君が言うように…確かにこんな日はなくなれば良いと思った。

  元々この日は好きじゃなったけど…

  君がこの学校に来て…余計に嫌いになった…

  理由は…







  『試験』






  「………」
  机に広げられたのは学校で毎日のように取らされている英語のノートに
  和英辞書と英和辞書。それと教科書やワークに色ペンとシャーペンが
  所狭しと置かれている。そんな机の保持者は…学年成績常に上位の少年…
  名はシュウ。
  シュウはこの『絵南町』から少し離れた『鳳炎学園』の中等部の学生である。
  弓道の腕がよくその実力は日本でも一目を置かれる存在だ。その上頭も良く、
  運動神経も良い…しかも容姿も良いとなれば世間の女子が放っておく筈が無い。
  そんな世の中に囲まれている少年が今やっている行動は…

  『テスト勉強』

  既にテストは明日を迎えるのみとなったが、今回は教科の組み合わせが悪い。
  数学と理科と英語が同じ日なってしまった。
  「どうして、こう学生に不利な状況を作るかな…」
  机に向かい始めて約2時間…既に携帯の時計は夜8時半を指していた。
  長い時間普段はかけないメガネをすると疲れるもので…眼鏡を外し少し休憩に
  入る。そのエメラルドグリーン系の髪と瞳は思わずドキッとさせられてしまう。
  「今日で…一週間か…」
  そんなパーフェクトにも近いシュウにも近頃悩みにも似た感情が生まれた。
  それは一人の女子の所為。
  「全く、今ごろ何やってるんだか。」
  椅子の背もたれに体をゆだねポツリと呟く。
  テストが始る三日前からその少女とはあまり会話をしていない。放課後になると
  物凄い速さで帰って行き、テストの合間の休み時間も教科書にかじりついている。
  お陰で接点が無い。
  …気になる異性と接点がないというのはとても寂しいものだ
  「…散歩にでも行こうかな…」
  テスト前日に凄い余裕である。日頃の行いや理解能力の早さもあるだろうが、
  きっと持ってまれた素質で違うのだろう。
  家族に外に行く事を告げ少し厚めの上着を纏うと秋から冬に向かう外へと繰り出す。
  「一昨日まで…上着なんて要らないくらいだったのに…」
  数日前まで七分長けの服で丁度良かったのだが、今それではきっと風邪をひくだろう。
  何より既に息が白い。











  「まぁ、どこかに行くあてがあるわけでもないけど…」
  と言いながら腰落ち着けたのは自宅から20分ほど離れた公園。息抜きの散歩や
  中学生が夜中に出歩く場所としては少し不似合いな距離である。
  何故そんな場所に…
  「ここなら…と思ったけど、結局は無駄足かな?」
  そこは…彼女に家からそう遠くは無い公園で…少しの望みを託した場所だった。
  もしかしたら彼女がいるのでは無いかと…
  「禁断症状に近いかもね。」
  肩を竦めて自分に言い聞かせる。ここまでするようになるとは思ってなかった。
  ただ、会いたいと思うだけで…









