彼――― 伊賀崎孫兵は基本的に独りでいる事が多かった。 人が嫌い、なれ合いが苦手といった込み入った理由が訳でもない。その証拠にクラスは違えど三之助や左門、作兵衛に藤内、数馬と友人もいる。 だが、何故か独りで過ごす事が多いのだ。 教室でぼーっと空を見ていたり、移動教室の最中もぼーっとしていたり、つまりは何かを考えている時間が多い。よって、一人の時間を苦痛とも感じない。それもその筈だ。彼が何か考えているときは大抵大切な存在である動物達の事を思っているからだ。 飼育委員に所属する彼には動物の友人が多く、その子たちの事を考える時間は同級生と一緒に話す事にすら値する時もある。 だから、休日の学園で彼が物思いに空を見上げながら、小川に足をおろし、涼を取っているのも珍しくはなかった。 すごい、すごい! 「ジュンコ、涼しい?」 手先を小川の清流に浸し、その指で軽く目の辺りを撫でてやると彼女、ジュンコは目を細めた。 蛇なのであまり冷やしすぎるのは良くないが、この残暑が厳しい今日。これくらいなら問題ないだろう。 本当はもっと涼しい場所へと連れて行ってやりたいが生憎、本日学校は休み。室内はどこも鍵がかかっていて開いていない。 体育館など生徒のいる場所へ行けば影もあるだろうが、その分人間の密集率で気温が上がっている筈。 そんなところに動物を連れて行くのは可哀相だと思い、孫兵は少しでも涼しい場所をとこの小川を選んだ。 お陰で少しは涼しい。素足に伝わる水の冷たさがここへ来てよかったと思わさせてくれる。 だが、いつまでもこの場所へいるわけにもいかない。 彼には脱走したジュンコを元の場所へと戻す義務があるからだ。 だからどうにかして彼女の飼育ケースがある学校の中へと入らなければならないわけだが、鍵が開いていない今の状況でそれをどうにかする術は何処にもない。 なので、彼はこの場所でジュンコと二人、途方に暮れていた。 「お前だけが校舎に入れれば問題ないんだけどね」 白い孫兵の肌にぴったりと寄り添う深紅と深緑のまだら模様の蛇は頬ずりをする。 申し訳無さからか。はたまた、単に甘えたいだけなのか。彼女の真相は良く分からないが、孫兵にとってこの時間はとても愛おしいものらしい。 飼育委員で保護する動物と過ごす時間は彼にとって至福の時。 無論、他に保護している動物だって愛おしい。でも、学校に入ってからほぼ一緒にいるジュンコは特別。だから、彼女といる時はその至福の時が更に嬉しい時間になる。 「でも、お昼になる前にどうにかしないとね。……いくら大丈夫だって言っても皆噛むとか言って怖がるし。そんな事お前はした事ないのに……」 先生に頼んで鍵を開けてもらおうか? でも、そんなことすればまたジュンコが脱走したのがばれてしまう。そうなると飼育委員会じゃ保護しきれないとみなされ、ジュンコがどこか遠くの施設に入れられてしまうかもしれない。 もしくはギンギン五月蠅い生徒会に経費を削減されてしまうかもしれない。 どっちにしろこの事は内密に事を運ばなければいけいない。 なんて、事を思いながら一人で考え込んでいると、 「おや。孫兵君発見」 するりと自分の世界に入りこんできた声に驚き、孫兵は声の方向へと振り返る。 「……先輩?」 「おはよう、孫兵君」 そこにいたのは孫兵より二つ年上の先輩、の姿。 夏服を身にまとい、両手になぜか牛乳瓶を二つ持ってにこやかに近づいてくる。 「いやー、まさか孫兵君がいるとは。今日は学校休みなのに。あ、隣座っても良い?」 「どうぞ」 にこっと笑うとは靴とソックスを脱ぎ、孫兵と同じように小川へと足先を付ける。 それを見ていて、孫兵は思わず言葉を零した。 「……足先しか水に浸かれないんですね」 「言われると思った」 は身長が低い。なので、孫兵の様に足を脹脛の辺りまで水に付けることが難しいのだろう。考えてみれば、小川と腰をかける段差は結構あるのかもしれない。