩はどうして他校を選んだのかしら?」
  「まだ悩んでたのかい?そのネタ…」
  「だって、気になるもの!!」
  ふうとため息を付いたシュウは小さな声で理由を教える
  「先輩の恋人は…他校の人だからね…多分それが理由だよ。」
  「そうなの?!」
  「結構有名な話だよ。」
  「へぇ〜…すごいな…好きな人の為にそこまでやれちゃうもんなんだ。
   いつか、それくらい強い恋愛してみたいな…」













  あまり先のことを考えたら面白くない

  だけど夢を持つのは別。
  だから今は時間と自分の足に身を任せていたい…

  これって贅沢なのかな…?














  「シュウ…お前推薦蹴ったって?」
  「うん。別にあの高校に行きたいわけでもないし。」
  「はぁ〜すげぇよな。あの高校って相当頭いるって話じゃん。」
  「あの高校には居るべき意味がないから…」
  「居るべき意味?…3年でもないうちから来る話蹴るとは……
   やっぱり…愛の力か…」
  「それ以上言ったら…本気で殴るよ…」













  進路なんて…結局自分で決めるものだと…僕は思う…

  今は何がやりたいとか…弓道以外にない…

  弓道をやるんだったらこの高校の方がいい…

  だから今のところの希望校の鳳炎学園…

  それに…鳳炎だったら…


  彼女も居るしね…





                      END



  作者より…

  知り合いの実話が少々入ってます。
  知り合いは好きな子を追いかけてわざわざ市外の
  高校に行きました…。
  このネタが一番お題で詰まりました。
  何せエスカレーター式の学校に進路希望があるのだろうか?
  と考えたんです。
  とりあえず、話的にはシュウの進路希望はハルカがいるのが
  第一条件?ありえない話だとは思ったんですが、
  書きたかったので書かせて頂きました。
  一番このお話がドリームだとお思います…
  今考えたら恥ずかしいわ…このネタ…

                2004.11 竹中 歩