甘味系男子


「行きたいけど、無理……だよねぇ」
「まぁさすがに二人ってわけにはいかないでしょ?」
 全ての授業が終わって帰りのホームルームも終了した二年A組窓辺の席。そこにいたのはこのクラスの生徒と隣のBクラスの生徒。別段珍しい組み合わせではないが、共通委員会に所属している彼らが二人揃って佇んでいるのが珍しかった。
「おや? もしかしてそちらは雷蔵君かい?」
 廊下側からよっと手を上げてこちらの声をかける人物に二人は目をやる。
ちゃん?」
「C組も帰り?」
「うん。今ホームルームも終わった。それで帰ろうとしたら尾浜君と雷蔵君と言う二人が目に入った」
 失礼しますと言ってはA組に足を踏み入れる。いつも美味しいものが入っていると言う既に学園の伝説に近い紺色の鞄を持って。
「どうしたんだい? いつもなら二人とも委員会だろうに」
「あ、図書委員会はね中在家先輩が三年生の話し合いに出て休み」
「うちも今日は特になし」
「ほう。そうなのか。だから二人がいたんだね。となると三郎君は?」
 基本的に雷蔵がいる時には側にいる三郎の姿が今は見当たらない。勘右衛門と同じ委員会の彼も今日は休みの筈なのだが。
「えーっと……小規模喧嘩中?」
「え」
「そうそう。そんな感じ」
「そうなのか。二人とも三郎君と喧嘩中?」
「あーうん。ついでに言うと二人揃って兵助とも喧嘩中」
「大変だね。理由は聞かないでおくよ」
 皆色々あるだろうしと言っては外に目をやる。
 この様に深く人に探りを入れない所が本当にらしいと多分友人がいたら語るだろう。めんどくさいと言うのが本人の理由らしいがどちらにせよ、こちらから言いたくない時に聞かれないと言うのはありがたい。
「そう言えばちゃんは今日まっすぐ帰るの? 友達いなかったみたいだけど」
「いえ、真っ直ぐではなく寄り道する予定です。友人とは昨日駅前のファミレスに行きましたから」
「寄り道?」
「はい。隠れ家的な甘味処がありまして、そこに久しぶりに行こうかと」
 名前はとが口にした瞬間、勘右衛門と三郎はに向かって深く頭を下げた。
「連れて行って下さい」
 奇しくもその場所は二人が行きたがっていた場所と一致したらしい。




 そこは駅とは正反対にある住宅街。その一角に店を構えるモダンな造りの黒を基調とした建物。
 二階は住居らしく、一階の玄関にだけ看板代わりの大きなえんじ色の暖簾が掛っており、達筆な毛筆で店名が書かれていた。最初こそ店構えでちょっと引けてしまうが、暖簾をくぐると底にいるのは子供を幼稚園へ迎えに行った帰りのママさん。恋愛の話で盛り上がる女子高生。休日を満喫しているキャリアウーマンと思しき女性達で賑わっていた。
 しかし、ありがたい事に馬鹿笑いをする気配もなくお店の雰囲気と一緒でとてもなごむ雰囲気のお店だ。
「あ、様。いらっしゃいませ」
「どうも。奥の席空いてますか?」
「はい。少々お待ち下さい」
 お店のモチーフだろう。えんじ色と黒であしらわれた前掛けの様なエプロンをしている二十代後半くらいの女性が笑顔で席を案内してくれる。そうして漸く三人は座る事が出来た。
「さ、座ってください」
「し、失礼します」
「失礼します」
 と面を合わせる様に窓際に座る雷蔵と、その横に座る勘右衛門。何処となく緊張している様に見える。
「えーととりあえず頼みましょうか。ここは学生が使うだけあって甘味は大体五百円以下ですから」
 和紙で作られたメニューを二人に向けて広げる。すると二人は緊張していたのがまるで嘘の様に目を輝かせてメニュー表に喜ぶ。
「あー……どうしよう! 和風なパフェ食べないなと思ってたんだけど、黒蜜アイス特製和三盆サブレ添えも気になる」
「黒豆アイスの最中も良いけど、黒糖ゼリーのクリームあんみつも捨てがたい!」
