女の感とも違う…

  気まぐれとも違う…

  言いにくくて…その上分からない

  理由なんて…





  『第一印象』










  少し肌寒くなったある日…ハルカは部室で遅めの昼食をとっていた。
  ハルカ…この鳳炎学園に転入してきて数ヶ月の少女。
  明るい茶色の髪と大きなブルーの瞳が特徴的な元気な少女だ。
  スポーツは万能だが、勉強が苦手。しかし学校は大好きと言う
  一風代わった少女でもあり、普通の少女である。それがハルカ。






  「弓道部に入った理由ですか?」
  お弁当から卵焼きを一つ頬張ると隣で一緒に食事をとっていた
  先輩から質問される。
  「うん。前から聞こうと思ってたんだよね。…うちの学校って凄く大きいじゃない?
   人数が多ければもちろん部活数も多いわけよ。普通の学校とかは
   部活勧誘期間って言うのかな?新入生が部活を選ぶ時期。あれは一週間とか
   一ヶ月とからしいんだけど、うちの学校は特にないんだ。まぁ、エスカレーター式で
   どの部活も高校だろうが中学だろうが小学生だろうが一緒だからって言う理由も
   あるんだけど、何より部活数多くて全部回りきれないわけよ。だから、あえて期間も
   ないの。だから他校からこの中学に入った子とかは大変みたい。決めるだけも
   2ヶ月かかるって言ってたから…なのにハルカちゃん転入初日でこの部活に決めたでしょ?
   前に弓道やってたわけでもないし…どうしてかなーと思って。」
  「うーん…理由…ですか…」
  フォークをくわえたまま必死の形相で考え込んでいる。こう言うところが単純で
  可愛いと思う一面だろう。








  「(理由なんてものあったっけ……?)」




















  数ヶ月前…鳳炎学園にて…

  「…この学校広すぎ…」
  桜が散り終わり、葉桜になるころハルカは広い鳳炎学園の中で一人…佇んでいた。
  「全く…普通転入前日って親と来るものなんじゃないの?」
  明日から通うこの学校にハルカは制服、教科書そしてこの学校のあらかたの
  システムを聞きに来ていた。親はハルカを信頼しているようで一緒には来ていない。
  「えーと…どこから私来たんだっけ?」
  自分の入ってきた正門を探すが広い校内…タダでさえなら慣れていない景色、
  見つけるのは当然のごとく難易だ。しかも、方向音痴のハルカならなお更の事である。
  「しょうがない、学校見学もかねて探すとしましょうか!」
  前向きな所がハルカの長所。その場を暗く考えず楽しく考えるのがポリシーらしい。
  しかし…行く先々の人の視線が痛い。
  当たり前だ。見たこともないような制服の女子が学校内にいればその場だけ
  浮いて見える。この学校の制服は今自分が着ている前の学校のものより明らかに
  地味だ。しかも自分の着ている制服の基調の色は『赤』。となれば尚の事目立つ
  「早いところ退散した方がいいのかな…?」
  その時、自分とあまり年の変わらない女子が楽しそうに喋りながら目の前を
  通り過ぎていく。人数は5,6人程度。
  「やっぱり、こんな日は見に行くに限るよね!」
  「目の保養だよね〜♪雑誌に投稿しちゃおうかな?」
  「止めときなよ。怒られちゃうよ」
  何の会話だがさっぱり分からない。だが、好奇心旺盛なハルカの心を揺さぶるには
  十分すぎるほどの話題だ。少女達と少し距離を置くとその少女達を追いかけてみる事に
  した。


  …が…自分が甘かった…


  「学校内もロクに分からない私じゃ追いかける事さえ難しいかも…」
  物の数分で少女達を見失ってしまった自分が悔しい。曲がり角を少女達が曲がり
  そのあとを追いついていった時には既にその姿はなく、典型的な形で尾行を
  強制終了させられてしまった。
  「もう!本当に今日はろくな事ない…な…って…うん?」
  ヒラリヒラリとまるで蝶の様な動きをしたものが自分の視界で上から下へと動く。
  「何で…こんな時期に『桜』が…?」
  それは紛れもなく薄いピンク色をした春の象徴、桜の花弁だった。
  どこから来ているのかとまたもや興味でその方向へと足を伸ばす
  「…うわぁ…凄いかも…」
  自分が生きて生きて十数年間の中で一番凄いと思ったほどの桜。雄雄しく聳え立つ
  その姿に思わず見とれてしまう。
  「すごいなぁ…この学校…前の学校とは違う…」
  楽しければそれでいいと思っていた学校生活。もちろん前の学校に不満が
  あったわけでもない。前の学校も楽しかったし、この学校でもそうしていきたいと
  思っている。だけど…前の学校では出来なかった事もやりたいと思っているのも事実だ。
  そんなことを考えているうちに気が付けば桜から離れ少し違う場所に来ていた。
  「あれ…また違う所出ちゃった…」
  人から方向音痴と呼ばれる原因にこう言う行動も入っているのだろう。
  自分に少しあきれていたとき聞いた事もない音が耳に届く
  



