君がこの学園に来てから…

  僕には一つの『癖』が出来た…

  周りには分からない些細な事だけど…

  前のぼくには決してなかった

  君へ対する一つの感情の表れ…





  『貸し借り』





  「あれ…?あれ?」
  その不可解な言葉はこの学校に転入して間もない少女『ハルカ』の
  言葉だった。
  木の葉のような栗色で癖のある髪を無造作に動かしながら何か大きく
  動いている。見かねた友人はその行動に声をかけた。
  「何してるの…?ハルカ?」
  「忘れた……。」
  「何を?教科書?体操服?それとも財布?」
  友人はハルカが忘れそうなものを思い上げ例に出すがどれも否定される。
  「ペンケース…忘れた。」
  「はぁ?!筆箱忘れたの?だって、ハルカいつもノートと一緒に学校に
   置いてたじゃない?」
  「テスト近いから久々に勉強しようと思って持って帰ったのが運の付だわ…
   なれないことはするものじゃないかも…」
  「でも、今日は筆箱ないときついわよ?技術系の授業殆どないもん。全部
   デスクワークみたいなもんだし。数学とかはどうにかなるとして、あとは
   ペンケースが必需品の美術。コレが問題よ。今日は模写絵だって言ってたから、
   確実にいるね。」
  「わーん!何でこんな日に限って忘れるかな!」
  「『こんな日も』の間違いじゃないのかい?」
  「あんたって奴はどうして人の神経を逆撫でしつつ、且、何で私の失敗した時や
   友人とのお喋りに入ってくるのよ!」
  ハルカが肩を震わせながら背中で文句を行った相手はこの学年で知らない奴は
  いないといわれるほどの有名人『シュウ』その人である。
  二人の言い合いは今に始まったことでは無い。何より、今はこの二人はセットの方が
  有名だ。



  

  有名になった事件の発端としてはそれはハルカのが転校してきた初日。
  今まで特定の女子を相手にしなかったシュウがハルカを相手にし始めたことが
  そもそもの原因。まぁ、最初のときはシュウのファンの子からの嫌がらせを
  ハルカがうけていたがそんなことはもう既に過去の事。
  今では学園ではある程度有名な公認カップルとなっているという『噂』だ。
  何故噂かというと、二人が恋人ではなく『友情以上恋人未満』という間柄だから。
  別の言葉で言うなれば『犬猿の仲』顔をあわせれば直ぐにけんかを始る。
  だが、そんなものは数分でけりがつく。なんだかんだ行っても結局が仲がいい。
  というなんとも特殊な付き合いの二人




 
  「大体シュウには関係のないでしょ!」
  「君が忘れた事であげる悲鳴は僕の大切な読書時間を削られる事になる。
   この時点でもう関係ないとはいえないんだ。」
  「哲学的な返答をどうもありがとうございます!」
  ハルカは舌を出して思い切り威嚇しているようだ。
  「でも、どうするの?親の人に届けてもらうにも時間ないし…購買も行く時間
   ないよ?学園内の文房具屋なんてもっと時間かかる」
  確かに友人の言う通り、この学園は広く、購買に行く時間だけで10分かかるし、
  学園内の文房具屋なんて15分は確実にかかる。  
  「何で美術が一番最初なのよ…あのさ、シャーペンだけでも良いから
   貸してもらえない?」
  友人はハルカにOKサインを出すと自分の筆箱からシャーペンを取り出し
  それをハルカに手渡しする。
  「ごめんね。私もあんまりペン持たない人間だから、色ペンと消しゴムの予備なくて…
   でも、授業中にサイン出してくれればいつでも貸すから。」
  「ありがと〜!恩にきるかも!」
  「…と、私ちょっと職員室行ってくるね〜!」
  そう言うと友人は駆け足で教室を過ぎ去っていった。