遠回しに彼女の身長が低いと指摘してしまったので少し焦ったが、なんてことはない。は先ほどと変わらない笑顔を浮かべている。 「だけど、孫兵君は何故休みの日なのに学校にいるんだい?」 「この子たちの事が心配だから、ですよ。僕は休みの日でも学校にいる事が多いんです」 「あぁ、なるほどね。納得」 飼育委員である自分に休息などないと孫兵自身は思っている。保護している以上、動物達に万が一の事が起きてはいけない。そう思うと休日だってなんだか落ち着かず、気が付けば学校へと足を伸ばしている。 ジュンコは大丈夫なのだろうか? キミコは元気なのだろうか? そう言えば、あの子は昨日元気がなかった。 なんて落ち着かない状態で家にいるくらいなら学校にいた方が良い。だから自分は学校にいる。 「それに、こうやってこの子たちとゆっくり時間が過ごせますから。僕は休日に学校に来るのは嫌じゃないですよ」 嬉しそう表情で孫兵はジュンコの頭を撫でる。 学校にいてもなかなか会えない彼女。その彼女とゆっくり会話が出来るのは放課後や休日に限られる。 まぁ、本当は今の様な時間はあってはならない。なにしろジュンコは脱走しているのだから。 「あ……今気付いた。ジュンコちゃん、おはよう」 思わずその台詞にキョトンとした。 ジュンコと言えば緋色と深緑のまだら模様の蛇。物凄く存在感があるので気付かないわけがないのだが、それに今気付いたと言うのはどれだけおっとりしているのだろうか、この先輩は。 「先輩って本当にマイペースなんですね」 「……誉められているのかね? それは?」 「あんまり褒めてはいないかもしれません。でも、ありがとうございます」 行き成り孫兵に感謝の言葉を述べられたと言う事もあり、は首をかしげる。 私、なにかした?と言いながら。 「ジュンコの事、怖がらないでいてくれますから」 印象のあるつり眼が少し柔らかくなる。 こう言っては悲しくなるが、自分は大半の生徒から恐れられている。それは誰でもないジュンコが基本的に側にいる所為だろう。だから、一番最初に自分を見た人間が確認するのは、まずジュンコが自分の側にいないかと言う事。それを確認してから漸く生徒は自分と話し始めるのだ。 だけど、は違った。皆が一番最初に確認するものを確認せずに、ちゃんと自分を自分としてとらえ近づいてきてくれた。それにジュンコを確認してからも恐れる事はせず、自分と会話を続けてくれている。だからそれが嬉しくお礼を言ったのだ。 「全く怖くはない、訳ではないんだけどね」 「側にいれるだけで十分凄いですよ。女子の方なら尚更です」 きっとこれが普通の女子なら既に脱兎しているだろう。もしくは泣き出してパニックになるか。でも、彼女はそうはしなかった。じーっとジュンコを見た後、震える手でちょんと指先だけジュンコに触れる。本当はちゃんと撫でてやって欲しいが、今はこれが精一杯らしい。だけどそれでも自分には嬉しい行動だった。一生懸命にジュンコに慣れようとしてくれる仕草が。 「よし。今日は頭を触れたぞ、孫兵君」 「じゃ、次は手の平で頭を目指しましょう」 「うむ。頑張ってみるよ」 小さくガッツポーズを取るは孫兵にとって小さな子どもの様に映った。少しの出来事で一喜一憂する。言っては何だが、本当に先輩らしくない先輩だ。そして、女子らしくない女子。だからこそ、こんなジュンコを交えて女子としゃべる事が出来るのだろう。 「あ、そうだ。温くなるところだったよ。良かったらどうぞ」 は傍らに置いていた牛乳瓶の存在を思い出す。 それは栗色の液体。瓶の表面には冷えている証拠に幾数もの水滴が付いていた。 「コーヒー牛乳だってさ。さっき先生に貰ったんだ。牛乳飲めるかい?」 「あ、大丈夫です。ありがとうございます」 から瓶を受け取ると、やはり彼女はにぱっと笑った。 