  『ストンッ』




  「何の音?」
  鈍いようで透き通っているような音。心成しか達成感にも似た気持ちがこみ上げる
  その音は一回ではなく、何度か連続的に聞こえるようだ。
  「気になる…!」
  好奇心に火が付いたハルカは誰に求められない。最初は駆け足、そして何時の間にか
  全力疾走にも劣らない速さでその音を求めていた。そのうちその音の元凶の側で
  自分が探していた少女達を発見する事となる
  「あの子達ここにいたんだ…」
  その場所についたとき、まるで自分は平安時代にでも巻き込まれたのではないかと
  思うくらい、見たこともない風景が広がった。
  「弓…道…?」
  それはテレビでしか見たことのない日本古来よりの競技。定められた的に矢をいると言う
  シンプルに見えて難しい競技だ。前の学校には存在していなかった場所だけに
  その場所はハルカに大きな衝撃を与える。
  「すご…」




  静かな場所…

  矢を射るいでたちの生徒…

  そして真剣な眼差し…



  フェンス越しでしか見る事の出来ない風景にハルカは釘付けとなる。そして、
  漸く自分の意識がこちらに戻った時女子の声が耳に入る
  「やっぱり格好良いよね!『シュウ君』!」
  「本当…知らない子殆どいないもんね」
  その少女達の声は次に順番待ちをしていた男子に向けられている
  「うわ…凄い美少年かも…」
  何気なく視界に入れた自分と同じ歳くらいの少年。それは先ほど見た桜と
  同じくらい…









  綺麗だと思った…










  「あんな美少年本当にいるんだ…」
  宝石かと思うくらいの綺麗な緑色の髪に同じ色で少し切れ長の瞳。
  クールで『冷静沈着』とか『容姿端麗』と言う言葉が似合いそう。
  しかし、そんな美少年でも弓道に見とれているハルカにとってはあまり関係のない事。
  心の片隅に少し残る位。そんな時今までにない違和感に気付く
  「何で髪が下がって…?!もしかして?!」
  髪を止めていたピンがない事に今気付く自分がいた。どこで?いつ?
  「やばい!探さなくちゃ!」
  自分が今まで辿ってきた道筋を戻るべく走り始めた自分がいた。














  「でも、私どうやってここまで来たんだろう?」
  時間と自分の感に任せた道順なんて覚えている筈がない。覚えている場所とすれば…
  「やっぱり…ここよね…」
  自分が一番感動した場所…季節外れの桜が咲いている場所だ。そこにかがんで
  自分の落とした髪留めを探し始める
  「あれ…転校する前日に貰って…一週間でなくしちゃう馬鹿がどこにいるのよ…」
  友人が転校する前日にくれた星がついたピン。前髪が直ぐ伸びる自分のことを
  気遣ってくれた品だ。
  「何処で落としたのかな…」
  「…あの……」
  「え?」
  「…お探し物はこれかい?」
  不恰好で探す自分の後ろに何時の間にか少年は存在していた










  ピンク色の花弁とは正反対だが…

  そこにいては不思議はなく…

  逆に綺麗だとも思える…

  その存在が…









  「(何でここにいるの?!)」 
  一瞬焦ったハルカだが、その少年の手に握られていたのは間違い無く自分の
  探していたものだった。
  「…ありがとう!!これ、探してたの!本当にありがとう!」 
  「いや…お礼を言われるほどのことでもない…それより君は?」
  「あ、明日からこの学校に来るの!転入生て奴かな?手続きだけに
   今日は来たの。でもね…この時期に桜の花弁が飛んできて…何処にあるのかと思って
   コッチに来たら、今度は今までに聴いたことのない音が耳に入って…
   あれって、弓道で矢が的を獲る音だったんだね。」
  初めて話す男子。その声は聞きやすく少し他の男子により高めで…何となく
  女子が騒ぐのが分かった気がする
  「それじゃ…僕はこれで…」
  少年はそれだけ済ますと自分の前から姿を消していった…
  「あ!ちょっと!!」
  取り残される自分
  「何なの…あの男子は…ていうか、私名前すら名乗ってない!」
  別に名乗らなくても良いのに…何故かその男子に自分の名前を覚えてもらいたいという
  少しの気持ちが浮かぶ。





