「はぁ!? あの五人に目、つけられたの!?」 「イエス、アイアム」 呆れたと言って、友人は頭を抱えた。むしろ頭を抱えたいのは私のほうです。 勝って兜の緒を締めよ! あの二回目の再開ことを友人に話した。 その結果がこれです。むちゃくちゃ『馬鹿』だねと言われております。 なぜ、あそこで力強く断っていなかったのかと自分でも思っています。 そうすれば、今もこんな風に悩むことはなかったのに。 あぁ、流されやすい自分の馬鹿。 おかげで気を抜くと、どこからか勧誘の声が聞こえてきます。 「せっかくが美形と仲良くなっても、共通委員のお誘いつきのオプションは頂けないわ」 「ん? みんな美形なのか?」 「気づいてなかったんかい!?」 「すまん、興味なかった。そうか、皆顔が良いのか」 あれから何回か一緒にご飯を食べてはいるが、そんな風なことを一度も意識したことがなかったので驚きだ。 「だって、共通委員てさ、辛いけど美形の宝庫って言われてるらしいよ?」 「それはなんとも世の中のお嬢さんたちに優しくない組み合わせだね。好きな人を追って委員会に入るのも躊躇うだろうに」 「それでも入ることはいるよ? まぁ、大抵は根を上げて辞めちゃうけど」 「だろうね。虫の回収とか、毎日サッカー大会とか嫌気がさすよね」 流石に恋する乙女でも、委員会の辛さには適わなかったか。 「女子だけじゃなく、男子も辞めていくらしいよ?」 なるほど。だからあの五人がはあそこまで必死になのか。人数が少ないのは辛いだろうに。 私は人事のように、その話を聞いていた。 「ほら、噂をすればなんとやらよ。今日は誰?」 「……竹谷君」 「飼育委員のお誘いか。虫と爬虫類には気をつけなさいよ?」 「はーい……」 そう返事をした後、私は竹谷君に首根っこを捕まれ、食堂まで連れて行かれた。 「! 是非飼育に」 「入りません。更衣室だけで手一杯です」 黙々と今日のお弁当を口に運ぶ自分。 いつから私はこの面子とご飯を食べるようになったのだろうか? いやさ、さすがに毎日ではないが、週に二度はここにきているような気はする。 「相変わらず、ちゃんはガードが固いね」 雷蔵君は苦笑しながらこちらを見ていた。 「放課後をエンジョイするために更衣室委員に入ったのに、共通委員に入ったら意味ないじゃないか」 「共通委員もそれなりに楽しいぞ。なんかくれ」 「仕事内容聞けば聞くほど嫌になるよ。イカリングあげる」 弁当の中から爪楊枝の刺さったイカリングを手に取り、三郎君に渡す。ある意味習慣になってしまったこのやり取り。おかげで私の弁当には毎日、爪楊枝の刺さった何かが入っている。 「まぁ、どこもきついと言えばきついけど、うちは楽だよ? 管理委員」 「だから、管理委員てなに? この学校の七不思議らしいよ。何やってるかわからないって」 実態の分からない管理委員。久々知君はその委員会の所属らしい。 「んー、基本的に学校の備品を生徒が持ち出すときにチェックをする委員会かな? 体育委員とか、整備委員以外の管轄のもの」 「例えば?」 「…………校旗、とか?」 「ごめん、聞いた私が悪かった。中身、薄いんだね」 そうだよ、どうせ俺も委員会も地味だよといって、久々知君は突っ伏す。 別に久々知君を地味だとは思わないよ。そのまつげ、見たら忘れられないよ。 「まぁ、泣くなよ久々知君。高野豆腐あげるから」 それを聞いて、すぐに顔を上げて、私から高野豆腐の入ったアルミカップを受け取る。 本当に豆腐好きだ、この人。 「じゃぁ、図書委員は? 基本的に楽だよー?」 「移動の度に台を持ち歩くのは疲れるよ、雷蔵君」 「くっ! 身長を盾にとったね?」 「しょうがないさ、本当のことだもの」 図書委員は基本的に本の管理。放課後の図書室の貸し借りや、傷んだ本の修正。整頓などが主な仕事だが、私の身長では本の整頓に支障が出るだろう。だって、一番上はおろか、一番上から二段目にすら手が届かないのだから。 「じゃぁ、学級委員会はどうだ? 俺と三郎が二人いればそんなに怖くないでしょ?」 「残念ながら、既にうちのクラスは他の子が委員長をしているのだよ、尾浜君」 「大丈夫、それなら先生に俺が取り計らってあげるからさ」 缶に入ったウーロン茶を飲みながら笑う尾浜君。実は彼が一番抜け目無いんじゃないでしょうか? 「無理なものは無理です! てか、他の人誘ってください。実際私、何も出来ないですよ?」 言ってて悲しくなるが、これは事実だ。私はどの委員会に所属しても力になれないだろう。 料理くらいなら、他の人より多少知識はあるものの、それが役立つ委員会があるとは思えない。だから、入ったとしても、足を引っ張るだけだ。 