そして瓶の上に付いている薄い紫のビニールシートを外し、爪先で紙製の蓋を取り去る。ポンと言う小気味よい音を立てて、漸く飲み口が出来上がった。 「いやー、さっきさ進路指導とかで呼び出されてね。それで話が終わったらくれたんだ」 「進路指導?」 「うん。高校二年になるとねー、やっぱりそう言うのが増えるんだよ」 そう言えば飼育委員化委員長代理である八左ヱ門もそんな事を言ってたなと孫兵は思い出す。まぁ、あの人はこの先輩みたいに真剣には考えていなさそうだが。 「二年生っていろいろ大変なんですね」 記憶の糸口をたどりながら孫兵もコーヒー牛乳の封を開ける。いただきますと言って液体を口に運ぶと、コーヒー牛乳独特の甘さが喉を通り越す。 「あはは。私も去年まではそう思ってた。二年生になったらいろいろ大変だろうなーって。でも、今はなってよかったと思ってる」 「そりゃ、留年するよりは良いですよね」 「おう……毒を吐かないでおくれ。そう言う意味じゃなくて、こうやって孫兵君やジュンコちゃん達と知り合えたのも二年生になったからだもの。だから、なってよかったなって。そうそうある縁じゃないしね」 少し照れくさそうに笑った後、漸くもコーヒー牛乳を飲み始める。その姿は先輩なのだけど、小さな子どもにも見えて何となく違和感。でも、自分たちと出会えた事を喜んでいてくれているのでそんな違和感どうでもよかった。 「ありがとうございます」 「? どういたしまして」 だから感謝の言葉を述べたのだが、彼女はそこまで言われると思ってはいなかったらしくちょっと驚いた表情でその感謝に対する言葉を返した。 そして暫くしては自分の腕を見ながらある質問を投げかけてくる。 「あのさ、ずっと聞こうと思ってたんだけどね」 「はい。なんでしょうか?」 「その腕の紐って何?」 牛乳瓶を持っていない左手でが指さしたのは、孫兵の左腕に縛られている荒縄の様な物。位置は二の腕の辺り。ちょうど腕章などを携える位置で制服の上から縛ってある。少し紺色がかった何かを編んだような紐は学校の制服に違和感を与えていた。 「それって今流行ってるの? アクセサリーの一つ?」 「はは、違いますよ。これはですね、僕とジュンコの繋がりです」 徐に縄をはずしたかと思うと、それを見ながら孫兵は落ち着いた温かい声でにそれを見せる。 「これはね、火縄なんです」 「火縄? っていうとあれかね? 火縄銃とかに使う火縄?」 「そうです。歴史の授業の時に写真で火縄銃が出てますよね? あの着火部分です。火薬を仕込ませた縄」 そう言った途端、の顔が青ざめる。 「か、火薬!? そ、そんな危ない!!」 「大丈夫ですよ。火縄と言っても作り方をまねてあるだけなので、今は火薬も入っていません」 「で、ですよねー……。あー、びっくりした」 冷や汗をかいたのだろうか。額に手を当てて何かを拭う仕草をするを見て孫兵は笑う。 「そうやって慌てて止めようとするところを見ると藤内達や竹谷先輩を思い出しまた」 「あ、やっぱり皆止めたんだ? そりゃそうだよ、やっぱり最初は止めるよ。火薬って言ったら危ない事分かってるもん。だから花火だって危ないって書いてるんだから」 「確かにそうですね。でもね、先輩。戦国時代とかは、毒蛇に毒虫にかまれた時はその火縄で傷口ごとふっ飛ばしてたんですよ?」 「え……」 それはあまり語られる事のない歴史だ。でも昔はそうだったらしい。血清や薬なんかがない時代はそうやって来た。 「傷口をふっ飛ばすなんて半端なく痛い筈ですけど、僕はそれくらいの覚悟があるつもりでジュンコ達と一緒にいるんです」 目の前にある紐はただの紐ではなかったことを実感する。 それはジュンコ達と孫兵を結ぶ縁。そして孫兵の決意と覚悟の表れなのだ。 「孫兵君よ……」 「はい」 「私は今『本当はやり過ぎじゃないのか?』って言おうとしたんだけど、やっぱり凄いとしか言いようがない。