 まるで乙女かと叫びたくなるほど二人はキャッキャとメニューの内容を読み合い、それも良いね等と会話しながら目的を絞り込んでゆく。
ちゃんはどれにする?」
「私ですか? 毎回結構適当なんですが」
「え? まさかの適当!?」
「はい。その都度色んなものに挑戦はしてます。それにここは女性向けなのかお団子も小さいものが普通より多く刺さっているなど食べやすさも重視してくれていますので、一度に何種類か頼んでみたり。お二人は決まりましたか?」
「あ、俺は黒糖ゼリーのクリームあんみつ!」
「僕はあー……うー……」
 どうやら雷蔵の悪い癖が出たらしくまた悩み始める。
「雷蔵君は何と迷われているのですか?」
「期間限定抹茶の和風パフェと黒蜜のアイス。……あー」
「わかりました。では、」
 すいませーんと大きくは叫ぶ。個人経営店なのでもちろん呼び鈴などは無い。不便ではあるが寧ろこの店にはその方が似合っていた。
「黒糖ゼリーのクリームあんみつと期間限定抹茶の和風パフェ。あと黒蜜のアイスと確か最中単体でも売ってましたよね?」
「はい。中身は何にいたしますか?」
「黒豆アイス。以上四点で」
「かしこまりました。様はまた新しいのですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます。では、お作りしますね」
 クスクスと笑ってこの店で唯一の接客スタッフと思われる女性は厨房へと歩いて行った。
「今ので間違いありませんか?」
「う、うん。でも、ちゃん何頼んだの?」
「黒蜜アイスと黒豆最中の両方です。聞いていたら食べたくなったので。雷蔵君、あとでおすそわけしますよ」
「え? 本当? ありがとう!」
「いいなー雷蔵」
「大丈夫です。尾浜君にも最中半分差し上げますから」
「まじで? ありがとう!」
 まるで本当に女子会の様に盛り上がる三人。は一度お手洗いに席を外し、その後は今度来た時はこのメニューを頼もうなんて他愛もない話をしていると頼んでいた商品がテーブルの上に並ぶ。
「おまたせしました。アイスが解けやすいので気を付けてください」
 ことりとテーブルにおかれた商品に再び野郎二人は目を輝かせた。
「あぁ! こう言うの食べたかったんだよね!」
「本当本当!」
 では、いただきますと行儀よく声を揃えて食べ始める。味の方は、
「雑誌に出ていただけあるね!」
「この黒糖ゼリーだけでも行けるほどいい塩梅」
 盛り上がる雷蔵と勘右衛門を確認しては黒豆アイスに別添えと言う形で付けられていた最中の上を半分ぐらいに割ると片方には黒豆アイスを。片方には黒蜜アイスを乗せてそれぞれに手渡す。
「早めに食べられてください」
「なるほど。そういう方法があったんだね。どうやっておすそわけしてくれるのかなって思ってた」
「ここのアイスの最中はしっかりと焼かれているのが特徴なのでこれが出来るんです」
 もう言うまでもなくはかなりの常連なのだろう。先ほどの店員の会話や席の指定などを見るに余程この甘味処を贔屓にしているとみられる。
「ありがとうな。でも、さんが一緒に来てくれてよかった。やっぱり野郎二人じゃ入りにくかったよ」
「そうなんですか?」
「うん。実はね、ちゃんが声をかけてくれた時丁度このお店が雑誌に載ってて行きたいねって言ってたんだ」
 どうやら二人が窓辺でしていた会話はそう言うことらしい。は黒豆アイスを一口すくって口に運ぶ。
「うまー……あ、失礼しました。でも入ろうと思えば入れるのでは結構な人数の男子が集まれば恥ずかしくないと思います。世の中スイーツが好きな男性も多いですし」
 それを言うと二人の動きがぴたりと止まる。
「それ多分無理なんだよね。俺らは別として」
「無理と言うと?」
「三郎と兵助ってあんまり甘いもの得意じゃないみたい」
「ほう。そうなのですか」
「前にファミレスに行った時、三郎にパフェ少しあげたんだよね。そしたら生クリームがくどいって言われて。それから三郎はファミレスでクリーム系頼んでない」
