僕らは僕ら。

  私たちは私たち。

  そして、彼らも自分達と同じ

  不思議な関係を築くのかな…?









  『また明日』











  どこかの街のどこかの山に存在する『鳳炎学園』
  その学園面積は広大でまだ誰もその全てを把握できてはいない。
  幼等部・小等部・中等部・高等部の四つがエスカレータ式で構成されており、
  その生徒数はマンモス校(俗に呼ばれる1000名以上の生徒数を保持した学校)の
  条件を軽く超しているほど。学校内にはかなりの数の個人経営店・チェーン店が
  存在し学生が生活する場としては少し贅沢な気がする…。











  「去年もこんな感じだったっけ…」
  丸で今芽吹いたかのような新緑の緑の髪と瞳。その持ち主はあどけなさこそまだ
  残ってはいたが『美形』と呼ぶにはふさわしい少年だった。名は『シュウ』
  「そうなの?でも大変だったわよ。シュウが弓を構える姿を写真に撮ってほしいて言う
   女子に相当カメラ託されて。シュウの迷惑にならないように撮るの大変だったんだから。」
  「それは迷惑かけたね。」
  「全く『弓道の王子様』じゃないんだから。『シュウ様』とか言う女子もいるし…
   本当に大変ね。もてる男子は。」
  その横には歳相応で可愛らしい少女がちょこんと立っている。栗色の髪の毛は
  珍しい癖のある髪で、瞳はコバルトブルーといった所。良いところあげるとすれば、
  年齢にはふさわしくないほどのプロポーションの良さ。名を『ハルカ』と言う。





  今、この二人は学校の案内や雑用などをしている。理由は簡単だ。
  「文化祭の係りになるとはね…」
  鳳炎学園は文化祭の真っ最中だった。しかも今日は最終日で休日。一般参加もOKと
  なれば来訪者の人数は半端でない事は確か。
  「そんなこと言ったって、引き受けたのはシュウでしょ?」
  「確かにそれはそうだけどね…」
  そのとき、ふと係員の呼び出しがかかる
  「これって、私たちのどっちかよね?」
  「そうだろうね…」
  「いいよ。私が行ってくる。シュウはここで一般の人たちの案内をお願い。」
  「あ…それは…ちょっと困るんだけど…ってもう聞いてないか…」
  シュウの声はハルカの耳に届かず既に、ハルカは50メートルほど先を走っていた。
  「…いくらキャプテンの話でもね…別々になると……」
  ふと…この係りになるときのことを思い出す……














  「文化祭の雑用…ですか?」
  それはシュウが部活中の話だった。シュウが所属する部活は『弓道部』気品と静寂を
  重んじる部活
  「そ、何とか去年みたいに頼めないかな?」
  「…確かあれですよね?案内をしたり会場のセッティングしたりするやつ。」
  「そうそう。シュウなら去年やったことあるから多分平気だと思うんだけど…。」
  キャプテンの言うようにシュウは昨年も係りになることはなった。
  普通文化祭の係りは文化祭実行委員や文化委員などが行う。ただ、どうしても
  最終日は人が多く人数が足りないため人望の厚いものや責任感がある生徒に
  助っ人を頼む事がある。シュウも例外ではなくその責任感の重さや前キャプテンの
  頼みとして去年は引き受けた。しかし…
  こう言っては悪いがとても悲惨だったと言うことしか脳には残っていない。
  その容姿や弓道部という女子には魅力的過ぎる存在として普段は学校内に入れない
  外部の女子から写真撮影を山ほど頼まれた事。それに乗っかって同じ学園内の女子も
  似たようなことをし始めたため、ちょっとした騒ぎになったことをぼえている。
  「ああいう思いは…一回すればもう十分なので…出来れば辞退したいんですが…」
  「ああ!それに関しては今年は手を打ったから大丈夫!」
  そう言うや否や、一人の少女が二人の会話を壊すような大声で駆け寄って来る
  「キャプテーン!助っ人申込書ってこれでいいんですか?」
  「あの…キャプテン…もしかして打った手って…」
  シュウを小脇に抱えたキャプテンは
  「ハルカちゃん横に置いておけばこの文化祭だし彼女だと思ってほかの女子は
   近寄らないって!しかも、お前にとっては良い話だと俺は思うけどな…?」
  そして、シュウはその確信犯のキャプテンの口車に乗せられ今にいたるというわけだ。
  それは…ハルカに友情とは違う特別な感情を抱いている自分が悪いのか…
  そのへんはどうともいえない。









