勘違いにも程がある!!



 今日は珍しく放課後に学校にいます。
 本来なら帰っている時間ですが、学級委員長会に所属する友人二人の頼みで、中等部の一年生二人と一緒にコピーのお手伝いです。
先輩、本当、すみません!」
「いや、彦四郎君が謝る事ないよ。私一応見学くらいしか出来ないしね」
「そんなことありません! 先輩の差し入れ、美味しかったです!」
「ありがとうね、リンゴとサツマイモの甘煮をそこまで喜んでもらえて何よりだよ、庄左ヱ門君」
 この二人に三郎君がから揚げを食べさせてからというもの、この二人までが私を捕まえるようになってきた。
 すげぇよ、母。あなたの料理。
 もう何人の男子生徒釣り上げてるか分かりません。
 てなことを思ってるうちにコピー終了。
「ん。ちゃんと両面出来てるね。問題ない」
「それじゃ、僕らはこのコピーを尾浜先輩たちに届けてきます!」
先輩はどうしますか?」
 彦四郎君の言葉で時計を見る。四時。帰るには少し早いか。
 でも、私に出来る手伝いはこれ以上ないだろう。
「じゃ、私は用を済ませてカバンを取りに行って帰ろうかな。お疲れ様二人とも」
「「お疲れ様です!」」
 どうしてあんなに一年生は可愛いんだろうか?
 あの二人だけが可愛いのか?
「んー、調べようにも知り合いいないもんなー……」

「しんべヱ! こっちだよ!」
「待ってよー! 喜三太ぁー!」

 ぷ……。
 ぷにぷにした何かが、こちらへ来ます。
 あれ、捕獲しちゃっていいですか?
「あれぇ? 庄左ヱ門いないよー?」
「本当だねーどこ行ったんだろう? 喜三太分かる?」
「全然わかんないー!」
 ああああああ!
 理性が吹っ飛ぶ。
 頭撫でたい!
 なんだこの二人は!?
「あの、先輩は二人がどこ行ったか知ってますか?」
「へ、私ですかね!?」
「はい、僕らの学年じゃ見たことないですから、先輩ですよね?」
「ん? あ、そうだね。二人は中等部かな?」
「はい! 中等部一年三組『山村喜三太』と」
「同じく『福富しんべヱ』です!!」
「そうか。三組ということは庄左ヱ門君と同じクラスだね」
「庄左ヱ門を知ってるんですか!?」
「彼ならさっき、学級委員会に行ったよ」
「ありゃ、行き違いだねしんべヱ」
「行き違いだね」
 一年生と分かったら、余計に触りたくなった。
 特に二人のほっぺた。絶対にやわらかい!
「あ、ところで先輩はどなたですか?」
「あ、私はです。見えないかもしれないけど、高校二年だよ」
「うわー! 小さくて可愛い先輩ですね!」
「うん可愛い!」
 あんたたちのほうが可愛いよ!!
 あー、弟に欲しい!
「良かったら、学級委員会に連れて行こうか? 私もカバン取りに行かなくちゃ行けないし」
「「是非お願いします!」」
 手を上げて喜ぶ二人。あぁ、もっと高いとこから見下げられたどれだけ可愛いだろうか。
 身長の低い自分が恨めしい。