  全力疾走で元の的場に戻った時、既に先ほどの少女達の姿はなく、きっといつもの
  光景だと思われる練習風景が広がっていた。
  ハルカは先ほどの男子に向かって大声で叫ぶ
  「ちょっとー!!あのねー!!私ハルカ!!」
  叫んでいるのも関わらず先ほどの男子はコチラを見向きもしない
  「聞こえないのかな…あ、きっと気を散らしちゃいけないんだ…」
  そう思ったハルカはその少年の名前を思い出し
  「じゃ、頑張ってね!……シュウ」
  それだけを残しその場から過ぎ去った
  「あ、呼び捨てしちゃったよ…まぁいいか…」
  何故かその男子は自分の中で少しだけど違う位置についた…何故だか分からないけど…












  次の日…   
  「それじゃ、貴方の席はそこね。」
  学園内の無数にある教室のひとつでハルカの新しい生活を始ろうとしていた。
  「…桜…?」
  自分の机の上に数枚の桜の花弁が鎮座している。
  「また会ったね…」
  「え?…」
  ハルカの目の前には昨日あったばかりでまだ名前しか知らない『シュウ』が
  自分の横の席から声をかけている
  「シュウ…?」
  「名前を言った覚えはないのに…よく知ってたね。」
  「あの時一緒にいた女子が名前呼んでたから…」
  二人は顔を見合わせて少し笑うと
  「宜しくね。シュウ」
  「コチラこそ…ハルカ君。」
  初めての君付けにドキッとしてまた焦ったけど…それも悪くないなって…
  そして、その時漸く自分の決意が固まる
  「『君付け』か…初めてかも。あ、それとね…私弓道部に入る!」
  「へぇ…それは…楽しみだね」








  自分にない世界を切り開くきっかけは…

  聞いた事のない弓道の音…

  それと…緑色の髪の少年…













  「(思えばあの時なのかもしれない…)」
  「ハルカちゃん?」
  先輩に言われて自分の置かれている立場を思い出す
  「で?何でこの部にしたの?やっぱりシュウ君がいるから?」
  同じ場所では10名ほどの部員が食事をしていた。もちろんそのかにシュウもいる
  二人の仲は恋人ではないのが不思議なくらいで…恋人なのかと聞くと激しく
  否定する二人がおかしくて部員はよくこうやってからかうのだ
  「まさか…彼女にそんな気があるとは思えません…」
  いつものようにシュウも否定文で返したのだが…
  「そうだと思います」
  「?!」
  この発言には周りだけではなく、シュウも面を食らってお茶を少し吹きかけたほど。
  「え?……マジで?」
  からかった先輩が体勢を立てながら再び質問する
  「…だってシュウがいなかったらきっと…弓道にも入ってなかったと思う…
   だからシュウのおかげなんです。」
  「よかったねシュウ君!」
  「あ、恋愛とかの意味じゃないですよ!!言っときますけど!誰がこんな奴!」
  「僕も願い下げだから安心していいよ。」
  「なんですって!」
  「美しくないね…相変わらず…」















  桜に抱いた第一印象

  弓道に抱いた第一印象

  シュウに抱いた第一印象


  すべて…私の中で同じだった




  綺麗だと……



                             END



  作者より…
  何ていう分かりにくい文章なのでしょう…
  書きたい事を全部つぎ込んだ筈なんですけど…
  これはハルカが100にも及ぶ部活数の中から
  どうして弓道になったかという理由です
  上手くかけなかったのですが、取り合えず
  直感でシュウがいたからという安直な理由
  『この人と一緒にいたい』じゃなくて
  『こいつを倒したい!』という感情だと(笑)
  恋愛よりライバルシンが先に目覚める家の
  ハルカです。
  この話は私の物語『出会い』とリンクしてます
  だから文章かぶってるところも屡。
  暇な人は見てやってください。

               2004.11 竹中歩