うん、凄い! 君は凄いよ!」 この言葉に孫兵は少し驚く。 本当は茶化されたり、度が過ぎていると言われる予定だった。今までだってそうだったから。でもこの人は違った。 その言葉を止め、途中から自分を褒めてくれた。 自分の行為をちゃんと自分の覚悟だと受け止めてくれた。 まさか真正面で此処まで誉められるとは思わず、笑顔のに思わず顔が熱くなる。 「そうなると、ジュンコちゃんたちは幸せ者だね。今の世の中人間だってそんな風にしてくれる人少ないのに。ジュンコちゃん、良かったね」 しゅるりと赤い舌が伸びるジュンコには笑う。 その顔を見て確信した。やっぱりこの人は凄い、と。 こんな事を素で言えて、蛇であるジュンコを人のように扱い、言葉をかける。 自分が凄いと言うなら、貴女の方が凄いです。先輩。 「孫兵君? なんか大丈夫? 顔赤いよ?」 「あ……大丈夫です。少し暑さに弱いだけなんで。肌も白いので余計にそう見えるだけです」 「そうかい? まぁ、大丈夫ならいいが……。あんまり無理しちゃいけないよ?」 「ありがとうございます……」 なんとか赤い顔をごまかすためにコーヒー牛乳を一気に流し込もうと思った。 が、そこである事実に気が付く。 「……先輩。そう言えば進路指導で学校へ来たって言ってましたよね? それって進路指導室で行われたんですか?」 「え? あぁ、うん。クーラーが効いてるからって……どうかし」 「進路指導室と言えば、ジュンコの飼育ケースの側じゃないですか!! と言う事は、その近くの靴箱が開いていると言う事では!?」 行き成り孫兵が小川から足をあげて立ち上がるので、一瞬は怯む。 「あ、開いてるよ? 進路指導室のある廊下の突き当たりにある古い扉が」 「あ、あの扉今日開いてるんですか!?」 それは開いていない事が当たり前な立てつけの悪い扉。ここに長く在籍する生徒さえ忘れてしまうほど存在感のない扉が今日は開いている。本当に盲点だった。 「今も開いてますか!?」 「多分開いてるんじゃないか? 私のほかにも生徒が来る予定だったぽいし」 「せ、先輩!!」 「はい!?」 「ありがとうございます!! これでジュンコの事穏便に済みそうです!」 深々とお辞儀をする孫兵を目の前にして固まる。 とりあえず、何か言葉を紡ぎださねば。 「そ、それは良かった……。何があったか知らないけど」 「本当、今日は感謝してもしきれません! ありがとうございます! ほらー! ジュンコお家だぞー!!」 側に合った靴を簡単に履くと、孫兵はとてもうれしそうな表情でコーヒー牛乳片手にその場を走り去って行った。 「あ、相変わらず動物の事になると人が変わる子だな……」 孫兵の余りの変貌ぶりにクスクスと笑った後、はコーヒー牛乳を飲みあげ小川を後にした。 そしてそれから数日後のある日。は待ちに待ったお昼ご飯の時間を迎えていた。 しかし、誰かが自分の名前を呼んでいる事に気づく。 「先輩ー」 「おや? 誰だね? 私を呼ぶのは?」 きょろきょろとあたりを見渡せば、一緒にご飯を食べようとしていた友人が廊下を示している。良く見てみると入口に肌が白く、背の高い中等部の男子がこちらを見ていた。 「おや、孫兵君ではないか。どうしたんだい? 竹谷君でも探しに来た?」 とことこと入口に向かうに孫兵は首を横に振る。 「いえ、今日は先輩に様があって来たんです」 「私に?」 「ええ。先日のお礼に来ました」 すっと孫兵はに小さな紙袋を差し出す。オレンジ色に黒の太いラインが二つ入ったモダンな紙袋。大きさは文庫本が数冊入りそうなサイズだ。 「お礼……?」 「コーヒー牛乳のお礼です。あの日はジュンコの事もお世話になりましたから」 「え? あ、あのお礼? でも、私自信が何かしたわけでもないし、それにコーヒー牛乳だって貰いものだから」 「気にしないでください。僕の自己満足ですから」 首元にジュンコがいなくても、彼は笑っていた。