『ランチタイム』









  「いただきまーす♪」
  楽しそうな声が教室に響く時間…昼休み。
  数人で机をくっつけ小さなランチスペースを作る女子や
  足早で購買や食堂に駆け込む男子。人それぞれの時間が今は流れている。
  そして、いつも誰よりもその時間を楽しむ少女が…
  今日は教室には存在していなかった。
  「…あれ?珍しい。今日は二人なのかい?」
  昼休みに席を立ったシュウはその少女がいつも入っているグループの女子に
  声をかけた。
  「…流石…コレだけ人数がいてもハルカがいない事に気付くとは…
   恋のパワー恐るべし…」
  「…君も毎回同じような事言っててあきないかい?」
  「別に?本当の事だと思うし。」
  フォーク片手に高い声で笑う女子。流石『ハルカ』の友人だ。何となく似ている。
  シュウが探している女子は紛れもなく『ハルカ』。いつもなら一番先に箸箱を
  開けるのだが、その顔がどうも見当たらない
  「4時間目まではいたよね?」
  「う〜ん…何か今日は一人で食べたいって言って屋上に行ったわよ?」
  「またなんでそんな人気が少ない所に…」
  「さぁ?気になるのなら本人に聞いてくればいいじゃない。用事でもあるの?」
  「弓道部のことでちょっとね。彼女一人だけに用事があるから…しょうがない、
   行くことにするよ。」
  シュウはその場から離れ屋上へと足先を伸ばす
  「ねぇ?言っても良かったの?ハルカに自分が屋上にいる事は黙ってって
   欲しいって言われたのに。」
  「良いのよ。言わなくてもシュウならきっと見つけちゃうだろうし…」
  確信犯の彼女はその少年の後ろを面白そうに見送っていたと言う……








 




  「やっぱり…人が少ない…」
  夏ならまだしも、今は冬服ですら寒いと思う時期。屋上となれば寒い風が吹くのは
  至極当然のこと。そんなところに生徒がいるほうが珍しい。
  しかし、そんな中でもやはり生徒はいるようで…
  「…本当にいたよ……」
  少しばかりあきれてしまった。クラスにいた女子の言う事を信じていなかったわけでは
  無いが、少しばかり疑っていた自分がいたのも事実。だが、疑うだけ損と言うもので…
  紛れもなく、ハルカはその場所に存在していた
  「…寒い……セーターでも持ってくればよかった…風邪ひくかも…」
  「そんな心配はしなくても良いと思うよ。なんせ…」
  「『馬鹿は風邪をひかない』て言いたいんでしょう?『シュウ』?」
  「ご名答。」
  ハルカには安易に予想できた答え。そんな厭味を言う奴もこんな厭味が帰ってくることも。
  自分の知り合いには一人しかいないからである。
  「悪かったわね…馬鹿だけど人並みに風邪もひくわよ!」
  「それこそ本当の馬鹿だよ。自己管理が出来てない証拠さ。」
  「う〜……。で、シュウは何の用なの?こんなところには普段来ないでしょう?
   それとも昼ごはんでも食べに来たの?」
  ハルカがそう思ったのも無理は無い。シュウが茶色いパン屋の紙袋を抱えていたからである。
  「僕はキャプテンに頼まれた君への伝言を言いに来ただけだよ。今日はキャプテン
   来れないから、君の指導に僕があたる事になったと…コレは一緒に持ってきただけさ
   適当に日当たりのよくて暖かいところは無いかと思って。」
  「そっか…キャプテン来れないんだ…」
  「随分、残念そうだね。」
  「残念って言うか…シュウの指導が嫌と言うか…」
  「はっきり言ってくれるね…なんなら…いつも以上に手取り足取りで教えてあげても良いけど?」
  「?!!」
  その言葉に赤面するハルカを見たシュウは思わず笑いが零れる。
  「大丈夫だよ。君相手にそんなことはしないから。本当に単純だね」
  「あんたがヘンなこと言うからでしょ!!」
  「(ま、単純と言うよりは純粋なんだけだけどね…)」
  そこがまた可愛いと思えてくる
  「で、何で君こそこんなところにいるんだ?ランチも食べずに?」
  「ランチなら…今からよ?ほら。」
  フェンスにもたれるようにして地面に座っていたハルカは傍らから手の平より少し大きめの
  箱を見せる。それは少量で栄養が取れると言う簡易栄養食品の箱。
  「なんで…そんなスポーツ選手が試合に前に取るような食事を…足りないだろう?君には?」
  「べ、別にシュウには関係ないでしょ!!私だって食欲の無い日ぐらい…」
  その様子が変だったことにシュウにはある『仮定』が浮かぶ





