その人の喜ぶ物を選ぶのって楽しいじゃない?

  だからそれを一日でも逃すと

  凄く…損した気分になる…

  だから…誕生日だけは…祝いたい…







  『君が生まれた日』








  「何で言ってくれなかったのよ?!」
  罵声にも似た大きな声は教室に響き渡るのにそう時間はかからなかった。
  声の発端はクラス一のトラブルメーカーと言っても過言では無い女子『ハルカ』
  外見から見ても分かるようにハルカは元気な少女だ。栗色の髪とコバルトブルーの
  瞳をもつ極一般的な女子。取り柄と言えば元気な事と同級生の女子が少々羨ましく
  思うほどのプロポーションだろう。まぁ、普通と言いつつも、きっと可愛いには
  属される顔立ち。そのハルカが言葉をぶつけているのは中等部の女子なら知らない
  人はいないというほどの美少年『シュウ』成績優秀・スポーツ万能オマケにクール
  と言う女子が放っておかないほどの人材。その人物がハルカの大声を一身に受けていた。
  「別に言うほどでもないだろう?それに、自分から言ってる方が
   恩着せがましくないかい?」
  その言葉を言われたハルカは少しショックを受けたようだった…
  「まさか、君は『今日は自分の誕生日』と言っていたタイプだったとか?」
  「そうよ!だって、自分が嬉しい時は人にどうしても言っちゃうの!」
  「周りの人間は迷惑だよね…」
  「うるさいわね!…て、そんな口げんかするために怒ってる訳じゃないわよ!
   なんで1週間前が『誕生日』だったって言ってくれなかったのよ?!」
  ハルカが怒っている原因は…『シュウの誕生日』どうも、ハルカはシュウが誕生日を
  教えてくれなかったせいで自分だけ祝い損ねたのが偉くご立腹らしい。
  「だって、聞いた事なかっただろう?君は?」
  「おかしいな…いつもなら絶対に聞いてるんだけど…シュウの誕生日は
   聞かなかったのよね…何でだろう?」
  「それに、教えた所で君は僕の誕生日を祝ってくれたのかい?」
  「当たり前でしょ!友達なんだから!」
  なぜか、ハルカの『友達なんだから』が強く強調されたように聞こえたのは
  気のせいだろうか?
  「でも…僕は君の誕生日に何もあげてないし、日にちも知らない。」
  「当たり前よ。だって、鳳炎に引っ越してきた時は誕生日過ぎてたんだもん。」
  「だったら、僕だけ祝われるのは理不尽だろう?」
  「まぁ…確かにそうだけど……」
  上手く言いくるめられてしまった自分が悔しい。確かに平等ではないが何かすっきりしない。
  「だったらさ…プレゼントの交換だけでもしない?」
  「お互い誕生日過ぎてるけど?」
  「だからよ。お互い過ぎてるし、お互いでプレゼントの交換をすれば理不尽じゃなし!」
  無茶苦茶なことを言う…シュウは少し頭を抱えるが…彼女の眩しいばかりの輝きを
  見過ごす事は出来なかった…
  「全く…そういう人並みはずれた発想力はどこから来るのやら…で、いつ交換するんだい?」
  「ありがとう!乗ってくれるのね!そう言う所大好きかも!」
  「……。」
  「あ……今のなし!!今のなし!!間違えた!!」
  言葉の流れで出てきた『大好き』にお互いが赤面する。こう言う所はやはり学生らしいと思える
  「とりあえず…一週間後でどうかな?」
  「…OK。」
  そうして二人の全く関係ない日行う誕生日のプレゼント探しが始る……












  「とは言ったものの…シュウが欲しがる物とか知らないかも…」
  放課後…早速プレゼント用の物を探し始めたハルカは最初から行き詰まっていた。
  確かにシュウが何を欲しいなんて聞いた事もない。シュウの友人に聞いても
  きっと同じ意見だろう。
  「普通の男子とかだったら笑いを取るものとか送ればいいから楽だけど…
   シュウだとそうは行かないもんね…やっぱり…『綺麗』な物かな…」












  「まぁ…決まってるからいいんだけどね……」
  こちらは全く悩む様子がないシュウどうやらあげる物は既に決まっているらしい。
  「ただ…時期とそれを売ってる場所が問題だけど……」
  ある意味違う悩みがあるようだ…


