それを見て驚いたのはではなく、周りの生徒達。彼もこんな風に笑える子だったのか、と。 「でも……」 「甘いものがお好きだと聞いたので、宜しければ貰ってください」 「甘いものですか!!」 ぴくんと一瞬の頭に何か耳のような気配を感じた孫兵は思わず驚く。 あぁ、なんだ幻覚か。でも、動物だったらそんな動きをしそうなほどは喜んでいた。 「もし、もでよかったら良いんですけど、また何かよさそうなお菓子とかあったら貰って貰えますか?」 「え?」 「結構楽しいんです。誰かの為に何か選ぶって事。あまりそう言う事をしなかったので」 「した事なかったの……?」 「基本、野郎達の中にいますから。ほら、野郎って質より量でしょ? だからそこまで真剣に何かを選ぶって機会がそうそうなくって。だから先輩に喜んでもらえるのは何が良いうかって考える時間は、凄い楽しかったです」 確かに孫兵の周りに女友達がいるところを見た事がない。だから女子の為にこう言う気を使うのは彼にとっては新鮮だったのかもしれない。 「わ、私もあまり気を使われるような人間ではないよ?」 「僕にとっては十分そんな存在ですよ。だから、またお願いしたいなと……駄目ですか?」 少し心配そうな顔をしてこちらを見てくる孫兵に晶子は否とは言えなかった。 「うん。分かった! 了解するよ。何かよさげなのがあったら持ってきて。私も今度は何かするからさ」 「ありがとうございます! じゃ、僕はこれで……」 その嬉しそうな表情に一瞬クラスの女子の数人が目を奪われていたらしい。見た事のない孫兵の笑顔はある意味詐欺だと言っていた。やはり彼も美形なのだろう。 「……と言うわけで、何か貰ってしまったよ」 「ほー、相変わらずまた男前がさく裂して、後輩を魅了したか?」 「む。今回はコーヒー牛乳をあげただけだよ」 むーっと膨れるは友人にすこし悪態をつきながら孫兵に貰った紙袋開ける。 中から出て来たのは動物の形をしたマカロン。パンダやウサギなどがあって、やたら可愛い。 「うわぁ! マカロンだぁ!!」 「ありゃー。動物しか目に入ってない男だから、てっきり『これジュンコの餌で評判なんです!』とか言って虫とか何とか持ってくると思ったら意外にマトモじゃん」 さり気なく孫兵の嫌みを言ったのだが、の心は既にマカロンに奪われているらしく、聞いちゃいない。 「凄いぞ、友人! このパンダはミルクマカロンだそうだ! ウサギは木いちごらしい!」 「あーはいはい。分かった。……しかしながら、伊賀崎君は中々乙女心を分かっていると見た。あれだな、慣れた人間にはとことん優しいタイプだな」 「友人、どれが良い? 私はクマを所望したい。チョコマカロンなんだ」 「あんたが貰ったんだから、あんたが全部食べれば良いんじゃない?」 「何を言っているんだ! こう言うものは皆で食べた方が美味しんだぞ!」 「……この、可愛い奴めー!!」 その日のお昼休みはいつもより賑やかだったのは言うまでもない。 そしてお礼を届けた孫兵は、結果報告の為にジュンコのもとを訪れていた。 「ジュンコー、ちゃんとお礼してきたからね」 話がわかっているのか、ジュンコはしゅるっと赤い舌を三度程出し入れして、感情の起伏を現した。 「次は何を渡そうかな? お前も先輩からもらってるし、今度はお前と二人で何か考えよう」 孫兵にそう言われたジュンコは目を褒め染めて喜んだ。 新しく飼育ケースに加わった透明な空き瓶に体を巻きつかせて。 作者より 主人公は孫兵にとって本当の意味で初めて出来た学校の女友達だと思っております。 更に彼は小さい頃から『女の子には優しくしなくちゃいけない』と思っているので主人公に対して優しいです。 だからこれから主人公を甘やかして行く事でしょう。彼は素でそう言うことをしてくれると信じています(笑) 2010.9 竹中歩 |