「兵助ははちみつトースト食べてて甘ったるいってさ」
「なるほど。だから無理と言う訳ですね」
 アイスが解けると言う事で、なんとか二人にさじを進めてもらうようお願いする。それに慌てて二人は行儀が悪いこと前提に食べながら会話を進める。
「それにここまできたら暴露しちゃうけど、実はそれが喧嘩の原因」
「まさかの甘味喧嘩!」
「今日の昼休みに一応誘いかけたんだけど、それを思い出しちゃって。二人はやっぱり無理だよねって言ったら小さくそうだねとかああって返事返されて」
「それで気付いたら軽く話聞いて貰えなくなっちゃったわけ。なんか最初から甘味処なんて選ぶなよって感じの雰囲気でさ。まぁ、二人の好みを考慮せず誘った俺らも悪いんだけど」
 会話がひと段落つく頃、三人の机の上から甘いものは姿を消していた。それでも話は続く。
「竹谷君はどうなのですか? 名前が出てきておりませんが」
「ハチは基本的に食べ物なら何でも良いけど、今回誘ってみたら俺はパスだってさ」
「委員会があったんだと思うよ」
「なるほど……。あ、ちょっと手を洗って来ます。手に少し黒蜜が付いてしまったので」
 が席を立ちあがり化粧室へと入ると同時にいらっしゃいませーと言う言葉聞こえ、勘右衛門の耳には聞き覚えのある声が届いた。そしてしばらくすると自分達と同じ制服に身を包んだ三人の男子高生が姿を現す。
「あ、本当にここだったんだな」
 よっとにこやかに笑う八左ヱ門の後ろにはまだ不機嫌モードの兵助と三郎。その二人がいた。
「あのあと気になってさ。お前らどうしたのかなーと思ったらとここに行くって言ってたって話をA組の奴らから聞いて」
「それで追いかけて来たの?」
「うん。ついでに仲直りすればなって思ったんだけど」
 まだ無理か?と言う八左ヱ門の言葉通り既に二対二の目線による喧嘩が始まりそうだった。
 そこに戻って来たのは誰でもない。思わず、
「うぉ、密集率高っ!」
お前も同罪だぞ」
「なんの!?」
 話が分からないは三郎に頭を軽く小突かれる。
「げ、現状は良く分かりませんがまだ四人が仲たがいしていると言う事だけは分かりました。とりあえずここは外に出ましょう。お店の中ではご迷惑が掛ります」
 ぎゅうぎゅうと野郎五人を何とかレジ付近まで押しだし、は会計を頼む。
 今回はそれぞれ頼んだ物のみを支払った。本当はきっちり割り勘にするべきだと勘右衛門と雷蔵は訴えたのだがは自分が頼んだのだからとこれを聞かなかった。
 結局自分の食べたものとお土産と思われる商品と共に彼女は会計を済ませる。
「丁度千円ですね」
「はい。じゃきっかり千円で。あとポイントカードお願いします」
 お財布からカード取り出し、それを受け取った女性がカードの処理をしていると少し印鑑の付きが悪いと言う事で店員の女性は住居スペースへと走って行く。
「んー、ちょっと時間かかるかも。それにしても……」
 くるりと視線を向けてみるが相変わらず険悪なムードの四人が玄関を出てすぐの所で目力だけの戦いを繰り広げている。それをみては溜息をつき、唯一の仲介である竹谷を手招きで呼ぶ。
「竹谷君。これ持ってそこの公園で話し合いしてきて」
「え?」
 それはがお土産の商品ですと女性から手渡された袋だった。
「中にお団子五本入ってるから」
「五本? あれ? 六人だけど……あ、金足りなかったか?」
「いいえ。元々私入る予定じゃなかったから五本しか買ってないです。それ君たちへの土産」
「おまっ! 俺が金出すからお前の分も買えよ。それでお前も食うの」
「えー。めんどくさそうだからそのままほったらかして帰ろうかと」
「却下。ほら、何か買ってこいよ金やるから。こう言う時はみんな平等が良いんだよ」
「ふむ。平等か」