  そうこうしているうちに…一週間……


















  「はい!これが私からのプレゼント!」
  先に差し出したのはハルカ。そのプレゼントには相当の自信があるようだ。
  「生きて帰って来れますように…」
  「失礼ね!そんな危険な物はいってないわよ!とりあえず開けてみて!」
  ハルカの差し出したプレゼントはそこまで大きくなく葉書程度の大きさの紙袋に入っていた
  しかし…少々重い。とりあえず中を開けてみるとそこから出てきたのは…
  「…プレート?」
  銀色に輝く一枚のプレートが出てきた。大きさは10pものさし程度の大きさ。
  「…栞?」
  「そう。メタルプレートの栞。だけどそれだけじゃないわよ?その何もないほう裏だもん。
   表を見てみて。」
  そういわれてひっくり返すとなにやら文字と絵が書いてある。
  「名前と…薔薇?」
  「正解!だって、シュウ本が好きだし…それにこの前本にはさんだまま返しちゃって
   名前かいてないから行方不明になったって言ってたでしょ?だから名前入れてもらったの。」
  「でも…何で薔薇を…」
  「なんか…シュウって薔薇ってイメージなのよね…。それに薔薇って綺麗だしシュウの
   感性にもあうかなって…もしかして普通のプレートの方がよかった?」
  「いや…確かにこれだったらなくさないね。なくしたときの君の反応が怖いし。」
  「何でこう言うときにも厭味が出てくるかな……」
  「まぁ、そう言う愚痴は置いておいて次は僕のを開けて貰うかな。」
  「あ!ごめん。」
  シュウがハルカに手渡したのは学校に持ってくるには少し大きいようなサイズの箱。
  両手で持たないと少し大きい程度。
  「びっくり箱とかじゃないでしょうね?」
  「そんな幼稚な真似を僕がすると思うかい?」
  「まぁ、シュウはそんな真似しないでしょうね。」
  箱の包みをゆっくりと開き中に入っているものをまじまじと見る。
  「……花?よね。」
  中には可愛らしい赤い花が束になって小さな植木蜂のようなものに植わっていた。
  「花以外の代物に君は見えるのかい?」
  「違うわよ!だって、花だったら箱なんかに入れないでしょ?」
  「まぁ普通はそうだけどね…その花は君の様に『普通』じゃ無いから。」
  「私は兎も角として…普通じゃない?」
  ハルカは箱から花を取り出すと少々の違和感を抱く。
  「花にしては瑞々しさが無いし…ドライフラワーにしてはボロボロにならないし…何これ?」
  「フリーズフラワー…」
  「凍った…花?」
  「この頃漸く市場に出回りだした特別な花。半永久的に枯れる事は無いし、
   ドライフラワーのように散り散りになることは無い。つまり、君の様な人でも、
   花の美しさに半永久的に触れられるという事だよ…て、聞いてないようだね。」
  シュウが力説しているにも拘らずハルカはそのフリ−ズフラワーに見入っていた。
  「よく手に入れられたわね。こんな物…高かったでしょ?」
  「知り合いにこれに携わってる人がいてね…特別に譲ってもらったんだ。君こそ
   よくメタルプレートに文字を入れてくれる店なんて見つけたね。」
  「あはは。実は前の学校の近所にあったの思い出してね。まさか帰るわけにも行かないから
   友達に頼んで作りに行ってもらったのを送ってもらったの。」
  「…そこまでして?」
  「なんか変かな?」
  それがあたり前のことのように首を傾げてみせる。
  「いや…とりあえず、ありがとう。」
  「私もありがとう。私の部屋サボテンくらいしかなかったから…それにこれ…
   薔薇の一種でしょ?」
  「よく分かったね。」
  「薔薇くらいは分かるよ。でも面白いわよね。お互いして選ぶ物は別々だけど…
   結局『薔薇』て言う共通の物に手が伸びてるんだもん。」
  「だって…それは…」





  ハルカはシュウの喜ぶ物で薔薇の栞を選んだようだが…
  シュウにはちゃんとして理由があった…









  


  数ヶ月前の二人の会話…

  「一回でいいけど…薔薇の花束なんて貰ってみたいよね…でも花束は流石に
   恥ずかしいから…植木鉢くらいで…」
  「確かに君に花束を贈るような相手はいないだろうね。」
  「でも、いつかは出てくるかもしれないじゃない?」
  「いつか…ね…」
  「なによ!その言い方!」
  「いや…植木鉢くらいなら出てくるかもしれないけどね…」
  「所詮私は植木鉢程度ですよーっだ!!」












  「君の事だから…忘れられる筈無いしね…」
  「え?…」




                        END





  作者より…

  君の生まれた日=誕生日と言う事で考えたネタです。
  ハルカの誕生日もシュウの誕生日も分からないので
  あえて、どうでもいい日に…。
  某漫画になぞらえて『真ん中バースデー』とかも
  よかったんですがね…。
  ハルカのことだから先に誕生日は聞くと思うんですが、
  逆に傍にいすぎた相手だからこそ聞きそびれたのでは
  無いかと。それと『薔薇』。
  学園物で一回は出しておきたかった。本当は薔薇の花束
  と考えたんですが、それはプロポーズでしょうが!
  と自分に突っ込んでしまいました(笑)
  だから植木鉢。フリーズフラワーで名前あってたかな?
  前にテレビで見て凄いと思った花です。
  いつかは見てみたい物だ…。

              2004.11 竹中歩