「見つけたぞ! 喜三太、しんべヱ!」

 目の前が行き成り真っ暗になる。
 何かが立ちふさがってるのだ。
「まったく。自分のクラスの学級委員を探しに行くといって、いつまで経っても戻ってはこないし、いったい何の為に探したんだ?」
 え?
 え?
 あのまことに申し訳ないですが、私……担がれてませんかぁぁぁ!?
 えーと、よく考えろ。
 声的に男子生徒だ。一瞬顔は見たが、先生じゃない。
 そんでもって、その男子生徒の左肩に担がれ、右手では喜三太君を釣り上げている。
 この方、どなたですか?
「喜三太、言って見ろ?」
「土井先生に頼まれたんです。土井先生が探してたって言う為に」
「なんだ、そう言う事か。いいか? 今度からはちゃんと理由も言って行け。心配するだろう?」
 この人、生徒二人持ったまま歩いてるよ。
 印刷室出て、思い切り廊下です。
 しかも私、スカートです。
 その様なお見苦しいものは、人様に見せたくありません。
 どうか、人が通りませんように。
 てか、抗議しよう! うん、そうしよう!
「すみません『食満留三郎』先輩!」
 喜三太君の声からするに、この方は食満さんというのか。
 て言うか、なんで担がれてるんでしょうか?
「しんべヱも心配するだろう? それにしてもお前軽くなったな。肉付きは変わらんが……」
 それってもしかして私のことですか?
 私ですよね?
 さすがにしんべヱ君ほどは太ってないですよ?
 しかも肉付きって、肉って……。
「あの……食満先輩。僕ならここにいますよ?」
「!? しんべヱ!? なぜお前が俺の後ろに!? という事は…… これは……」
 その時、私の目に友人が映った。