  「…とは言うものの…必須五科目は良いとして美術に消しゴムないときついわよね。」
  友人から借りたオレンジ色のシャーペンを手であそばせながら呟いた時、
  忘れていた横にいた人物がお決まりのようにため息をつく。
  「なによ…そのもの言いたげなため息は?」
  「付いておいで…」
  シュウはそれだけ言うと自分の席へと歩き始めた、机から自分の筆箱を出す。
  「何?シュウが他の色ペン部類でも貸してくれるの?」
  流石にそれは無いと思ったハルカは、強く言い放つようにシュウに言葉を向けかけた。
  しかし、それは数秒もしないうちに否定できない事態へとなる。
  「…僕以外に君のために犠牲になるような心の広い人間は早々いないだろうからね。」
  自分のペンケースから色ペンを二本取り出すとそれをハルカに託す。
  「良いの…?本当に借りちゃって?」
  「平気だよ。今日の授業では使わない色だからね。」
  「ありが…と……」
  「あとは……」
  シュウはペンケースからカッターを取り出し、『カッカッ』という音を立てて
  刃を長めに出していく
  「カッターなんて持っていいの?」
  「特殊なカッターだよ。人の肌とかは切れない様に出来てる。刃物は禁止何ていうけど
   学生生活じゃカッターは必需品だと僕は思うから…」
  そう言いながら手先は筆箱の中にあった新品の消しゴムへと伸びる。
  「君は本当に運が良いよ…」
  「ペンケース忘れてる時点で運が悪いわよ。」
  消しゴムに付いている透明なフィルムをはがすと真白で真新しい消しゴムがケースに
  包まれて出てくる。シュウはそのケースすら取り外し、真白な本体だけにした。
  「僕が新しい消しゴムを買っておいたおかげでね。」
  そう言うと、本体だけにされた消しゴムをシュウは均等に二つにカッターで分ける
  「え…。」
  そのうちの一つを無言でハルカに手渡す。
  「幸い、二つにしても支障のない大きさだからね。感謝して欲しいよ。」
  「何もここまでしてもらわなくても…逆に悪いわよ。それになんだか…
   気味が悪い…」
  「僕も結構きつい事を言う方だけど、君言う時は言うね…。でも、今更返されても困るから
   受け取ってもらえるなら受け取ってほしい。」
  「そうね…それじゃ。貰うわ。」
  「対価…」
  自分の席に帰ろうとしたハルカにシュウはそう呟いた。
  「はい?」
  「それなりのものをあげたり貸したりしたら、それなり物を返す。つまり代償は
   どうするって話さ。」
  「…だよね。シュウがそんな簡単にここまでしてくれるわけないもんね。
   そうだなぁ…それじゃ…」



  何かを耳元で囁やくと…

  ハルカは自分の席へと戻って行った。








  「不意打ちだ…」
  その日の昼休み、シュウは屋上にいた。
  流石に朝の事でまだ不整脈が続いている。
  いきなり耳元で囁かれるというのはどうも心臓に悪い。しかも、意識している異性なら
  なお更の事だ。
  「でも、どうして屋上なんかに…。」
  ハルカがシュウの耳元で囁いた言葉は『昼休み屋上に来て』だった。
  その時、屋上のドアがこれでもかといわんばかりの音で開けられる。
  「やば!壊れてないよね…」
  ドアの事を心配そうに撫でている女子がいた。
  「そこまで勢いよくあけなくても大丈夫だよ…」
  「ごめーん!待たせちゃ悪いと思って…」
  そんな事をする女子はこの気品を重んじる学園でも『ハルカ』一人だろう。
  「で、何のために僕を呼んだんだ?」
  「そうだ!お昼まだでしょ?」
  「君に呼ばれたからね…」
  「それじゃ、コレが今日のお礼よ。」
  ハルカは茶色い、まちのついた紙袋をシュウに渡す。
  「確かブラック珈琲にクロワッサン、それと野菜のサンドだったわよね?
   高等部の横にある…」
  ハルカが持って来たのはシュウが気に入っている学校内のオープンカフェのメニューだった。
  学校が早く終った日や部活帰りよく利用する。しかもメニューは大抵決まっていて、
  ハルカが述べたメニューだ。
  「でも、どうしてコレだって…君とは1回しか行ったことがないのに…」
  確かに。2回行ったなら分かるだろう。しかし、ハルカとは一回しかいったことがない。
  なのに、彼女は自分の好みを把握して、覚えていてくれた。
  「覚えてただけよ。中等部から結構距離があるのに、あそこのカフェまで行くって事は
   そこにお気に入りがあるのかなって思って。だから、そう言う感じで選んだだけ。
   さ、早く食べよ!」
  ハルカもシュウとおそろいの紙袋からカフェオレと甘そうなディニッシュを出し頬張る。
  「もしかして、昼休みになってすごい勢いで飛び出したのは…」
  「そうよ。だった、結構遠いんだもん。往復で15分かかっちゃたわよ」
  「それに君はお弁当派の筈じゃ…」
  「今日はね、何となくパンだったのよ。早くしないと休み時間なくなるわよ?」
  「そうだね…」


  昼休み…心地よいの良い風が通り抜けた…









  君が来てから僕についた癖は…

  『口実』

  何かにつけて…結局は一緒に居たいって言う

  僕の感情の表れだ……


  
                            END







  作者より…
  貸し借り何でしょうか?
  なんか『借りは作らない!』見たいな感じですね。
  消しゴムを二つに切るのは私がテストの時に多く
  目撃した例です。友人同士で分けてました。
  でも、なんか同じもを分けて共有するっていいと
  思うんですが。そんなこと思うの私だけですかね?
  後半の二人のお昼のシーンですが、
  周りに生徒はいないと思ってください。
  入りたかったけど入れなかったんだよ!
  二人の雰囲気が良すぎて!


  今回のもう一つのタイトル『口実』
  シュウって絶対何かしら口実があると思うんです。
  公に一緒にいるのはなんか気恥ずかしいし、
  そん感じでハルカと付き合うよりは
  口実作って一緒にいるほうが良いみたいな
  感じです。(上手く伝わるかな?)
  青春に一ページですね…

             2004.11 竹中歩