好き嫌い…それは誰にでもあることだと思う。

  『嫌いな物は無い』そう言う人もいるけど

  大半の人は駄目なものがあって当然。


  …でも…

  気になる人の好き嫌いがわかったときって

  その人の喜ぶ物を作りたいと思うのは…なぜ?








  『好き嫌い』










  その日は暖かい日差しと涼やかな風がバランスよく温度を保ち
  なんとも言えない気持ちの良い日だった。
  ランチタイムを終え、少し早く友だちとの会話を打ち切り
  そろそろ色づく木の葉と同じ髪を持つ少女『ハルカ』は
  自分の机でうたた寝をしていた。…が…



  「ハールカ!!」
  「?!」

  声の大きさと自分の名前に驚き飛び起きるハルカ。その声は教室だけではなく、
  下手すればその教室のある階全域に到達するほど大きな声でエコーが
  かかっていた。
  「何事?」
  ハルカは机から立ち上がると廊下側の窓辺にその声の元を発見する。
  「ハルカ確か甘いもの好きだよね?」
  「うん…好きだけど?」
  「それじゃコレはおすそ分けね♪」
  そう言うとその声の主の女子はハルカにアルミホイルで包まれた
  林檎ほどの大きさの物体を渡す。
  「コレ何?」
  「シフォンケーキ。焼き立てだよ!」
  確かにアルミホイルを伝ってその物体の暖かさは自分の手でも感じられた。
  ハルカはそのアルミホイルをあける。すると中から暖かい湯気と共に
  甘い香りが広がる
  「どうしたの?これ?」
  「今日は家のクラス調理実習でさ、うちの班はシフォンケーキ作ったんだよ。
   でも予想より多くなっちゃって…それでこうやっておすそ分けに来たのよ」
  「そう言えば甘い香りがしてたような…もらっていいの?」
  「あげる、あげる。その為に来たんだもん」
  「嬉しいかも!」
  ハルカは少しシフォンケーキを頬張る。確かにパティシエが作ったような美しい
  味は無いが、家庭的な味。それは美味しいと言える代物だった
  「おいしい!いいよね。甘いものって!」
  「やっぱりハルカにあげて正解だよ。一番美味しそうに食べるもん。」
  「だって美味しいものは美味しいよ。甘いものは頭にも良いって言うしね」
  「…それに関しては君は論外だと思うけど?」
  慎ましい昼下がりを台無しにする台詞。こうやって話を嫌な方向へ持っていく
  人物をハルカは一人しか知らない。
  「そうやって直ぐに厭味いう…何でそんなこというの?『シュウ』」
  前髪を払ういつもの仕草で近寄ってきたのはハルカの隣の席で先ほどまで
  読書をしていた友人『シュウ』。ココまで厭味を言われて何故友人と呼べる
  存在なのかはハルカ自体もわかっていない
  「いや…君が誤った知識をもっていたからね。甘いものは確かに頭に良いけれど
   君の場合は役に立ったためしがなさそうだから…」
  「それはどういう意味よ?」
  「君が甘党なのは知っている…だけど他の人に比べればかなりの糖分を
   とっているのも関わらずそれが繁栄された『結果』と言うものがない。
   これ以上の意味があると思うかい?」
  「ア〜〜〜〜〜もう!」
  その二人の背景には青い炎と赤い炎が見えそうなくらいの戦いだったが、
  クラスの人間は誰も止めようとはしない。それが二人のとってあたり前の
  光景だし、誰が止めなくてもこのあと二人は何事もなかったかのように接する
  そんなこと多々クラスメイトは見ているため今の状況の二人に入っていく
  人間はいない。コレが二人の『友情関係』だからだ。
  しかし、今日はその二人止めようと果敢に挑む少女が一人、それはハルカに
  おすそ分けを持ってきた生徒だ
  「は、ハルカのクラスは明日だったっけ?調理実習?」
  「そうだよ。明日の5、6時間目」
  ハルカは感情の転換が早い。あっという間にマジ切れモードから笑顔へとかえる
  「何作るの?やっぱりお菓子でしょ?」
  「えーとね…本当は私たちもシフォンケーキと言う案が出てたんだけど
   なんかクッキーになっちゃった。」
  「シフォンケーキの方が楽なのに。泡立てに気を使ってれば直ぐにできるし。
   …まぁ、思った以上に膨らむけど…」
  「彼女の場合は泡立てすら出来ないだろうけどね…」
  「ほっといてよ!!」
  「まぁ、まぁ。二人とも。その辺にしようよ?ね?…シュウ君も食べる?」
  「いや…僕は遠慮するよ…気持ちだけもらっておく。」
  「シュウは甘いものあんまり食べないからね。飲み物もコーヒーとかだし。」
  ほんの数秒前まで言い争っていたのに、クラスメイト達が思ったとおり
  二人は普通に接している
  「シュウの班は何作るの?」
  「…ビタークッキー…」
  「またそんな苦そうなものを…」
  「…時間内で且、甘くない物をセレクトしらコレになってね…。僕の班は男子で
   ばかりでしかも甘いものは他の班が作るから自分達は甘くないものにしようと
   言う意見で。」
  「…つまりシュウの班の男子は他の班から甘いものをもらう事前提で
   考えたわけね。頭良いかも。」
  「まぁ、僕も甘いものが好きじゃないから結果的にはOKだけどね。」
  シュウはいつもの癖のように肩を竦める。そのときに5時間目開始のチャイムが流れ
  その場にいた3人以外も席へと着き始めた