「尾浜君ー!! 助けてぇぇぇ!!(泣)」

 それはどこまでも広い廊下に響き渡っておりました。



 ここは会議室。通称学級委員室である。
「本当に、本当に、スマン!」
 その部屋の入り口で、私の目の前にいる男性は土下座をし、必死に謝っている。
 私はと言うと、正直困ってます。
、どうする?」
「どうするといわれましてもね、三郎君よ」
 すべてはこの方の勘違い。
 彼は普通にしんべヱ君を抱えたと思っていたらしい。
 まぁ、身長も似てるし、お世辞でもスタイルが良いとは言えませんがね。
 少しばかり傷ついたが、しょうがないことだ。
「えーと、その食満先輩でしたっけ? 顔を上げてください」
「い、良いのか!?」
「良いのかも、何もそこまで怒ってないですよ」
「本当にすまなかった!」
 ようやく顔を上げた、先輩。
 あ、この人もいわゆる美形さんとやらかな?
 正直確信はもてないが、友人がいたら言いそうな顔だ。
「でも、尾浜君も手加減ないよね? 食満先輩の背中、すごい足跡ついてるよ」
「だって、さんが必死に助け求めてるから、顔なんか確認できなかったんだよ」
「まぁ、それ至っては私のミスだ。食満先輩、すいません」
「お、お前は悪くないぞ!? 全部は俺が悪いのだから」
 偉く律儀な先輩だな。
 もう怒ってないっていうのに。
「えーと、大変申し訳ありませんが、食満先輩はしんべヱ君たちの……」
「「僕ら、整備委員会の委員長でーす!」」
 パンパカパッパパーン。
 そんなファンファーレだか、フィナーレが聞こえてきそうな感じだった、
 違う! 私が欲しかったのは、部活の先輩とか、幼馴染のお兄ちゃんとかで、
 けっして、共通委員会の整備委員という言葉が欲しかったわけじゃないのよ!!
「と言う訳で、その整備委員の面子を探してたってわけだ。にしても、本当に小さい二年だな」
「これ以上は伸びなかったんですよ。申し訳ないです。そんでもって、肉付き良くてすいません。食べるの大好きなんです……」
「い、いや俺はそんなつもりで……」
「あーぁ、食満先輩が泣かせた」
 三郎君が笑いながらこちらを見ている。泣いては似ないよ、ただ打ちひしがれているだけさ。
「先輩は太っても、しょうがないですよ! あれだけ美味しいもの食べてればそうなります!」
「庄左ヱ門、美味しいものって何ー?」
 しんべヱ君とやらが涎をたらしながら、庄左ヱ門君に近づいている。
 体格から見て、食べるの好きなんだろうな。
「えーと、良かったら食べるかい? まだあるから」
 私はカバンの中から、予備に持ってきていたリンゴとサツマイモの甘煮を取り出す。
「これ、先輩が作ったんですか?」
「うーん、全部が全部じゃないけどね」
「でも、美味しかったですよ! 先輩!」
「ありがとうね、彦四郎君」
 一応レシピ通りには作ったのだが、やはり最後には母を頼った。
 なぜ、ここまで料理がうまい、うちの母。
「食満先輩と喜三太君もどうぞ」
 カバンの中に既に常備された爪楊枝を三つ、芋やリンゴにさして渡す。
「「「いただきます」」」
 味は大丈夫だと思うんだけど、好き嫌い分かれるからなー。
 あんまし自信ないですよ。
「お、美味しい! 美味しいです! 先輩!」
 しんべヱ君がにんまりと笑う。あぁ、何でかこの子に美味しいといわれると、本当に美味しいんだろうなと思えてきて、嬉しくなる。
 うう、やはり一年生は可愛い!!
「本当、美味しいですよ。先輩! ナメさんたちにも食べさせてあげたいなー!」
「な、なめ?」
「喜三太にはなめくじの友達がいるんですよ」
「へー……珍しい友達がいるんだね。喜三太君は」
 庄左ヱ門君の言葉に頷いた。
 だって、あのなめくじが言うこと聞くって普通にすごいよね?
 だから、感心した。
「今度先輩にも会わせてあげますよー!」
「あ、適度でお願いするね!」
 ちょっと作り笑いした自分がいました。うん、なめくじはあまり触りたくないです。
「確かに、これは美味い。お前が作ったのか? えーと……」
です。あんまり自信なかったんですけどね」
「学級委員会は良い人材を手に入れたな」
 ……まだ入ってません。てか、入る気ないです。友人の手伝いです。
 でも、下手にこの事言うと、勧誘されてしまう可能性が。
 いや、この方のならそこまで仲良くないから、大丈夫か。
「あはは、今日見学にとりあえず来たんですよ! 私は一応更衣室委員会なので」
「何!? という事はお前BかCか?」
 あ、胸のサイズじゃないよね? クラスだよね。クラス。
「Cクラスです」
「そうか! なら、まんま、俺の後輩だな!」
「おや、食満先輩もCでしたか」
「あぁ。それを聞いたらお前と仲良くやっていける気がしてきた。良かったら整備の見学にも来い。うちの委員会は俺の直ぐ下が中等部だから人手が足りなくてな」
 え? そんな可愛らしい人材ばかりなんですか?
 私、かなり気になっちゃったんですが?
「食満先輩、学級委員会も人手不足なんで勧誘やめてください。俺らもさんの料理好きなんですから」
 正確にはさんの(お母さんの)料理だろう。
 尾浜君、日本語抜けてる。
「「僕らだって、先輩と一緒に仕事したいです!」」
 おお、スマンが五年の美形より、純真無垢な一年生の言葉のほうが嬉しかったよ。庄左ヱ門君、彦四郎君。
 あぁ、今にでも頭撫でたい!
「それなら、僕たちだって先輩と仕事したいですー! なめくじさんのこと聞いて嫌がらない女の人、この学校で初めてなんですー!」
「僕もー! 先輩の料理美味しかったぁー!」
 先輩の(お母さんの)料理美味しかっただよ、しんべヱ君。
 あれ? さっきから自分じゃなくて、母親の料理に釣られている人たちを見たら泣けてきたわ。
 まぁ、しょうがない。私自体にこれといってとりえ、ないし。
、気が向いた来いよ。大体グラウンド外れの倉庫の傍にいるから」
「気が向いたら行かせていただきますー!」
 私は更衣室委員だっての!
 こうして、整備委員会との出会いが終わった。
 もう、料理を持って来れば来るほど、共通委員に引き込まれている気がする。
 私の青春を返せー!






作者より
漸く上級生登場。これからちみちみ増やしていきます。
取りあえず、全部の委員会を出すのを目標に。
2010.6 竹中歩