 丁度二階から降りてきた女性をひっ捕まえて竹谷はこいつにも団子をと頼んだのだがは自分でやるからとりあえずそこの公園に行けとまるで犬を叱るかのように野郎五人を先に公園へと向かわせた。そして今度こそ団子を手に持ったが駆け付け漸く六人で落ち着いた会話が始まる。
「変化なし、ですか」
 ベンチに座ってはいるものの目線を合わせない。その光景を見て大きくため息をついたは団子が入っていると言っていた菓子折を開ける。
「とりあえず食べてください。腐ります」
 そこには竹谷の指示通り六本の団子が入っていた。
 しかも一つの串にみたらしや餡子、海苔にずんだと醤油の五色が一個ずつ刺さっている。
 これには思わず甘いものが苦手だと言っていた三郎も小さくおっと呟いた。そして一本ずつ手に取り、六人はそれを黙々と食べ始める。
「ずんだって緑色で綺麗だよね。初めて食べたけど」
「海苔も香ばしくって美味しい」
「でしょう?」
 先ほどの店の中の会話の様に三人だけは沸き上がる。それにつられて竹谷もそうだなと相槌を打つが二人だけは黙ったまま。それを見て勘右衛門と雷蔵は無理しなくても良いのにと言う。
 それを聞いて徐には喋り始めた。
「お二人は多分、無理はしていないと思いますよ」
「え?」
「不味いって顔はしていないですから」
 雷蔵はの言葉にどう言うことかと問いかける。
「暫く一緒にお弁当を食べていますから、不味い時の顔は分かるようになりました」
 じっと二人以外の四人が視線を注ぐ。
「久々知君は以前はちみつトーストを食べて駄目だったと伺っております」
「あ、うん。あれは甘かった」
「でしょうね。元々お豆腐の味が分かる位ですから甘いものは余計に分かるでしょう。だから久々知君にはお醤油味の団子が良いかと思います。醤油は薄味ですがほんのり甘いです」
 その指摘は確かだった。五種類の中で一番自分の舌にあったと思ったのは醤油。これならまた食べたいと思うほど、甘味処が作る団子としてはさっぱりとしている。
「三郎君はクリームがくどいのでしたか」
「ん」
「ファミレスのクリームは大抵くどいですからね。しょうがないと思います」
「……まぁな」
 団子を食べあげて串だけを咥えている三郎はぶっきらぼうに答える。
 しかし、こうなると雷蔵は腑に落ちない。
「あのさ、ならどうして今回の件で不機嫌になったの? 甘いもの大丈夫だったら最初から怒らないよね?」
「……甘味処は関係なかったんだと思いますよ、雷蔵君」
 完食した団子の串を二つに折り、ゴミ箱へ放り投げたは笑う。
「仮にお二人は甘いものが得意でなかったとしましょう。でもこのお二人なら苦手な場所に誘われたとしてもそれが仲の良い皆さんならついて行く」
「まぁ、確かにそうだわな。いつもなら文句垂れつつも付き合うのがこの二人だし」
「竹谷君の言うとおり。だから二人が不機嫌になった理由は甘味処へ誘われたのではなく、誘っても無駄だと思われた事がお二人ともショックではなかったのかと。私もそうですから。友人が楽しそうにお喋りしながら行こうとしている場所に誘われかけたのに誘われなかった。たとえそれが苦手な場所だとしても。……何だか自分だけ仲間外れにされている気がしますからね」
 それを聞いた竹谷がなるほどと手を叩く。
「三郎君に関してはそれが完璧に出ているようです。甘いものが大丈夫と言うのが何よりの証拠。大丈夫ならお二人の推測で怒る訳ないですし。久々知君も甘い物、そこまで嫌いじゃないですよね?」
「え? どうしてそう思ったの?」
「甘酒飲める人が甘いもの嫌いっておかしいでしょ? 単に度が過ぎる物が嫌いなんだと思いました。はちみつなんてその良い例です」
 あ。
 思わず男子四人の声がそろった。
 夕焼けがそろそろ本気で夜になろうかと言うくらいの時間になり、どうやら和解への道は開けたらしい。
「それではあとは皆さん次第ですね。私は帰りますゆえ」
 じゃ!
