『何でもない』





  「私はあれはパスかな…」
  「流石にやりすぎだよね…」
  学校が半日で終った日の午後…ハルカは友人と電車までの時間を校内にある
  コーヒーショップで潰していた。そしてハルカとその友人の先にあるものは
  一組の高校生カップル。
  「何も、買い物する時まで手繋がなくてもいいのにね。」
  「歩くくらいならいいけど、あそこまでくるとうっとおしいかも。」
  そのカップルはコーヒーショップの対岸にある雑貨屋で買い物をしていた。
  だが、二人が気付いてから約15分間…会計時も含めずっとを手を繋いでいる。
  しかも普通の握手のような繋ぎ方ではなく、指と指を交互に絡ませる俗に言われる
  『恋人握り』と呼ばれる繋ぎ方で。
  「でも、私は彼氏が出来ても手は繋がないかな…」
  「そうなの?」
  ハルカの友人はさっぱりとしていてあまり自分の恋愛には他の女子が持つような
  願望は無いらしい。
  「だって、好きに動けないし。…でも、恋に落ちたらそんなこと関係ないかもしれないね
   あんな事平気で出来るようになるんだろうな…。」
  「そうなのかな…?」
  コーヒーのカップに入ったキャラメルオレを飲みながら頭で考えるハルカ
  「そうじゃないの?ほら、恥ずかしい台詞でも好きな相手が出来たら
   言っちゃうって言うし。…ていうか、言いたいと思うらしいよ?不思議とね。」
  「そんなに恋愛に詳しいのに好きな人いないんだよね?」
  「痛いこと言わないの。そう言うハルカはいいわよね。好きな人いて…」
  「もしかして…シュウのこといってる?」
  「シュウ以外に誰がいるのよ?好きなんでしょ?」
  「別に恋愛感情では好きじゃないわよ。あるとしても友情関係の好きよ」
  「普通、友情関係とかでも好きと言う言葉は使えないわよ…」
  こう言うことを悪気がなく本心で出てくる辺りハルカは本当に純粋なのだと思う。











  「誰の事が好きだって?」












  「…噂をすれば何とやら…」
  「私も何となく予感したかも…」
  女子二人は顔を見ずにその声だけで誰だかわかる。
  この間合い
  この話の入り方
  そしてハルカがいる時点で話し掛けてくる人物は唯一人…
  「シュウ…あんたって奴は本当にハルカがいるところに確実に現れるわね…」
  「そんな人をハルカ君の黒子みたいに言わないでくれるかい?」
  「だって、本当に現れるじゃない。」
  「そうなのよね。私が友達と話してるときとか失敗した時とかエトセトラ…」
  「それは仕方ないだろう?彼女とは同じクラス、隣の席、同じ部活、家が同じ方面…
   顔をあわせる機械が多いのは当然の事だし。」
  「顔はいいけど素直にならないのがあんたの悪い所よ…」
  「それはどうも…で、誰が誰を好きだって?」
  「褒めてないわよ。なに、ハルカがシュウのこと好きなんだって」
  「は?」
  「ちょっと、言葉が少し抜けてるわよ!!」
  友人の笑い顔に対してハルカは怒りに似た赤面を浮かべている。
  「あはは。ごめん。ハルカはね友人としてシュウのこと好きなんだって。」
  「友人として…ね」
  「残念だった?」
  「別に…。」
  「そう。でも、いいじゃない『友人としてでも好き』なんて言ってくれる女子は珍しいわよ」
  「確かにそうかもしれないね。なんせ、彼女には常識は通じないから。」
  「悪かったわね!毎度毎度、常識が通じないって言うんだから!」
  「怒らない、怒らない。…っと、私電車の時間だわ。それじゃぁね!」
  友人の携帯が軽やかにメロディーアラームで知らせている。鞄を手にとり飲みかけの
  コーヒーが入った紙コップを持つと手を振って『バイバイ』と言いながら過ぎ去っていった…
  「もうそんな時間?」
  「そうだね…僕らの帰る電車も出る頃だ…で、友情関係は兎も角として、
   それ以前に何か話していたようだけど?」
  「ああ、そこの雑貨屋にいた高校生のカップルの話。」
  「知り合いだとか?」
  「ううん。違う…仲が良過ぎるかもって話してただけ。ほら…」
  漸く店から出てきたカップルはやはり手を握って歩き始めた。
  「普通のカップルに見えるけど?」
  「あれ…?シュウって…あっそか、目悪いもんね。あのカップルが繋いでる手の握り方
  『恋人繋ぎ』て言うのよ。流石に四六時中あれやるとうざいかなって…。」
  「なるほど…と言う事は君はああいうのは苦手なんだ。」
  「今のところは。だって、手を繋ぐのさえ恥ずかしいもん。」
  少しテレ笑いを浮かべるハルカの顔にはあどけない恋愛がすきそうな少女の顔だった。
  「でも…君は……」
  「え?何?」
  「いや…。さて、駅に行こうかな…」
  「ちょっと待ってよ!!」
  カップに少し残っていたキャラメルオレを一気に飲み上げるとハルカはシュウの後を
  追いかけていく。
  「何言いかけたのよ?」
  「何でもない。」
  そのシュウの反応は何だか少し嬉しそうに感じた…



  シュウの後ろのシャツを少し握って追いかけるハルカに向かって…



  








  手は繋ぎたくない…

  君はそう言ったけど、似たようなことはしてるよ?

  いつも後ろから追いかけるときは必ず服を掴む癖。

  始めは誰にでもやってるのかと思ったけど、

  そんな行動僕以外にやってるところ見たことないし…

  僕から言わせて貰えば…

  手を繋ぐよりよっぽどこっちの方が恥ずかしいと思う。

  なのに君はそれを素でやってしまう。

  ちなみに僕はこっちの方が…特別扱いみたいで嬉しいけどね。

  忠告したら君はきっと止めてしまうだろうから…

  『何でもない』て言葉で誤魔化させてもらうよ




                          END













  作者より…
  なんか女の子が必死で男子のシャツ掴むのが
  可愛いなと思って書きました。
  ちなみに私は女の子が男子のシャツを掴むのが
  絵的に好きです

 (例)
  縋る子犬のようにシャツを掴んで涙目で女の子が見る図
  嫌がる男子の襟元を掴んで無理やり連れて行く女子の図
  

  等々…まぁ、男子のシャツが好きなんですがね。
  『何でもない』て台詞をシュウに言わせたかったためだけに
  作った流れともいえます(笑)
  このお題見たときに一番最初に浮かんだ物語なので、
  同じ長さの小説とは対比にならないほど早くかけました。
  ネタがあると凄い早いのですが、ネタを書きながら作ると
  凄く時間かかります。
  どっちにしろ、私の小説ではかなり短い方なので
  読みやすかったのではないかと。小説と言うよりは
  短文ですね…。
  自分的には満足の行く小説です。友人がどんどん自分の性格に
  なっていく…(苦笑)

              2004.11 竹中歩