  「何が禁断症状なの?」
  「?!」











  その聞き覚えのある可愛らしく元気のある声に一瞬驚いて身を仰け反りそうになる。
  「…別に…勉強と言う束縛した空間が嫌でそれに近い感情が出てきたかなって独り言。」
  「へぇ〜意外かも。やっぱりシュウでも勉強嫌なんだ?」
  「僕は勉強が好きなわけじゃなくて、人生を有意義に過ごすための糧として
   取り組んでいるからね…」
  「??…言いたい事が分かるような分からないような…つまり嫌って事に変わりは
   無いんでしょう?」
  「安直に考えればそう言う事さ。…でも君も息抜きかい?」
  「……へ?」
  「だって、こんな夜にこんな場所に来るなんて…」
  「…え、シュウは知ってて来てくれたんじゃないの?」
  「ごめん、話がよく読めないんだけど?」
  彼女の言っている意味がさっぱり分からない。一体どういうことだろう?
  自分が来るのを知っていたと言わんばかりの会話に聞こえるが…
  「私、シュウの携帯に時間があるなら来て欲しいってメールしたんだよ?」
  「…え?!」
  慌てて自分の携帯を確認する。しかしそんなメールは届いてすらいない
  「届いてないけど?」
  「えー!!絶対に送ったよ!」
  少女は自分の携帯電話をちらりと確認し…そのあと行動が止まる…
  「送信しないで保存してた…」
  「そんなことだろうと思ったよ…」
  飽きれて眉間に手を添えるシュウの姿が居た堪れない。
  「おかしいな…?」
  「で、何のために呼び出したんだ君は?」
  「そうよ!この数学の公式わかんなくて…パパは今日は遅くに帰ってくるし、ママは
   問題見たとたん少し考えたけどお手上げで…で、誰に相談できるかなと思ったら
   シュウしかいなかったの。」
  「写メールでもして送れば良いのに…」
  「聞いた方が絶対に早いんだもん!」
  「はぁ…」
  少女に渡された公式は偶然にも自分も詰まった場所だった。だが、解いてしまった
  人間には動作もないこと。
  「ここは…9xを右辺に移項にして…で割れば…これで答えが出る。」
  「ああ。それじゃこっちの例題と一緒の法則なんだ。ごめん、例題が−だったから
   +になると訳わかんなくて…ありがとう。助かったかも!」
  「そう…」
  問題が解けて嬉しそうな彼女を見ていると何故か自分も暖かい気持ちに包まれる。
  本当に彼女は自分にとって面白い存在だ。
  「でも…なんでかな?」
  「何が?」
  「呼び出してもないのにシュウが居たって事。これは凄い不思議かも…」
  「…確かに。」
  それは自分も思っていたこと。少しは予感がしてこの公園には来たが、確実な保障は
  なかったわけだ。それを考慮するとやはりこの事態は不可解。
  「…でも、きっと理由はあるんだよ」
  「例えば?」
  「さぁ?それは自分で考えればいいさ。」
  「なによそれ?…さぁ、最後の頑張りと行こうかな。ありがとね!
   それじゃ、明日学校で!」
  その艶やかに元気な彼女が過ぎ去った公園は再び寂しさだけが募っていた…

  「多分、お互い意味は違えど会いたかったからだと思うけどね……」





















  そして…一週間後…

  「何かの間違いじゃ…」
  「あら?なんなら先生に聞いてみてもいいわよ?」
  それは目を覆いたくなるばかりの事実で…
  「君が…三段階上中下の上?!」
  「そう。つまり上位。」
  成績の中と下を行ったりきたりしていたハルカが天変地異が起こる前触れのように
  上位を取ったのは事実。
  「どうしてこんな事が…」
  「だって今回頑張ったから…。」
  「それは分かるけど…何でそんなに頑張ったんだい?」
  「だって…約束…」
  「え?」
  「シュウが…上位取ったら弓道で勝負してくれるって言ったから。私とじゃ勝負の
   意味すら成り立たないって言って戦ってくれなかったから…それで頑張ったかも!」
  言った自分が忘れていた…そう言えばそんな約束した覚えがある。
  「わかったよ…でも、もうそんな約束しない…」
  「えー!!もう戦ってくれないの?」
  「いや…ただ…」







  もう、そんな変な約束をして

  君と会う機会が減るのは…

  ごめんだからね…。







                              END  



  作者より…
  お題を使う方向が微妙に違うってこれ。
  でも、学生カップルの壁ですよね(カップルでいいのか?)
  テスト中会う機会が減るのは。
  たぶんシュウのほうが耐えられない気がします。
  大変だね。鈍感な彼女を持つと(笑)
  メールとかよこさないだろうな…
  多分ハルカは集中さえすれば頭いいと思うんですが…
  その糧となったのがシュウとの勝負。
  よっぽどしたかったのね。
  ちなみに『宿題』というお題のシュウバージョン
  みたいなものです。あれはハルカバージョンでしたから。
  なにはともあれ、テストは半日に限りますね…

               2004.11 竹中 歩