 と眩しいばかりの作り笑顔で素晴らしい推理を披露したは家路へと消えて行った。
「……恐れ入ったな、さんの推測」
「違う違う。あいつは食べ物を基準にしたから今回の件が分かっただけだ。これが違う理由なら分かんなかったんじゃね?」
 あー、疲れたと大きく伸びをする三郎に兵助は確かにと笑う。
「だけどお前ら偉い子供じみた理由で拗ねてたんだな」
「勝手に俺らを甘いものが駄目って思い込んだ二人が悪いんだ」
「そうだ、そうだ!」
「でも生クリームとかあえりねぇって叫んだの三郎じゃん」
「……毎回生クリームてんこ盛りのパフェを目の前にしたらそうも言いたくなる」
「それって雷蔵のパフェの事?」
 喧々囂々と今度はじゃれる様な喧嘩が始まる。そんな彼らの元に走ってくる女性の姿。
「あ、あの!」
 それは少し息のあがった先ほどの店員だった。甘味を食べてもらったことへ丁寧にお礼を良い、五人は代わりにご迷惑をおかけしましたと首を下げる。
「それなら大丈夫です。元々様が一番目立たない場所を最初から指定されていたので」
さんが?」
「ええ。きっと女性が多かったので男性は緊張してしまうかもしれないとの計らいだと思います。ご利用される時、いつもその方にあったお席を指定されるんですよ」
 風邪をひきかけているというご友人の時は日当たりの良い席を。
 イケメンを見つけたいというご友人の時は玄関すぐそばの席を。
「何気にやっぱり面倒見がいいな、あいつ。あ、そうだ! 俺追加分の団子代あいつにやってない! すいません、が追加した分の団子代いくらですか?」
「え? 追加ですか?」
「はい。元々五本しかなかったから、俺があいつにお前の分も増やせって言ったんですけど」
 そう言うと女性店員はああと大きく声を上げた。
「確かに六本にいたしました。でも、追加はされていないですよ?」
「へ? でも、増えてるんじゃ……」
「串の刺し方を変えただけです。当店ではバラバラの味が同じ串に刺さっている物は販売しておりません。今回ご注文された内容は様のご指定で」
 言っている事が良く分からない。八左ヱ門が首を傾げていると兵助が今度は声を上げた。
「もしかして、元々は餡子、みたらし、海苔、醤油にずんだってそれぞれ一種類だけで構成されてたんですか? 一本の串に本来なら六個の団子が刺さっていたと言う」
「はい。それをばらして一つの串でいろんな味を楽しめるようにと様が言っておられました」
 考えてみれば一つの串に五種類の味が刺さっていた。それが六本と言う事は団子の数としては三十個。五本にしても六本にしても割れる数である。
「そう言えばここのお団子は小さめに作られてて、それがたくさん刺さってるのが特徴って」
 ちゃん言ってたと雷蔵も頷く。
「俺の言いつけ平等にを守って、しかも代金を発生させずにするとはね」
 大した奴と八左ヱ門は笑う。
「それで、あなたはどうして?」
「あ、そうでございました。ポイントカードを返し損ねてしまい、お渡ししようと思ったのですが」
「あ、なら俺らが返しておきます」
 勘右衛門はありがとうございますとお礼をする女性からえんじ色の二つ折りカードを受け取る。
「今度ちゃんにお礼しなきゃね」
「何か食いもんやっとけばいいんじゃない?」
「だけど、舌はそれなりに肥えてるよさん」
「驚かせる何かがあれば良いけどね」
 後日、はこのお礼と言うものを予想外の形で受け取ることとなる。



「すいませーん! お会計!」
 休日の甘味処。そこには久々に女の子の友人たちと休みを楽しむの姿があった。そのお財布にはちゃんと返してもらったポイントカードの姿もある。それを確認してレジに差し出したのだが、
「あ、ポイント満タンですね。今日のお会計千円引きになりますよ」
 えっと驚いてはポイントカードに目を通した。おかしい。まだ半分くらいしかたまっていなかった筈なのに今は空欄はどこにもない。
「はて? もう呆けたか?」
「さぁ、どうしてでしょうね?」
 気の所為か店員の女性がクスクスと笑っている。
「まぁ良いか。小さい事は気にしないことにしよう。割引お願いします。おおーい。みんなの分安くなるよー」
 のポイントカードが彼女の手にちゃんと戻る数日間の間。なぜかこの甘味処にそれなりにイケメンの男子生徒の姿が頻繁に目撃されたというのはまた別のお話。 





作者より
結局女の子の方が一枚上手なんだぞー。と言う心意気の元出来たお話です。
これを機会に主人公は勘ちゃんや雷蔵と甘い物をめぐれば良いかなと思います。
しかし食べる事は何でも知っているのが主人公なので、皆で食べれる甘い物を知っているでしょう。
2011.12 竹中歩