  「…ダイエット……」
  「?!!!な!!」




  このハルカの表情でシュウの『仮定』は『確定』へと変化する
  「図星…のようだね」
  「…図星って言うか…単に見た目良くなりたいって言うか…」
  「何でいきなりダイエットなんか…気にしてないって言ってたじゃないか。」
  「…本心なわけないでしょ!」
  「…確かにそうだね…」
  年頃の女子が必ず数回はぶち当たる壁『ダイエット』ハルカもまた例外ではなく
  そんなことに悩む女子の一人。だが、シュウからすればハルカのプロポーションの
  どこが悪いかなんて分からない。胸だってあるし、この歳では珍しくくびれもある
  町で一緒に歩いていると時たま同年代の男子が振り返るほどだ。なのにどうして?
  「誰かに言われたのかい?太ったとか…」
  「別に。そんなこと言われてない。」
  確かに。このプロポーションにケチをつける人間はまずい無いだろう。ハルカは
  箱から栄養食品を一本取り出し口へと運ぶ。
  「じゃ、なんで…」
  「写真よ…写真。」
  「写真?」
  「そう…小学校の卒業アルバム見てて…卒業式のときより太ってるんだもん!
   だから…」
  剥れた顔で何故か悔しそうに話すハルカ。だが、シュウはこの言葉に飽きれるしかなかった。








  「君は…」
  「え、ちょっと!」
  ハルカの隙を突きシュウはもう一本の栄養食品を取り出す。それと同時に自分の紙袋を
  ハルカの目の前に置く。
  「何?!」
  「中学生の女子が一日に取らなければならないカロリーは大体1500Kカロリー。
   と言われているちなみにこの栄養食品は一本辺り100Kカロリー。箱には二本入りで
   両方とっても200キロカロリー。多分君の事だから朝も食べてないんだろう…」
  「う!」
  「それで、多分夜もこれで済まそうとしてなかったかい?」
  「あう!」
  「その上、君は弓道部。運動部だからかなりカロリーを消費する。それなのに、
   こんなもので一日が持つわけ無いだろう。」
  シュウの述べる意見は的確且、ハルカの核心をついたもの。言われるたびに痛い
  「…ごめん…」
  「それに、太ったんじゃなくて成長してるだけだよ。確かに小学の時に比べたら丸く
   なったかもしれないけど、その分発達してる筈さ。」
  更にシュウはハルカの今の体のフォローまで入れる。
  「そうなのかな…」
  「それ以外に理由が無いだろう?ほら、早く食べた方がいい。」
  「シュウはお昼どうするの!」
  「僕は食堂にでも行くよ。」
  ハルカにその台詞を残して立ち去ろうとするのだが
  「待って!」
  思い切り足首を捕まれる
  「こんなに私食べきれないわよ…何でパンが4つも入ってるのよ?いくら私でも
   食べられない。」
  「…今の君なら食べれない量じゃ…」
  「一緒に食べよ!」
  「…は?」
  「時間無いわよ。食堂に行ってたんじゃ。ほら!」
  「君と言う人は…」
  無理やりそこに座らせられ二人並んでランチタイム。
  「放課後何か奢るわよ。このままじゃなんか嫌かも!」
  「…間食は辞めたほうが…それしてたら太るよ…」
  「いいわよ。シュウも一緒に太らせるから!」
  べーと舌を出すハルカには悲しみや怒りではなく、笑顔が入っていた。
  これでこそいつものハルカである。
  「そう来るとはね…」
  「でも、本当に太ったらどうしよう…」
  「それでも良いんじゃないのか?太ってる人が良いって言う人もいるし…。
   まぁ、どうしょうも無ければ僕が相手を探してあげるよ。」
  「それはどうも。普通は『僕が貰ってあげるよ』とか言うんじゃないのかしら…」
  「流石の僕もそこまで心は広くないよ。それに…僕だったら…」
  「だったら?」



  「太る前に気付いて止めるさ…」



  何か意味深をついたシュウの言葉にハルカの動きは止まる
  それは少し寒い午後の学校でした…


  






                        END






  作者より…
  1990代テイストの少女漫画です。
  ハルカはダイエットとかしないタイプだと思ったのですが
  いや、する必要が無いね。あのプロポーションは。
  
  とまぁ、シュウがどんどん父親化しているのは気のせい?
  娘の体が心配なお父さんだよこれじゃ…
  ランチタイムがなんだか暗い話ですよ。
  ハルカは昼休み一番元気そう。だから、いなくて余計
  寂しいんでしょうねシュウは(笑)
  ちなみにハルカはお弁当持参派、シュウはパン派のつもりです
  何となく昼休みに茶色い袋持ってるのが似合うなと。
  お気に入りのパン屋さんがあると言う事で。
  ハルカも時々おにぎりとかパンとか買ってきますが、
  弁当忘れる事もあります。
  ちなみにシュウは結構食べると思うんだけど(え?私だけ)
  いや、大食いとかじゃなくて、人並みの男子くらいは食べるで
  しょう。あと飲み物は牛乳希望!身長気にしてるんだよ。
  身長で馬鹿にされるシュウとか好きです…(悦)

                  2004.11 竹中歩