  「そして今年も二の舞になる…か…」
  ハルカが傍からいなくなったシュウは…事実上一人。既に10人程度の女子に囲まれていた。
  しかし、その女子の波に果敢に突っ込む男子がいた事に気付く
  「ごめん、通して!」
  シュウは女子の波を掻き分けるとその男子へと近付いていく。
  「君…大丈夫?」
  「すいません。本当は他の人に頼めばよかったんですけど他に係員の腕章つけてる人
   いなくって…」
  少し汗ばむ少年。歳はシュウより少し下くらいだろう。文化祭でシーズンで寒いとは言え、
  奇妙な形の帽子を被っている。市販品なのだろうか?
  「あの…人の呼び出しって出来ます?」
  「ああ。本部の方に行けば出来るよ。でも…その前に場所を移動しようか…」
  「そうですね…」
  多分この黄色い声の中で話し合いが出来る人間は早々いないだろう。







  人探しをすると言う少年先ほどの奇妙な帽子はさて置き、瞳は透けるような
  緋色。多分美少年には属されるだろう。黒と赤のコントラストの服がよく似合う。
  「えーとそれじゃ、呼び出す人の名前を教えてもらえるかな?」
  「…それが…名前は知らないんです。」
  「…え?」
  本部についた二人はパイプイスに座ったがその少年の一言でシュウは固まる
  「えーと…人を探すんだよね?」
  「はい。そのつもりであなたに声をかけました。」
  「なのに名前はわからないと?」
  「はい…やっぱり名前がないと出来ませんか?」
  「出来ない事は無いとは思うけど…」
  もし、特徴などだけで探すような事があればそれは百貨店などで迷子を呼び
  出しされるような物だ
  「それじゃ、特徴だけでも教えてもらえる?」
  「それが……」
  少年はなにやら恥ずかしそうに手の平に乗るほどの小さな紙切れを一枚差し出す。
  そこに書かれていたのは



  1.髪は茶色
  2.瞳はブルー
  3.人間離れした元気の持ち主
  4.女の子
         以上



  「これは一体何かな?」
  「実は…僕、父さんの変わりにこの女の子を捜しに来たんです。でも、父さんからは
   これだけの事しか聞き出す時間がなくて…何せ急用が入って急いでたんです。父。
   僕は幼い頃に一度会った事があるらしいんですけど…覚えてないですし…
   1時間探したけど、結局見つからなくて…」
  「つまり…君は探す相手がどんな子かもわからないと?」
  「はい。」
  なんと言う難題だろう。これだけで探せと?無理を言わないで欲しい物だ。
  「他に手がかりは?」
  「……名前を聞こうとしたら…唯一言『お前と同じ由来だ』としか…」
  「同じ…?名前が同じとかじゃないよね?」
  「それは無いです。僕のは女の子が使うような名前じゃないですから…」
  「それじゃ、………そういえば…確かに彼女もなくは無い…」
  ふと、自分の知人の中に今少年が探している人物にあて当てはまる少女がいた事を
  思い出した。
  「あの…君の名前は季節とかじゃないよね?」
  「いえ。違いますけど?」
  「じゃ違うな…」
  もし、季節が当てはまればハルカと言う手もあったのだがどうやら違うようだ。
  それに元気は良いがその文章の『人間離れした』がどうも引っかかる。
  「うーん……!…ごめんちょっと待ってね。」
  ポケットから携帯のバイブレーションが伝わる。




  「ハルカ君?」

  「≪あのさ、ちょっと助けてもらえる?≫」

  「何あったのかい?」

  「≪女の子がさ…木の上に登ってるのよ…≫」

  「小さい子?」

  「≪多分…私と歳は変わらないと思う≫」

  一瞬自分の耳を疑いたくなった。どうやったらそんな状況になるのだろう?