  次の日……

  「き…奇跡だわ!」
  その声が発せられたのはハルカのいる5人グループからだった。
  「ハルカがいるのに…まともの食べ物になった…」
  「それは言い過ぎかも…」
  ハルカを除いたグループの五人は本当に驚いていた。ハルカの料理音痴は
  前回の調理実習で経験済み。ホットケーキや目玉焼きと言うポピュラーな
  ものなら作れる。
  だが、前回の調理実習…『味噌汁』の時は散々だった。豆腐をまな板の上で
  切ろうとするし、手の平で切ることことを教えてみれば手の平ごと切って
  あわや血だらけになるところだった。そして豆腐を入れたのが早すぎたため、
  豆腐は…膨らんでナベ全体を覆っていた。等ということから、メンバー達は
  楽なクッキーを選んだらしい。
  「型抜きクッキーにしたけど…ハルカ…味はいいとして何であんたのクマは『丸』に
   なるの?本当に型抜いた?」
  「ぬ、ぬいたわよ!でも、天板にのせるときに崩れちゃって…慌てて丸にしたのよ」
  「まぁ…本人しか食べないんだから良いわよね。…でも、シュウ君にあげるんでしょ?」
  「こんな形の悪いのあげたら…美しくないねとか言われるに決まってるわ」
  「ああ、それはありゆるわね。」
  「それに僕は甘いのが苦手だしね…」
  「そうそう……って!いきなり話しに入ってこないでよ!シュウ!」
  「今回はけが人が出ないようでよかった…前回みたいなことだったら、この
   グループ全員に心中お察しする所だったよ。」
  グループ全員は『またやってる…』と言う感じで二人から身を遠ざける。
  唯でさえ、オーブンを使って暑いのに、余計暑くなってしまう。こう言うときは
  関わらない方が身のためだ。








 
  「とは言ったものの…作りすぎよね…?」
  ハルカは部室で大きくため息を付いていた。一応作ったクッキーは友人にも配ろうと
  思ったのだが、調理実習が遅れてしまい、自分のクラスが帰りのHRを終える頃には
  友人は部活の真っ最中…つまり渡しそびれてしまったと言うわけである
  「しょうがない…もって帰ろう。」
  「後先考えないのは君の悪い癖だね…」
  「シュウ……」
  ハルカの隣にパイプ椅子を引っ張り出すとそれに腰をかける
  「考えてなかったわけじゃないわよ。しょうがないでしょ?計画通り行かない事だって
   あるんだから。」
  「君の口から『計画性』の話が出るとはね…」
  「またそう言う事を…ところでシュウの班のはどんなクッキーになったの?」
  「いるならあげるけど…?」
  シュウは鞄の中からクッキーの入った袋を取り出す
  「…やっぱりビタークッキーだけあって黒いのね。それに…男子が作ったのに
   『うさぎ』の形はどうかと…」
  「一人の男子がうさぎで抜いたからね…直すのも面倒だからこの形にしたんだ。」
  袋の封を開け、ハルカに数枚のクッキーを手渡す。ハルカはそれを無言で口に入れた
  「……あれ?そこまで苦くないんだ。」
  「どれだけ酷い苦さのものを想像していたんだ?君は?」
  「でも…コレなら食べられるかも…。シュウも食べる?うちの班のクッキー?」
  「行き場がないなら誰かが処理するしかないだろう?」
  「はいはい。それじゃ処理してください。」
  ハルカのクッキーは袋にはいっているのではなく、女子らしくレースぺーパーで包まれ
  赤いリボンで封がされていた。クッキーの形は丸に等しく、逆にこっちの方が男子が
  作ったように見える。 シュウもその中から一枚取るとハルカのように無言で口に運ぶ




  ……あれ?…




  「甘く…ない?」
  「でしょ?それね『ハニークッキー』なの。だから砂糖みたいなクドさは無いって」
  「何で蜂蜜なんか…」
  「砂糖持ってくるはずの子が…砂糖忘れちゃって…代用品で隣の班の子が
   ホットケーキにかける蜂蜜もってたから借りてそれ使ったの。シュウでも
   食べれるでしょ?」
  確かに。甘いのが苦手なシュウでもすんなりと食べられた。ハルカにしては
  上出来のできばえだ。
  「なるほどね…」
  「今度のバレンタインはこのクッキーにしようかな…?」
  「それはやめておいたほうがいい。」
  「えーなんで?」
  「この程度のものを義理としてあげるにはもらった男子が可哀想だ。」
  「分かったわよ…でもシュウはコレで良いわよね?」
  「え?」




  ハルカは笑顔でシュウ顔を見ながら…
  「だって、あげるからには喜ばれたいもの。だから喜ぶものを
   あげるのが当然でしょ?」
 




  何のけない彼女の言葉

  だけどそれが…

  僕は無性に嬉しかった……





                            END



  作者より…
  うわぁ…ハニークッキーより甘いよ
  何でバレンタイン何だ自分。
  学校物を書くと甘くなってしまうのは
  ご了承下さいませ(汗)

  シュウが甘いもの苦手なのは作者の趣味です
  本当はハニークッキーじゃなくて
  ハルカが作るのがシフォンケーキの予定でした
  そんでもってフォークで間接キスしたかった
  だけどそんな光景は中学で見たことないし、
  やっても高校だなと思って。
  いくら鈍感ハルカでもそれはしないだろうと
  いうことで却下。
  そしてお題のやり方間違えたかも。
  たぶんお題のやり方って恋愛感について好き嫌いで
  食べ物の事じゃないと思うんです。
  コレでも良いですか?


  お菓子のイメージ的に
  ハルカはイチゴのタルト
  シュウはガトーショコラかビターチョコ
  バレンタインとかシュウくたばってそうです。

            2004.11 竹中歩