「て言うか、どの委員会も花が欲しいんだよ。共通委員、基本的に体力使うから女子いないし」 イカリングを食べ終わり、メンチカツサンドを食べ始める三郎君の言葉に目を丸くする。 「女子っていなかったの? てか、女子の知り合い位いるだろうに。友人から聞いたが、皆さん美形のようなので、頼めば入ってくれるんじゃないの?」 そう言うと、なぜか皆は落胆した。 「その方法だと、仕事になんねーんだよ、」 竹谷君の言葉に首をかしげる。 「と、言いますと?」 「ようはね、なんか……恋愛目的? 見たいな感じで入ってくるから、いつも仕事が手に付いてないみたいで、委員長とか先生に怒られて辞めちゃうんだ」 「それは……まぁ、ご愁傷様です」 全員が大きくため息をついた。顔が良いって本当に大変なんだと実感する。 なら、人が欲しくて当然か。 しかし、私ではなくても良いと思う。女子は私だけではないのだから。 は! もしかして! 「私なら、そんな恋愛に現を抜かすように見えなかったから、勧誘しているのですか!?」 確かに君らが美形だとすら気づかなかったから、そういう状態にならない自信はある。 それが選ばれた理由なのかもしれない。 うん。それが一番納得がいくね。 「んー。それとは違うかな?」 ばっさりとその理由は切り捨てられた。 「何が違うのかね、尾浜君」 少し考えた後、尾浜君はウーロン茶の缶をテーブルにおいて、 「さんは、頼まれたら断れないタイプだから行けるんじゃないかって。長いものには巻かれちゃうタイプじゃない?」 「ひ否定をしたいのは山々だが、否定できるだけの材料が無い……!」 にっこりと微笑む尾浜君にたじろぐ。あぁ、やっぱり彼が一番抜けめない。 あぁ、そうですよ。基本、物事は断れないですよ。 断っても、気づいたら引き受けてしまってるタイプなんですよ! 早く言えばお人よしなんです! だから初めて会ったときに弁当とか分けてしまったんです! 今更後悔しても遅いが、一応叫ぶ自分。はは、やけくそすぎて涙でそうだわ。 「だから、人材的に欲しいんだよね。それに女子がいると、花とか言う以前に、女子の声も委員会に届くからさ」 久々知君は少し考え込んでそう言った。 「……そうですね。私も相談するなら女子の方が良いです」 「でしょ? だから、女子を入れて、委員会の力を伸ばしたいっていう理由もあるんだ」 「なるほど……」 冷静になってみて彼らが必死になる理由が分かった。それは確かに女子を勧誘したいだろう。 「……皆必死なんだよ。自分の委員会大事だし、それに、一人でも入れば後輩の負担もなくなるからな」 ぽそっと呟いた三郎君の表情もどこか険しく、辛そうだった。 「…………意外に後輩思いだったんですね、三郎君」 「どういう意味だ!」 「そのまんまです。……まぁ、理由は分かりました。しかし、私は君たちの事も良く知らない上に、委員会も良く知らない。ここはしばらく時間をもらえないかね?」 「……てことは、暫くしたら、どこかの委員会に入ってくれるの?」 「雷蔵君、話が飛びすぎです。自分に出来そうな委員会があれば入りますし、入らなくても、出来そうなことがあればお手伝いはしますよ。……だって、私たち友達でしょ?」 二回目の再開のときに尾浜君が言った一言を口にする。 確かに委員会みたいな仕事は出来ないかもしれないが、手伝うくらいなら出来るさ。 冊子作ったりとか、ウサギ小屋の掃除くらいなら何とか。 それを言うと、竹谷君が目を輝かせて、 「ー! お前なんて良い奴なんだ! お前みたいな良い奴見たことない!」 「それはどうも。私も君のように純粋な人を見たことないよ」 「……本当にお前女か? なんか、男同士の友情目にしてるみたいだぞ?」 「三郎君、よく言われますが、生物学上女ですよ。君は頭だけでなく、眼も悪いんですか?」 「雷蔵、こいつの写真撮って、七五三とかクラスのやつらに言っとけ!」 「まぁまぁ。毎回おかず貰ってるんだからさ。そんなこと言わないの」 「それにしても、こんな風に普通にこの輪の中に溶け込む女子を俺は初めて見た」 「……尾浜君、それは褒めてるんですか?」 「褒めてるよ。だって、俺らの顔じゃなくて近寄って来たの、君が初めてだからね」 近寄ったのではなく、強引に引き込まれた。と言いかけたのは飲み込んでおこう。 「じゃ、改めて。みんな、よろしくです」 深々とお辞儀をして、ようやく、私は彼らの仲間入りを果たした。 これからどうなっていくのやら。 食堂に入ったの、満更悪くは無かったのかもしれない。 作者より なんだかんだ言って、さり気なく打ち解けてる主人公。 さり気なくが好きです。 2010.6 竹中歩 |