  「何でそんなところに?」

  「≪人を探してるって言ってるのよ。説明しても降りてこないし…
    まぁ、人気がないからそこまで大きな騒ぎにはなってないけど…≫」

  「ちょっと待って…その女の子の特徴は?」

  「≪え?えーと髪は茶色で凄く元気が良い女の子…
    あと、聞いたこともない方言で話してる≫」

  「君…さっきの女の子方言とかある?」

  「方言ですか…あると思います。凄い田舎に父親と居たみたいだから…」

  「ハルカ君直ぐそっちに行くよ。」








  携帯を閉じるとシュウは何かを確信したように笑う
  「見つけたかもしれないよ?君が探してた人…」















  「確かに…大騒ぎでは無いけど…」
  「ある意味大騒ぎですね…」
  ハルカの元についた二人は唖然とする。
  確かに少女が木の上に登ってはいるが…それはかなり高い桜の木。
  どうやって登ったのだろう?
  「あ!降りるみたいだね。」
  「いや、ぶつかりますよ?!」
  「あ…」
  そう、少年が言った時は既に遅く…少女が降りようとした着地点で見事に
  ハルカとぶつかっていた…
  「いたたた!!…怪我は無い?」
  「あたしはなかとよ?」
  「で、あなたは誰を探してたの?」
  「なんか、父ちゃんがいいよった男子ば、探しよったけん。変な帽子ば、被った男子。」
  和気藹々に近い会話でもりがる女子を見て…二人は…







  「美しくないね…あの格好」
  「not beautiful…泥だらけだ…」







  「お互い…」
  「大変そうですね…」
  違う意味で共感している男子…
  「で、探している女子ってあの子かい?木に登ってた。」
  「みたいです…」











  結局その少年が探していたのはその木登っていた少女で…
  お互い待ち合わせたのは桜の木の下だったらしいのだが、
  どこの桜の木の決めていなかったのが仇になったようで…
  「君が木の上になんているから!!」
  「あたしがどこの居ろうとあんたには関係なかよ!!」
  「でも、こうやって探すのに時間がかかってるだろう?!」
  「人を探す時は上から探した方が早か!!」
  絵に描いたような…仲の悪さ…でも、可愛いとすら思えるけんか……
  そして二人は軽く御辞儀をすると…シュウとハルカの前から消えていった……














  「今日は疲れたかもー!!」
  大きく背伸びをするハルカ
  「全く、とんだ文化祭だったよ…」
  「本当。あ!あの二人名前聞くの忘れた…面白そうだから友達になっておきたかったのに。」
  「来年あたりは入学してくるかもね。もしくは転入とか?」
  「だったら楽しいかも!あの女の子気が合いそうだったから。」
  「確かに。あのアバウトさは君と波長が合うだろうね。」
  「今日は聞くことがないとは思ってたけど、最後にやっぱり厭味聞いちゃった…」
  「でも…彼の名前…僕も聞きそびれたよ。多分彼と僕は話が合うと思う。」
  「勿体ないな…名前教えてっていったら女の子は…『目と同じ色の宝石の名前』としか
   教えてくれなかったから…」
  そして、その言葉とともにシュウの頭で少年の一言を思い出す…




  『同じ名前の由来』





  「あの子の目…青だったから…トルコって言うよりは『サファイア』かな?」
  「もし、その女の子と同じ由来だったら…あの男子は赤い宝石…それで
   男の子がつかうような名前…『ルビー』かな…」
  「どっちにしろ、珍しい名前だよね。」
  「だね。この国の人じゃないかもしれないけど。」
  「でも、今日は残念だったかも。」
  「なんで?」
  「シュウに文化祭案内してもらおうと思ったのに時間がなかったから…来年はよろしくね。」
  「来年…ね…」
  「それじゃ、明日から二日間は文化祭の片付けだね。」
  「授業が潰れるから嬉しいんじゃないのかい?」
  「ま、確かにね…それじゃ!また明日!」










  新しい出会いがあるように

  新しい感情が芽生えるように

  例え何があっても明日は来る…

  だけど君がいるだけで…

  明日が待ち遠しくなる…だから…



  「…また明日」

  




                            END






  作者より…
  漸く最後のお題を書き上げました。
  最後と言う事で違うコンビを出させていただきました。
  可愛いよこの二人。
  まぁ、シュウハルと言いつつ今回書きたかったのは
  女の子同士で笑うところと
  男の子同士で呆れる所。
  この二箇所とシュウとハルカが『また明日』と会話する部分。
  多分また明日って言うだけで次の日までが楽しいと思う。
  その時点でまた明日会う事を約束してますからね。
  また明日と言う言葉の偉大を知るには良い機会でした。


  本当に小説一ヶ月…感動をありがとう!!

                   2004.11 竹中歩